米国利上げ接近、資源国途上国のデフォルト警戒

ドルが有料化

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10月の米国雇用統計が非常に強い内容だった上に懸念された中国不安が後退したこと、さらに世界的に株価が堅調だったことから、米FRBは12月16日のFOMCでFFレート誘導水準を0.25%引き上げる公算が非常に強くなった。本来なら1年ほど前に利上げしてもおかしくない情勢だったが、議長交代やギリシャ、ウクライナ、中国と微妙な要因が相次いだため、先送りされてきたと解釈している。

利上げ引き延ばしの理由

ここまで利上げを引き伸ばしたのは、超金融緩和に依存してポジションを広げていた投資資金が逆流(リスクオフ)し混乱を引き起こしかねないからだった。しかし米国失業率は自然失業率(いわゆる完全雇用)の5.0%まで低下、時間当たり賃金も前年比2%以上の水準を維持しており、ゼロ金利を維持する合理的理由はなくなった。

リスクオフによる混乱の可能性は依然残っているが、原油価格の急落から1年近く経過し、インフレ率は徐々に賃金上昇率に近づくと見られるため、利上げは待ったなしである。しかしFRBは過度のリスクオフを警戒、今後の利上げペースはゆっくりしたものになるだろう。FFレートはおそらく来年末1%以下、2年後でも1.5%前後と予想するが、短期金利が名目GDPを大きく下回る状況は基本的に変わらない。

ここまでの世界景気堅調は超金融緩和+資源価格バブルだった

世界の金融機能が麻痺したリーマンショックにも拘わらず、その後の世界の経済成長率が想定以上となったのは、先進国が相次いで超・量的緩和により低金利マネーを世界中に散布したからである。それを受けて途上国側も金融緩和を行ったため、長期金利が大幅に低下し、壮大な投資ブームが起こったのである。特に資源国では中国の資源爆買いにより巨額の資金が流入したため、バブルが拡大した。

中国もバブルに悪乗りした。大規模な公共投資、住宅投資により地方財政を回転させながら政府幹部が私腹を肥やす構図の中で、無理にGDP成長率を維持しようとした。だがその咎めが今年になって一気に表面化し、外国企業や投資資金が逃げ出しつつあり、景気後退を招いている(まだメディアはきちんと報道していないが)。

商品市況の大幅下落、設備投資の先行指標である工作機械受注の急減から見て、来年の世界景気はかなり減速するだろう。米国が利上げした後はしばらく為替市場も様子見になると考えられ、これまでのような単純な「円安・株高」シナリオに乗った投機筋の動きは期待できなくなる。

米国が利上げしても円安に向かわない

9月末から1ヵ月半で225、TOPIXとも安値から16.7%前後も急騰したが、これは強引な強気ポジションにより今年の不振を挽回しようとしているヘッジファンドの買いによるもので、この先は反動安の危険が強い。

未発表の損保を除く225採用3月決算193社の純利益は、4-6月34.8%増から7-9月は4.6%減となった。この四半期はドル円が17.6%円安となり、原油安などのプラス要因がフルに寄与していたはずで、業績分析に精通していない大半のストラテジストは楽観的なコメントをしているが、実態は期待を大きく下回っている。

さらに225銘柄の過去1年間の包括ROE(資本異動は未調整)は、6月期末17.91%だったものが9月末は推定11.0%前後まで急低下している。上期の利益は過去最高だったというのに、配当支払い後の一株純資産は2%ほど増えただけで、資産価値の増加という点では、非常にお粗末な四半期だったといえる。

米国が利上げに動く公算が強いため、日銀は当分「追加」金融緩和を実施しないだろう。ドル円が120円から大きく上がることは日米経済共に不都合である。原油下落の効果は間もなく消え物価が少し上がるから、緩和を急ぐ必要はない。

日銀は毎月追加緩和している

そもそもエコノミストらの言葉の使い方が間違っていると思う。日銀は毎月、国債を7兆円近く、TOPIX連動で株式を2500億円買い増しており、実際には毎月「追加緩和」を実行している。良くも悪しくも、追加緩和効果は生じており、それに上乗せして購入ペースを上げろと言われるのは、日銀側にすれば理不尽なことだろう。

週明け7-9月のGDPが発表され、おそらくゼロ成長付近の数字が公表される。強気筋は今週の日銀政策決定会合で日銀が追加緩和に動くはず、と突っ張っているが、期待は裏切られるだろう。金融政策はすでに異常なほどに出動しており、この先は財政が動くしかない。

デフレ脱却の決め手は賃金上昇率を2%以上に高めることだが、そのカギとなるはずの介護・医療関係の賃金(最も需給がタイト)を政府が人為的に抑え込んでいるのだから、出口は見えない。だが臨時雇用の平均賃金上昇率は最近2%を越えるようになっており、人手不足は一段と深刻化、介護の維持はますます困難になるだろう。

年末まではリスクオフ

フランスで大規模なテロが起こり、投資マインドはリスクオフに傾斜しやすくなった。原油暴落でベネズエラ、ブラジルのデフォルト懸念が強まっている上、中国では不動産、鉄鋼会社関連で大規模な破綻が起こりそうで、年末に向けては下値不安を抱えた相場展開が予想される。割安株以外、持ちたくない環境である。

(了)

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

マーケットインサイト<2015年11月号>

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