木村喜由のマーケットインサイト
2014年9月号
円安加速も株価との連動弱まる

公開日: : 最終更新日:2014/09/19 マーケットEye ,

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

過去1か月間、株式市場はジリ高歩調で推移した。米国では景気指標が総じて順調、欧州ではデフレ懸念からECBが追加金融緩和に動いたことにより、債券が大幅高となって株式への資金シフトを後押しした。現在、世界的な債券バブルが発生しているとみており、押し出される格好で本来なら債券に向かうべきだったマネーまで株式市場に流入し、異例の長期にわたって押し目を作らない上げ相場が発生していると考えられる。

東京市場では8月8日に急落が起きたが、欧米市場はほとんど無傷で乗り切り、出遅れ感が強まった翌週、東京は急反発した。その後は欧米の堅調とGPIFの株式組み入れ比率引き上げ観測から、徐々に上値を試す動きとなっている。

しかしそれ以上に特筆すべきなのはドル円相場の上昇であろう。8月8日には一時101.5円の安値を付けたが、その後ほぼ一本調子の上げとなり、年初来高値を更新、9月10日には106.7円まで到達した。

筆者はこれまでドル円と米国10年債利回りの連動性に注目していたが、8月は利回りが2.56%から2.34%に低下して普通なら円高に向かいやすいところだったが、ドル円は逆に102.8円から103.7円に上昇した。これまで有効だったロジックが機能しなくなったことは、投資家の関心が別のところに移動したためである。

円安デメリットを意識し始めた株式市場

一昨年11月の野田解散宣言から始まったアベノミクス相場では、ドル円と日経225がほぼ並行して上昇、昨年末高値までは大体1円の円安につき430円程度日経225が上昇する関係だったが、最近はドル円の上昇に株価が従来ほど連動しなくなっており、最近はせいぜい250円程度である。

その理由として考えられるのは、消費税率引き上げまでは円安による企業の一株利益および一株純資産の増加を素直に歓迎しておればよかったものが、最近では円安による実質所得の減少、成長率の低下などのマクロ要因の悪化を織り込み始めているのではないかということである。そう捉えると、日米の株価の勢いの格差に一応の説明がつきそうだ。夏場の天候不順の打撃もあって上場企業の利益は市場予想を下回る公算が強まっている。

ドル円は110.5円が限界、日経225は16700円付近で頭打ちか

執筆時点でドル円は106.7円近くまで上昇、これを受けて夕場の日経先物は15870円まで上昇している。ではドル円は今後半年程度の期間にどこまで上昇できるだろうか。筆者の見方では、08年8月高値の110.5円付近がチャート上の重要関門であり、そこまでが限界だろうと見ている。

あと3-4円円安が進むと、1円で250円として750-1000円の上昇余地は見てよいと思われるが、それ以上を望むのは欲張りすぎと思われる。円安が進むほど、デメリットも大きくなって円安抑制に向けた動きが出てくるからだ。順調に行ったとしても、おおまかに言えば日経225で16700円付近では頭打ちになる公算が大きい。

出遅れ銘柄にシフト

個別銘柄のチャートを見ると、ここ数年上げ続け、過去最高値を更新する銘柄がかなり出現する一方、そこそこ利益は上がっているのにまだ安値圏から離脱した程度で、低いPER水準で放置されている銘柄も多いことがわかる。

今高値圏の銘柄は、世界中の機関投資家が買いポジションを高めている結果と考えられるが、彼らは運用競争に負けないために買いポジションを高めに維持している。上げ相場がずっと続いていることは、裏返してみれば悪材料が出た場合に逃げ出したい潜在パワーが蓄積されていると見ることも出来る。だから楽観して相場を見るべきではないと思う。

リスク・リターンを考えれば、主力あるいは高値圏の銘柄は売り上がり、出遅れ銘柄にシフトするのが適切だろう。出遅れ銘柄は利食い・換金売りのショックは小さいと見られるので、新規買い、突っ込み買いの二段構えでよいと思う。

GPIF買いは過大評価

9月中にも政府から公的年金を管理するGPIF改革の正式な発表があるが、資産配分の変更はすでに市場では散々に言われてきた事柄であり、また株式の買い需要については誤解して過大評価されている風に見える。実際には数年かけて目標水準に到達されるべきもので、一気に数兆円の買い需要というのは間違いである。株価が順調に上がれば自動的に組み入れ比率が上がるので市場から買う必要はなくなり、毎年5兆円程度国内債の売却が行なわれると日本株の組み入れ比率は4年で自動的に予定水準に到達するとの試算もある。

懸念している波乱要因は欧州、中国でめぼしい企業の減益決算が相次いだ場合である。低い伸びだが順調な増益というシナリオを投資家は描いており、それが崩れるとマインドの悪化は急速に広がるのではないか。(了)

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