「日本死ね」は意外に正論だ

公開日: : 最終更新日:2016/04/04 マーケットEye, 有料記事サンプル ,

木村 喜由の『マーケット通信』

Vol1386(2016年3月29日)

縦割り行政で時代の変化に対応できない日本の政府

「保育園落ちた、日本死ね」のブログは大きな反響を呼んでおり、待機児童問題は今度の選挙でも重要な争点の一つになるだろう。一億層活躍社会を実現すると公約しておきながら、政府がそのための基礎条件を全く整備していないのだから、単に耳当たりのよいスローガンを叫んでいるだけだと言われても仕方がない。

潜在的なものも含めると待機児童の数は6万人に及ぶという。国は憲法の定めにより健康で文化的な最低限度の生活を国民に保障しなければならないが、そうであれば病院や学校の整備と同様に、託児所や保育園も政府(地方政府も含む)が責任を持って運営する義務がある。しかしこの問題に政府はまじめに取り組んでいない。それは厚労省所管の保育園と、文部省所管の幼稚園に絡む縄張り争いがいまだに続いているからだ。

保育園の基礎法は児童福祉法で、0-5歳児の保育、つまり親から預かって育児するのが目的であり、資格を持った保母さんが11時間預かるのが基本。一方幼稚園は教育基本法を根拠としており、3-5歳児の初期教育が目的で、幼稚園教諭の資格を持った先生が4時間教えるのが原則だ。明らかに両者の対象は重複しているが、提供するサービスの内容も担当者の資格にも差がある。

これを交通整理する目的で「認定こども園」というものを作ることにし、1年前の時点で全国に2836所存在している。しかし大半は従来型施設が併存したままで、保育所の不足が深刻化するのに対し、幼稚園の9割近くが定員割れとなっているらしい。時代の変化によって子供に対する保育・教育及びその形式に対するニーズが大きく変化しているにも拘らず、政府はそれへの対応を怠ってきたことは否定できない。

介護士もそうだが保育士の待遇も非常に厳しく、早急に20%以上の給与引き上げをしてやるべきだろう。定員割れの幼稚園は早急にこども園に転用し幼児の受け入れを可能にすべきだ。幼稚園教諭には短期で保育士の資格を与える特別研修を受けさせ、待遇の改善も並行して進めるべきだ。待機児童が多い地域は比較的所得水準や地価が高いところのはずなので、コスト増は固定資産税や住民税でカバーするのがスジだろう。

単純に、子供を預けることができないと働けず、家計が維持できない、という問題を解決するだけなら、以前に書いたように金銭的に個人個人の子供を預けるコストに対して公的支援を与えることでよいのかもしれないが、根本的解決にならない。各省は自分の利害に基づいて変化に抵抗する「実権」を持っており、国民投票で選ばれた政治家が鶴の一声で変えさせることはできないのである。時代にそぐわない体制を改変していく能力、機能を日本の国家制度は持っていないのだ。そういう意味では、日本死ねという言葉はまさしく正鵠(せいこく)を突いているといえる。

仕事を作りたくてしようがないお役人

あちこちで官僚の行動様式を紹介した本が書かれているのであえて引用先を紹介しないが、とにかく政治家と距離の近い高級官僚と言われる人たちは、下らないことでも、国民にとって利益よりも損失の方が大きくなりそうなことでも(彼らは口が裂けても、「損失の方が大きいのが明らかな」とは表現しない)、とにかく予算がたっぷり付くのが明らかな状況では臆面もなく馬鹿げた案件を出してくる。

最近では震災関連という名目で合計26兆円の対策予算が組まれたが、その中には東北地方とは縁もゆかりもない地域の不要不急の案件が突っ込まれていた。明らかにドサクサに紛れて予算をかっぽじろうとしたのだ。学歴は立派だが、こういう時の官僚の行動はまさに品性は下劣、下衆の極みで組織的税金ドロボウである。

長良川の河口堰とか、諫早湾の干拓とか、もはやコメの増産など国民の誰もが求めていないにも拘らず、コメの生産増により食料安全保障を推進するという名目を振りかざして農林・建設系の族議員が結託する。大きな予算が動くほど商売になる業者が多く存在し、その推進に貢献した議員はおこぼれの献金と票の支援を受けられる仕組みだ。

最近で一番醜いことは大震災の大津波の後に途方もなく巨大なコンクリートの防潮堤を作る動きがあることだ。沿岸部では総延長400キロ、総予算は9000億円に及ぶ。潮風に晒されるコンクリート製の防潮堤は早ければ60年、遅くとも100年後には崩壊または機能不全に陥る。30年に一度程度の津波なら何度も経験済みで大きな対策は不要。1000年に一度クラスなら巨大防潮堤が役に立つ可能性は1%未満である。巨大な壁にふさがれた沿岸の町は姿が変わり果て、元通りの事業再生も観光も不可能になる。

NHKのよると宮城県における漁村保全目的の101件のうち、集落保護目的の67件ではその37件で対象地域に住宅が存在しなかった。逆に水産加工場保護目的のところでは完成しても津波をカバーできないところもあるという。資金を出す水産庁は、復興後の町づくり計画が出来ていなくても、先に防潮堤を作れる場所では先行的に支援すると答えている。アホか。アイリスオーヤマの社長も語っていたが、本当に街の再生を願っているなら、こんなバカな計画を作るはずがない。特に官僚がいかん。やっぱり日本死ねだ。

筆者の予想では5月末のサミット終了後、安倍首相は消費税率引き上げ先送りを決断し、国民にその是非を問うという名目で6月1日に衆議院を解散することだろう。投票日は解散から40日という憲法規定ぎりぎりの7月10日であり、衆参ダブル選挙になる。初の18歳投票権行使にもなるため投票率は上がるだろう。順当なら与党に非常に有利な状況だが、最近安倍さんの軽はずみの失言が目立っており、大勝は難しい気がする。
(了)

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