木村喜由のマーケットインサイト
2014年10月号
波乱の10月来たる、買い急ぎは厳禁

公開日: : 最終更新日:2014/10/15 マーケットEye ,

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

ついに米国市場の弱気転換が始まったのかもしれない。現時点ではNYダウは9月の最高値から4.6%下げただけだが、主要指数で最も動きが強かったNADAQは7.3%の下落である。米国経済の回復によってFRBの金融政策転換の方向性は明らかだが、米10年債利回りは過去3年で最高だった1月の3.06%から年初来最低の2.285%に低下しており、米国以外の経済悪化が原因と考えるべきだろう。

米国株がここで踏みとどまるか、下値探りのトレンドが始まってしまうかで、投資姿勢は大きく異なってくる。なぜならすでに5年半の上昇を続けた上げトレンドが反転すれば、20%以上の下落か半年以上の下げ継続が濃厚となるからだ。少なくとも日本株も含めたリスク性資産の投資に当たっては、大幅な下げの後か底入れが確認できるまで、買い急ぐことは厳に慎むべきだろう。

発端は欧州景気の下振れ不安

筆者は今年のリスク要因の筆頭に欧州景気の悪化を挙げてきたが、それが顕在化している。昨年来、EUは日本型デフレに似た慢性デフレに陥り、ギリシャ、ポルトガルはもちろん、財政が悪化しているフランスも投機筋の売り叩きに見舞われると主張してきた。EUのインフレ率は3年前の3.0%から0.3%に低下しているが、筆者は早晩小幅マイナスとなると予想する。

仏CAC40は9月高値4,509から10月10日4,073に下がったが、今後3,600を目指すだろう。同じく独DAXは9,799から8,788に下がったが、8,000を目指すだろう。EUはユーロ加盟国の財政赤字に厳しいガイドラインを設けているが、支援国側と目されていたフランスが被支援国側に転じるとなると再び通貨制度や弱体国支援の問題で紛糾するのは必至だ。先週末の世界銀行年次総会直前、ECBドラギ総裁と独財務相ジョイブレ氏は経済悪化時の追加策で対立した発言をしている。

次に問題なのが中国景気だ。上海株価指数は堅調だが、電力消費や貿易などの指標は鈍化する一方で、成長率が低下傾向なのは間違いない。原油や非鉄金属市況などの下落は最大消費国である中国の減速を反映している。先週、IMFは今年の世界成長率を下方修正したが、筆者は来年一段と減速する公算が強いと見る。

14,700円から10%の下落も

前回、ドル円は08年8月高値の110.5円付近が来年3月までの限界だろうと書いた。チャート上も利益確定売りが出やすく、この水準では円安による不利益を蒙る国内の地場産業や農林業、消費者からの不満が高まり、消費増税と輸入インフレのダブルパンチの影響で来年10月の追加増税が出来なくなると困るので、安倍首相などのトーン後退も予想されたからである。

だが執筆後に投機筋が為替と日経225先物買いを絡めた買い仕掛けに動いたために9月下旬にドル円は110.2円まで、日経225は16,374円まで上昇する場面があった。しかしこれはイレギュラーなもので、どちらもその後反落している。米国取引終了の10月11日朝では日経225CFDは15,100円(TOPIX換算で1,227)まで急落しているが、これにより5月21日を起点とする中期サイクルは9月25日を頂点とし、サイクル終点となる次の安値に向けた下落の最中であることが確認された。

異例の暴落が起きないのなら、安値は10月下旬から2~3週の範囲で付けることになるだろう。TOPIXは1,200、225では14,700円前後がイメージされる。しかしこの範囲で下げ止まらないリスクが急浮上している。欧州系と見られる機関投資家の日本株売りがここ2週間ほど急増しているからだ。特に割安なTOPIX型先物売りが多いのが不気味。

通常、中期サイクル終了時に深押しするパターンでは、上昇過程で先物買いポジションを積み上げた投資家の反対売買により裁定買い残がピークから5-7億株程度減少するのが普通である。直近ピークは25億600万株だったが、10日時点では23億5000万株に減ったと推定され、まだまだ処分売りが終わったとはいえない。今後の海外や為替の動き次第ではさらに10%の下落があってもおかしくない。

テールリスクに備えるのが賢明

発生頻度は低いが、起きた場合には大きな被害が起きる現象をテールリスクと言う。今回はテールリスクの実現確率を無視できない。特に長期間に及ぶ強気相場の後なので積み上げられた買いポジションは大きいはずで、それが一斉に換金に向かった場合のマグニチュードを軽視するのは危険だと思っている。ファンダメンタルズから説明できる以上の暴力的で理不尽な下げが生じる可能性があるので、その際に強制的に損失確定させられぬよう、準備しておくべきだろう。

長期的には日本株は上げトレンドに入っているので、大幅な下げは買い向かってよい。またここまでに望外の利益を得られた向きは、下落場面で儲かるようなポジションをお遊びで投資しておいてもよいと思う。 (了)

関連記事

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「SCOOP!」とヘッジファンド解約ショック

2016・10・30 福山雅治はやはりガリレオ・シリーズや坂本竜馬がニンに合っていると思うが、

記事を読む

日経平均2万円目前も、買いの理由と中身がよくない

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由 Vol1350(2015年11月19日) ファンダメンタル

記事を読む

急落時には安値を拾う
ギリシャは影響少だが中国の大幅減速は世界景気に波及
木村喜由のマーケットインサイト

市場には不思議と波乱になったり、最安値、最高値を付けに行くような極端な値動きをしやすい時間帯がある。

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「キャッツ」と、6月に最高裁によってクビになる(?)トランプ大統領   (996回)

 ミュージカル「キャッツ」はロンドン、NYで各1回、東京でも1回。名曲「メモリー」の美しさにただた

記事を読む

木村喜由のマーケット通信
GPIF材料に先物主導で値上がりも、目標達成し買い越しが鈍る公算大

 日本個人投資家協会 理事 木村 喜由 昨日(2月25日)は日本個人投資家協会の20周年記念大会。

記事を読む

PAGE TOP ↑