怖い新年だが安値拾いの好機か、急ぎ過ぎないこと

前回号発行時(12月11日)の日経225は19230円だったが、1月8日はほぼ17,700円、シカゴ先物は17,280円で終わっており、ほぼ2,000円の大幅安に見舞われている。前回号では18,000円以下への下振れの可能性が高いとしておいたし、原油価格下落による産油国の国富ファンド(SWF)の換金売りも予想通りであった。ドル円相場も円高方向への揺り戻しに警戒としていた。

中国減速でヘッジファンドが投げ売り

想定したものより下落ペースが速い理由は何か。

サウジとイランの対立、北朝鮮の水爆実験騒ぎはもちろん想定不能だが、株式市場への影響は非常に小さい。むしろ中国経済の混迷に目をふさいで、相場上昇に賭けていた一部ヘッジファンドが、いよいよ窮地に立って処分売りを進めている可能性が高いと思う。一方の懸念要因であった米国は、ペースは落ちてきたが今のところ堅調を維持しており、FRBの利上げも今年は2回という市場コンセンサスに沿った流れであろう。

中国の株価はグローバル投資家の参加が少なく、噂に躍らされがちな個人投資家の売買が約8割といわれる。個人消費は堅調だと思うが、貿易額がマイナス成長となっており、資源価格の下落を割り引いても中国製造業が大幅減速していることは疑いない。夏場の人民元切り下げ以降、華僑系資金、国内富裕層(大半は共産党幹部一族)の資金が国外脱出を進めるはずと予測したが、12月は外貨準備が1,079億ドルの減少を見た。統計外でも同程度の資金流出が起きていると思われる。

春節に夜逃げ多発か

向こう1か月程度で筆者が要注意なのは、中国の春節休暇(今年は2月8日)前後であろう。輸出産業向けの下請け企業などでは、休暇中に工場を閉鎖して経営者が夜逃げする(営業債務や従業員への解雇手当を踏み倒すのが目的)ケースが多発すると見ている。世界の工場となった中国だが、人件費は5年で2倍のペースで高騰、一方でベトナムやミャンマーに生産シフトする海外企業も多く、中国経済に対する不安が大きく台頭する可能性がある。

もちろん中国政府は必死で対応策を打ち出すだろうが、鉄鋼業、不動産業では巨額な含み損が発生していると見られ、南シナ海問題などで諸外国の神経を逆なでしている状況では、投資家はネガティブな材料に敏感に反応しやすいと思われる。

日経225は16000~20000円

大局的には財政問題をうまく処理できず、日本円が大きく下がると確信している。

昨年6月の125.7円は16年半サイクル三段上げの第一段の天井という認識である。その後反動を経て2022年頃150-200円に向けて動き出す。だが、相場にはサイクルというものがあり、ドル円においては16年半、162か月・81か月・40か月、20か月あるいは66か月・33か月といった、黄金分割比率1.618に関係する日柄でトレンドやサイクルが転換する習性がある。

現在は12年2月の大底75円から40か月の上昇トレンドを終え、66か月(5年半)サイクルの安値を付けに行く過程にあると見られ、円高方向への揺り戻しが起こりやすい。

上場企業の純利益も純資産も為替と密接に連動する。TOPIXの動きはドル円の高値安値にやや遅れるようだ。両者の連動性を考えると、円高のバイアスが掛かる時期を通過するまでは、平均株価が強い上昇トレンドを描くとは考えにくく、今年の日経225は16,000-20,000円を中心として動くというイメージが無難である。

米国株に下げ余地、自社株買いで維持

要注意なのは米国株である。

NYダウでは4年サイクル、6年半サイクルが顕著だが、09年3月安値は18年以下のサイクルに共通する重要安値。4年サイクルはそこから11年10月、15年8月の安値、6年半サイクルは15年8月の安値15,370を付けて、一応のボトムをつけた格好になっている。だが両者が重なった場合、30%程度下がるのが普通で、明らかに下げ足りない。

したがってこれを割ると13,000ドル辺りまでの下げ余地が生じてしまう。米国では年間50兆円規模の自社株買いが行われているのでそこまで下がることはないかもしれないが、下げ止まりが確認できるまで、楽観視することは慎むべきである。

次の中期サイクルの安値確認するまで慎重に

日本株の場合、4か月前後の中期サイクルをガイドラインにすると理解しやすい。前回の安値が9月29日だったから、次の想定安値時期は1月末前後一か月間となる。やはり前述の春節休暇の結果を見るまでは、安心することが出来ない。結論としては、向こう一か月間は下振れ警戒を優先すべきである。米国株が底堅い展開を続けるのでなければ、強気に出ることは危険だ。

今年は選挙の年だが、安倍首相は国会期末に解散し衆参ダブル選挙とする公算が強い。その際に「消費税率引き上げの再延期を国民に問う」という理屈を付けるはずである。本音は衆参で3分の2の議席を確保し、憲法改正の発議に賛成可能なレベルにチャレンジしたいということだろう。株式市場はいったんは好感して上がるだろうが、選挙後は急落すると思う。

(了)

 

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

マーケットインサイト<2016年1月号>

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