こんな金融商品にご用心
実は高いクラウドファンディングのリスク
未公開株の解禁は時期尚早【下】

公開日: : 最終更新日:2016/04/25 損する前に読め!, 無料記事

楠本 くに代 金融消費者問題研究所代表

前回、英国の金融規制機関であるFSA(現FCA)が、かねてよりクラウドファンディングのリスクについて警告してきたことを紹介しました。
その内容を少し詳しく見てみましょう。

『クラウドファンディング━あなたの投資は守られているか』

◇クラウドファンディングは、ビジネスにとっては資金確保、投資者にとっては投資目的で需要が増えている。
◇資金の使用目的には、起業、ビジネスの拡張、破綻の回避がある。
◇通常の投資より高配当を出しているファンドもなかにはあるが、リスクが極めて高く、高いリターンはまれである。
◇リスク
・ハイリスクで複雑
・返金の保証はない
・事実、スタートアップビジネスの大多数が破綻している(50~70%)ように、投資した額のすべてを失う可能性がある。
・株式を受け取れたとしても、利益の配当はまれであり、また追加の株式発行により持分が希薄化される。
・起業ビジネスが収益を生み出すまでには、かなりの期間がかかる。それまで待たなければならない。
・ほとんどのクラウドファンディングには流動性がない。つまり、返金の主張やキャッシュに換えてくれとの主張が著しく困難、ないしは不可能であることを意味する。また、株式やクラウドファンディング投資を流通させるマーケットがないことにも留意が必要だ。
・詐欺のリスクもある。投資者は自分で自分を守らなければならない。

◇どう自分自身を守るか
・ビジネスやプロジェクトを十分理解せよ。すなわち、どのように、そしていつリターンを得るのか、株を受け取れるのかどうか、ビジネスのリスクはなにか等をクラウドファンディングに投資する前に考えよ。
・捨ててもよいお金以外は投資するな。ほとんどの起業ビジネスは破綻している(50~70%)という事実を知れ。
・ビジネスやプロジェクトやプラットホームが破綻したとき投資したお金はどうなるか、どう守られるかを調べよ。特に、ビジネスが適切なキャッシュをリザーブしているか、保険によりサポートされているかを調べよ。
・ほとんどのクラウドファンディングは、FSA(FCA)に認可されていない。だから、オンブズマンや補償機構の利用対象外であることを肝に銘じよ。

我々は(FSA/FCA)、ほとんどのクラウドファンディングは、◇起業ビジネスをいかに評価すべきか、◇そこに含まれるリスクは何か、◇投資者は投資全額を失うことがある――等を理解しているソフィスティケートされた投資者を対象にすべきと考える。ビジネスやプロジェクトが破綻した場合、投資者は、ほとんどないしは全く保護されておらず、おそらくすべての投資資金を失うことになるのだから、ことさらその点をしっかりと初めに説明されていなければならない。

以上の認識の下、英国では、2014年4月に改正・施行されたばかりのFCAルールで、次のような顧客以外に未公開株等を直接勧誘することを禁じています。

例えば、ソフィスティケートされたリテール投資者/多額の資産を有しているリテール投資者/認可業者の助言等を受けているリテール投資者/ポートフォリオの10%以上(除く、住居、年金、保険)を未公開株等に投資していない投資者などです。

英米は一般消費者がアプローチできないように高い壁

米国の証券取引委員会(SEC)も、ルールの最終案を現在検討中ですが、英国と同様、誰にでも売ってもいい商品とは考えておらず、投資上限額の制限を提案しています。

すなわち、年収または純資産額10万ドル未満の投資者は、1年間に2,000ドル、または年収の5%のうちどちらか大きい金額という制限を設けています。例えば、年収400万円の投資者は、20万円が限度(1ドル=100円の場合)ということになります。

日本も、年収1,000万円未満の者は50万円未満という制限を提言していますが、米国等の規制と比べると極めて、雑駁で、年収の少ない者にも50万円もの投資を認めてしまうことになります。

これでは高い壁にはなりません。英国で憂慮されているネット社会の若者、非正規雇用者、年金生活者等の被害を増やしかねません。
私には、未公開株はリスクから見ても解りにくさから見ても、一般消費者に適合する商品とは思えません。

また、特に日本の一般消費者の特性から考えても、クラウドファンディングに資金を提供できるようなソフィスティケートされた投資者は数少ないのではないかと思います。
したがって、これまでのようにグリーンシートなどの例外を認めつつ、当面、一般への販売を禁止するのが正しい方向だと思っています。

しかし、一方では、国民が社会的意義のあるビジネスやプロジェクトに資金を提供し、陽の当たらない、しかも社会が必要とする分野に資金を供給するというコンセプトには、惹かれます。
また、欧米諸国をはじめ、発展途上国でも、いわばグローバルに、クラウドファンディングが実施されている現実を見ると、否定のみではすまされないとも感じています。

要は、リスクを承知の上で資金を拠出するソフィスティケートされた投資者が育っていて、その善意の投資者は法によって守られ、ソフィスティケートされていない投資者はブロックされるような仕組みがあって、その上で解禁すべきなのではないかと思っています。

どうかんがえても、そうした環境は、まだ整っていません。整えるには、時間がかかります。
グローバルだからといって、また、市場の活性化が最重要課題だからといって、日本の消費者の実態を無視して解禁を急ぐと、必ずや被害が多発し、逆に市場の信頼性を損なう事態になるのではないかと憂慮していることを申し添えます。

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注:政府は現在政省令を作定中である。また、自主規制機関も自主規制の策定に取り組んでいる。9月には公表されるのではないかということが大方の見方である。

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