基本の話by前田昌孝(第39回、投信積み立てのコツ)
内外の株式相場が波乱局面を迎えています。2024年1月の少額投資非課税制度(NISA)の大型化を機に、投資信託への積み立て投資を始めた人も、この3月末には含み益の大半を失ったことでしょう。株式相場の調整はまだまだ続く可能性があります。ただ、投信をいくら買っても含み損になる局面は、理想的な仕込み期になる可能性も秘めています。
TOPIXだけ出遅れる
1年ほど前にはオルカン一択とS&P500連動投信のどちらがいいかが大きな論争になっていました。大型化したNISAのつみたて投資枠で毎月、残高を積み上げていくためには、どちらが効率的かという議論でした。オルカンとは三菱UFJアセットマネジメントが設定・運用している「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」のことです。
対するS&P500連動投信は多くの運用会社が商品化していますが、代表的なのはやはり三菱UFJアセットが設定・運用している「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」です。
ともにファンドの純資産から引き去られる信託報酬(運用報酬)は極めて低いのですが、ある論者が「世界の株式を組み入れるのは究極の分散投資だから、米国株集中よりもいいに決まっている」といえば、別の論者は「過去の上昇率が大きかったS&P500に資金を振り向けたほうが効率的」という具合でした。
投信積み立てはだいたい月末にすることが多いので、2024年1月末を100とした場合のオルカンとS&P500連動投信のその後の月末の基準価格の推移をグラフに示してみましょう。比較対象として同じ三菱UFJアセットのeMAXIS Slimシリーズから国内株式型(TOPIX)の基準価格推移も書き込んでみます。直近は2025年3月末です。

オルカンとS&P500連動投信とは2024年9月までほとんど差もなく推移していました。その後はオルカンが伸び悩むなかで、S&P500連動投信は上昇を続けましたが、それも2024年12月末で息切れし、2025年2月と3月に大きく下げ、3月末にはオルカンが115・9、S&P500が116・3と、ほとんど差がない状態になっています。
TOPIX連動投信の基準価格は2024年初頭こそはオルカンやS&P連動投信と軌を一にしていましたが、4月ごろから乖離が目立つようになり、その後も2025年3月末の107・7に至るまで、これといった浮揚力もえられないままに推移しました。
投信積み立ての軍配は
オルカン、S&P500連動投信、TOPIX連動投信の3本の基準価格推移をみて、どの株価指数に連動する投信への積み立て投資がベストパフォーマンスだったかわかるでしょうか。積み立て投資ではなく、2024年1月末に一括投資をして、ずっと持ち続けていたのならば、S&P500連動投信がベストで、僅差でオルカン、そしてTOPIX連動投信は大きく見劣りしていました。
毎月末に1万円ずつ積み立て投資をした場合、手元に保有する投信の口数はだんだんと増えていくわけですが、毎月末の基準価格に保有口数を掛け合わせた時価評価額の推移はグラフのようになっています。
グラフの線が折り重なって、見にくいかもしれませんが、2025年3月末では累積投資元本が15万円になり、保有投信の時価評価額はオルカンが15万1913円、S&P500連動投信が15万282円、TOPIX連動投信が14万9520円になります。

累積投資元本の金額を差し引くと含み損益の金額になります。そのデータはオルカンが2025年3月末時点で1913円の含み益、S&P500連動投信が282円の含み益、TOPIX連動投信が480円の含み損です。基準価格の推移を示すグラフではS&P500連動投信のほうがオルカンよりも勢いがいいのですが、含み損益はオルカンのほうがわずかに良好です
TOPIX連動投信は含み損益がマイナスですから、他の2本に見劣りします。ただ、基準価格の推移を示すグラフからは、TOPIXが大きく出遅れているようにみえますが、含み損益に大幅な差があるわけではありません。
2025年3月末時点のそれぞれの累計投資元本は15万円になります。この投資額に比べると、3月末時点の含み損益の違いは誤差のようなものです。オルカンでもS&P500連動投信でも、さらにはTOPIX連動投信でも、現時点で振り返れば、積み立て対象にどれを選んでいても大差はなかったといっていいでしょう。
基準価格が大きく上昇する場面もあったオルカンやS&P500連動投信への積み立て投資は、平均取得単価が高くなりがちだったのです。それが株式相場の下落で裏目に出ました。基準価格の動きが鈍かったTOPIX連動投信への積み立て投資は、平均取得単価も低く抑えることができました。

一番手以外はみな含み損状態
ここまでの議論は、2024年1月から毎月末に1万円ずつ投信積み立てをしていたことを前提にしていました。内外の株式相場が2025年3月末にかけて大きく下落したため、積み立て対象がオルカンだろうが、S&P500連動投信だろうが、含み益の大半は失っていました。TOPIX連動投信は3月末に小幅の含み損でした。
投信積み立てを2024年2月以降にスタートした場合、2025年3月末時点での含み損益の状況はどうなっているのでしょうか。途中の細かな計算は省きますが、結果はグラフのようになります。2024年2月以降に始めた人の大半は積み立て対象がオルカンでもS&P500連動投信でもTOPIX連動投信でも含み損を抱えています。

特に基準価格が大きく上昇してから下落したS&P500連動投信は、含み損が最も大きく出ています。基準価格の動きが鈍かったTOPIX連動投信は相対的に含み損が小さくてすんでいます。2024年1月末から積み立てを始めた人にとっては確かにオルカン一択がベストだったのですが、2024年5月以降に積み立てを始めた人にとっては、含み損が小さい点でTOPIX一択がベストでした。
今の不快感は将来の含み益
20年、30年、40年と投信積み立てを続けていくことを考えると、最初の15カ月が経過したぐらいで、どの指数に連動する投信を積み立て対象にしていたらよかったかなどの議論は意味がないかもしれません。ただ、基準価格の大幅な上昇がかえってマイナスになりかねないことだけは、頭に入れておいてほしいと思います。
TOPIX連動投信の基準価格の推移が示すように、投信積み立ての初期にはいくら買っても、時価評価額がほとんど増えなくて、「こんなこと続けていても仕方がないなあ」と感じたり、家族に苦情を言われたりしていることのほうがいいのです。
資産形成に取り組む多くの家計では半年に1回とか1年に1回、リバランスのために家計の金融資産のたな卸し(時価評価)をするでしょうが、そのたびに投信積み立てでは評価損を計上するぐらいでちょうどいいのではないでしょうか。
投資家の多くは、何かリスク商品を買ったら、すぐに値上がりしないと気分が悪くなる傾向がありますが、積み立て投資に限っては、「今の不快感は将来の含み益」とでも考えていた方がいいです。トランプ米大統領が景気悪化のリスクを恐れずに、MAGA(米国を再び偉大に)政策を追求するというのならば、「株価を下げてくれてありがとう」と受け止めるべきでしょう。
(マーケットエッセンシャル主筆)
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