売上高や利益の数字は信用できるか?
損益計算書を読み解く①
金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第13回
個人投資家である皆さんは、仮に貸借対照表には関心がなくとも損益計算書には関心があるはずです。新聞に載る企業の決算発表の内容は、結局、損益計算書の主要な項目である売上高、営業利益、経常利益、純利益などの数値です。
投資を判断する際に会社四季報を利用している方も、チェックするのは売上高や利益の傾向や予想数値であって、やはり損益計算書の項目を見ているのではないでしょうか。
損益計算書の見方については特別な説明をする必要はないかもしれませんが、あえて注意を喚起するとしたなら次の点です。
(1)損益計算書はひとつの見解であって、絶対的なものではない。
(2)損益計算書の利益(損失)と獲得したお金(失ったお金)は一致しない。
(1)の意味は、その会社の採用する会計基準や会計方針により売上高や利益の数字は変わるということです。このことは貸借対照表についても同じなのですが、損益計算書の方が印象がダイレクトに伝わりますから、より注意が要るでしょう。表1は損益計算書の例を示していますが、これを用いて損益計算書の構造をおさらいしてみましょう。
損益計算書は、以下の順番で計算されます。
- 売上高から売上原価を控除して売上総利益を出す
- 売上総利益から販売管理費を控除して営業利益を出す
- 営業利益に営業外損益を加減し経常利益を出す
- 経常利益に特別損益を加減し税引き前純利益を出す
- 税引き前純利益に税金等を控除し当期純利益を出す
表で(-)としているのは控除項目であり、(+)としているのは加える項目です。
経営者が数字を動かせる
では会計基準や会計方針でどこが変わるのかと言いますと、売上高から当期純利益まですべての段階で変わるのです。
まず売上高ですが、これは売上をいつの段階で認識するかという問題があります。また本業に付随して受取る手数料等を売上にするか営業外収益にするかという問題があります。
また、原材料をA社から仕入れそれを加工し再びA社に売るという受託加工の事業を行っている会社では、A社へ再販した金額を売上にするか加工賃を売上にするかによって売上高は大きく違ってきます。
売上原価以下についても、棚卸資産の評価をどうするか、減価償却の方法をどうするか、退職給付費用をどうするか、などによって売上総利益や営業利益は変化します。また、一部の費用については売上原価にするか販売管理費にするか営業外費用にするか、経営者の判断で動かせるものもあります。
つまり、損益計算書は経営者の判断である程度恣意的に数字を動かせるものなのです。(結果、貸借対照表も同じです)
では、われわれは損益計算書を信用できないかというと、そんなことはありません。上場会社の場合決算について監査法人の監査を受けていますし、ほとんどの経営者は概ね妥当な会計方針を採用しています。
ただし、厳しめの決算、即ち利益を固く見積もる会社や、甘めの決算、即ち利益を膨らます会社もあります。たいていは許容できる範囲でしょうが、中には強引な決算をしていると感じるものもあります。強引な決算をしているのは株式市場で比較的人気のある新興企業に多いように思います。
金融リテラシー講座 第14回 利益=得たお金、損失=失ったお金?損益計算書を読み解く②
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
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