2016年はリスク削減より利益確定が重要

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
Vol136020151225日)

2016年の景気はメディアが報じているより悪くなりそうである。米国のデータを見ていると景気は悪くないように思えるが、モーメンタムは急速に失われつつある。日本も含め、世界の製造業、特に資本財(何か儲かりそうな財物を生み出すのに使われるもの、消費財の対語)の需要は急速に伸び悩んでいる。

設備投資は減少局面

景気サイクルの中心となるのは、設備投資循環である。設備投資の減少→新規需要の増加→設備投資の増加→景気の成熟→供給過剰→設備投資の減少という順番であり、まさに現在は供給過剰が顕在化して、設備投資の減少が避けられない局面である。ただし、途上国中心に個人消費のレベルが上向く途中にあるため、総需要そのものはまだ上向きだ。

これまでハイペースで設備投資が行われたため、潜在生産能力はかなり高まっており、特に資源関連は価格が大暴落してしまったため完全に採算割れとなっており、市況反転のカギを握るのはどれだけ生産企業が倒産して生産が落ち込むかに掛かっている。しかし豊かになった国々では流通やインフラ関連のプロジェクトが増えるので、モノを作らない設備の投資は結構あるだろう。

資源×、消費◯、金融◯×

簡単にセクター分析すると設備投資関連と資源関連はバツ、消費関連はマル、金融は分野別にマルバツが混在している。バイオを含めたテクノロジー関連株は当たり外れが激しく、華々しい上げ相場は難しいだろう。わずかだが、金利水準が上がると思われるので予想PERは横ばいか若干低下する。株価は一株利益とPERの掛算だから一株利益が増えないと相場水準は上がらないことになる。

CRB商品先物指数はリーマンショック直前高値473.52、09年3月安値200.34、その後の高値11年4月370.56、14年6月戻り高値312.93、直近安値170.70である。高値からは半値八掛け1割引きの水準。生産コストを計算に入れれば、一部の農産物を除きほとんどの生産者は利益が出ていない。それどころか倒産続出となる公算が強い。倒産ラッシュが起き、弱い生産者が淘汰されて初めて市況が本格回復に向かう。淘汰が起きるのは2016年だろう。一次産品の価格が上向くのはそれからしばらく後だ。

素材の前にシェール関連が連鎖倒産

モーニングサテライトで三菱UFJモルスタの藤戸さんが素材企業の大型倒産の可能性を指摘していたが、その前にシェール関連(生産会社、資金調達にかかわった会社、投資したヘッジファンド)が連鎖的に倒産すると思う。最終的な資金の出し手は素人さんなので、物騒な話が連発するとそんなものは保有していたくないと言い出し、投げ売りが起きる。

素材メーカーで一番危ないのが中国の鉄鋼会社。多過ぎる。かつ無駄に大き過ぎる。生産量は3-4億トン過剰であろう。助けて採算が合うならよいが、その可能性は全くない。賢く設備廃棄を進めることができるかどうか。資本主義国になるための最大の試練だろう。

曇り気味のバフェット眼鏡

米国が利上げモードに入ったと言っても、正常な水準から見ればまだジャブジャブの金融緩和状態が続いている。債券より株の収益率(益回りで見て)が高い状態はまだ続いており、資金シフトはまだあるだろう。ただし、後続の資金が見込めないので、天井知らずの買い方はできず、採算を綿密に計算しながら資金力に自信のある投資家がドンと投資する。バフェット流と言ってもよい.。ただしバフェットさんのメガネは昨年あたりから曇り気味で、航空機部品会社をかなりの高値で買収したり、安値で安全銘柄を大量に買い込むといった切れ味が見られなくなって久しい。

「低分散投資」の終わり

ところが国家を含め倒産リスクは高まっており、リスクオン・オフの波や、個別銘柄および投資先地域の選別は一段と厳しくなる。お金はあるが、投資対象は絞られ、集中化しやすいものの、バリューの壁は以前より重くなっているため、2015年のように食品株や薬品株を馬鹿みたいなPERまで買い進むことは少なくなるだろう。

あれは、機関投資家の保有債券が満期になって、買い替え時の利回りが1%になって再投資できないことを知ったアナリストが、ヘッジファンドと組んで「低分散投資」つまり業績でずっこけるリスクの低い株式で固めたポートフォリオを債券投資家に売り込んで成功したのだ。株式専門家のセンスでは割高で買えないはずの投資なのだが、そもそも債券相場が異常バブルなので、背に腹は代えられず大挙して乗ってきたのである。

利益8%で上出来

大抵の年はそうなのだが、2016年の株式投資のリターンは、100÷予想PER+アルファを目指すべきだろう。PERは15倍なので、100÷15=6.67。したがって8%儲けられたら上出来である。上々と言ってもよい。なぜならライバルの債券投資家のリターンは頑張っても2-3%が限界、下手をすると債券は1%以下になるのだから。

このシナリオの最大のリスクは予想利益の大幅下方修正である。PER15倍と思ったのが18倍になると、平均株価は1-2割は下がり、個別銘柄では半値以下の撃墜的な下げとなる。

利益の大幅下方修正リスク

日本企業には信じられないような高収益企業が米国にはゴロゴロしているが、それは独占的地位を利して50%以上の粗利益率を維持しているからだ。業種によりいろいろなパターンがあるが永続したものは少ない。巨大企業で一番リスクが高いのはアップルだ。ケータイ世界シェア17%しかないのに製造者における利益シェア95%。その理由は日本と中国で異様に高いシェアと、高値でも買うユーザーが大勢いるから。どんなんかな。安倍政権はSIMフリーで超低料金の携帯電話を高齢者にも普及させることを考えている。中国人だって、収入が減った時、賢い使い方を考えるだろう。アップルは選択肢に残るか。

トレーディングの勝負

上値が大きく見込めない相場展開ではトレーディング技術が重要になる。チャートの支持水準を割った銘柄は勇気を持って半分売る。首尾よく上がった銘柄は、上げ止まったと思ったら半分利益確定する。リスク削減以上に利益確定が重要な年になるだろう。

(了)

*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。

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