木村喜由のマーケット通信
トレンド追随のヘッジファンド、次の手は
原油急落後のディフェンシブ株ブーム

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日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

景気が拡大局面でインフレ傾向にある場合、信用の膨張つまり銀行貸し出しの増加と証券市場を通じた資金調達が活発になり、全てが拡大方向に向けた順回転となるが、大なり小なりオーバーシュートし、その後、株価下落、資産価格の下落、融資の焦げ付きなどの調整場面が訪れる。そして過大なポジションの処理を迫られた投資家が、泣く泣く処分売りを迫られる場面が来る。

バブルがはじけた原油

最近の原油価格の急落は、シェールオイル・ガスの増産により原油需給が緩和したことが主因だが、半年で4割以上も下がったことはそれまでの価格がややバブル気味の水準だった疑いが強い。あれほど大規模にガス田・油田が開発されているのに、バレル100ドル近辺に留まっていたこと自体がおかしい。

それで誰が儲けていたかというと、産油国である。自分が何の努力もしていないのに、アホな投資家が馬鹿みたいな高値で先物を買いまくってくれたせいで、濡れ手で粟のぼろ儲けをしていたのである。お陰でロンドンとニューヨークの超高級マンションは中東産油国、ロシア、ついでに中国共産党幹部の親族ばかりが所有するものとなった。

トレンドに乗り、大損こいたヘッジファンド

アホな投資家とは誰かというと、代表格はバブルに乗らざるを得ないヘッジファンドであろう。かつてはその名の如く、ポジションのリスクを減らすためにヘッジすることが多かったが、いつの間にかレバレッジ(要するに信用取引)を掛けて儲けを膨らませることによって商売をしたい運用業者をひっくるめて、ヘッジファンドと呼ぶようになってしまった。彼らはパフォーマンスの良さを強調して顧客を惹き付ける必要があるため、現在有力なトレンドに沿ったポジションを多く「張って成功し」、素晴らしいパフォーマンスを見せ付けることによって、純粋無知な顧客を契約者として迎えようとしているのである。

で、超金融緩和により世界の成長が続き、商品価格も上がり続けるという論理に沿ったトレンドが形成されているものだから、ヘッジファンドはこぞってそれに乗ったのである。だが最初の蹉跌は金(ゴールド)に来た。金の価値は認めてよいが、1兆円単位の大金持ちが資産価値を保存するためにはあまりにも具合が悪い。金で資産防衛しようというセンスの大金持ちはいない。そう思ったら、あなたはすでに大金持ちの範疇にいない証拠だ。

結果はどうか。日経225を上下に荒らしまくっていることで知られる英系ヘッジファンド最大手のブレバンハワードが、惨敗して商品ファンドから撤退するという記事が報じられて以来、大損こいて撤退するファンドが相次いだ。その結果が今の60ドル以下の相場である。化けの皮がはがれたというべきだろう。多分これが実相だったのだと思う。

ディフェンシブ株の過剰人気

それで冒頭に戻るが、インフレ的拡大モデルが崩れたならば、投資家はその逆方向に走る。その対象が、過剰なまでのディフェンシブ株ブームなのである。

ディフェンシブ株というのは、景気敏感株の対極にある、景気変動に関係なく需要がある生活必需品、医療介護関係のビジネスなどに関係する株である。電鉄株やスーパーマーケット、安い外食などもこの分野に含まれる。業績は景気変動の波にほとんど関係がなく、価格は債券に近い動き方をする。

経済成長に不安があり、さりとて明確な景気悪化の兆候もない。債券価格は少し下がりそうで、債券を買うわけにいかない。資源関連の市況が今後の成長率のアンテナだとすれば、成長率が下がる場面で好成績を挙げる銘柄にいち早くシフトすべきだということを誰しも考える。そういう時期に適切な選択肢として浮上するのがディフェンシブ株だが、それにしても今のバリュエーションは割高だと思う。先ほどのヘッジファンドが商品に殺到したのと同じ理由で、過剰に資金が流入しているのだろう。

買っているのは誰か

一つの典型が明治HD(2269)で、野田解散宣言の前日3515円だったのが先週11,070円まで上昇した。実に3.15倍である。だがPBR2.6倍、予想PER31.5倍というのは、成長株のものであり、そもそも成長期待を捨てたディフェンシブ銘柄としては異常なレベルだ。同じように食品セクターの銘柄を見ると、従来から懸け離れた評価になっていることが判るだろう。

薬品株もそう。全く業績面では評価できない塩野義(4507)も871円から3,325円に値上がりし、現在は2.4倍、37.3倍である。アステラスもほぼ同じトレンドだ。

こういう何も華々しい好材料が出ていない株を国内勢が買うということはありえない。あとで外国人持ち株比率が公表されれば判るだろうが、買ったのはほぼ全部外国人で、おそらくほとんどがトレンド追随型のヘッジファンドである。年金などのバリュエーションに厳しい投資家がこんな低成長の国の安定株を30倍以上のPERで買うことはありえないからだ。

総合商社株をロング、ディフェンシブ株を空売りせよ

日経225の17,500円付近に目くじらを立てたいとは思わないが、馬鹿げて高い銘柄が結構多く含まれているという事実を見逃すわけには行かない。投資家は馬鹿ではない。最後に求めるのはリターンで、そのよりどころは実際の収益だ。最後はPERの比較に帰着する。長期のポジションを取れる投資家には、PER8倍前後の総合商社株をロングして上記のディフェンシブ株を空売りしておけば堅実に利益が取れるとアドバイスしたい。

Vol.1258(2014年12月22日)

(了)

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