基本の話by前田昌孝(第47回、「掉尾の一振」の可能性)
根拠のない経験則はアノマリーと呼ばれています。株式市場にはいくつものアノマリーがあります。「セル・イン・メイ(5月に売って去れ)」や「株はハロウィン(10月末)に買え」は米ウォール街で語られる代表的な格言です。日本にも「節分天井彼岸底」「掉尾(とうび)の一振」などがあります。2025年も12月になりましたので、「掉尾の一振」の可能性を考えてみます。
大納会にはご祝儀相場
掉尾は「ちょうび」とも読まれ、物事の終わりという意味です。「掉尾を飾る」といった使われ方をします。中国最古の詩集「詩経」に由来した表現に「有終の美を飾る」という言い方があり、意味は似ています。物事を最後に立派に締めくくることを指しています。
12月は和風月名では師走(しわす)と呼ばれます。普段は落ち着いている僧侶(師)でもあちこちから年末の仏事のための読経に呼ばれ、走り回るほど忙しいから、こんな名前が付いています。株式市場でも12月は師走相場と言われ、慌ただしい値動きが予想されています。
1988年まで1年の最後の取引日である大納会は、官庁の御用納めに合わせ、12月28日と決まっていました。曜日の並びにもよりますが、その後1月3日までの最低6日間は休場だったわけです。大納会と大発会は午前中だけの半日立ち会いでした。1980年代まで大納会や大発会では、グラフのように株式相場が上昇することが多かったです。

ただ、これは「掉尾の一振」というよりは「ご祝儀相場」と考えたほうがいいかもしれません。1990年代以降、大納会や大発会に高くなる傾向が失われたのは、相場形成が外国人も含めて機関投資家主導になり、ご祝儀で買っても売りをぶつけられるなど、旧来の市場参加者が痛い目にあってきたからでしょう。
年末年始は株式市場にとって特別の連休でもなくなりました。1989年は12月30日が土曜だったため、大納会は29日でしたが、1990年からは30日になりました。2009年の大納会と2010年の大発会からは午後も通常通りの取引をするようになりました。
立会場もなくなり、大納会の行事といえば、東京証券取引所がその年の話題になった著名人をゲストに招いて、立会終了の鐘を鳴らす程度です。年末年始にひと呼吸をおく暇もなく、5日後には次の年の相場が始まりますから、ご祝儀買いが入る余地などありません。
NISAの枠を埋める買い
年末年始が6連休だったころは、信用取引を利用して短期売買をしている投資家にとっては、長期休暇の間に相場の雰囲気が変わってしまうこともありますし、買い方が支払う金利や、売り方が支払う逆日歩も休みの日数分だけかさみます(かつては貸株料がなかった)から、12月末に向けて、手じまいを意識することになります。
従業員に対して年末に支払う手当を「餅代」ということがありますが、事業主らが餅代の原資をねん出するために、保有株を売る動きも出てきます。株式の譲渡益に対する税制が申告分離課税に一本化された2003年以降は含み損を抱えている銘柄を売却して実現損を出し、売却益が出た銘柄との損益通算をするなど、税金対策の売りも出てきました。
もちろん売り注文だけではありません。狙っている銘柄に売りが出て株価が下がったら、買おうと考えている投資家は常にいますし、信用の手じまい売りにしても節税対策売りにしても、年末のぎりぎりまで出てくるわけではありませんから、売り一巡後に値上がりしやすくなることもあるでしょう。
最近では少額投資非課税制度(NISA)の年間投資枠に余裕があれば、冬のボーナスを得た会社員らが、その枠を埋めるために投資をすることもあるようです。海外の投資家は12月中旬ともなると、クリスマス休暇を控えてあまり売買をしなくなってしまいますから、個人投資家の売買動向が株価に反映しやすくなる面もあります。
なぜか上下にもちつき相場
このように12月は普段とは異なる動機で株式を売買する人が増え、これといった材料もないのに、個別銘柄の株価が上下に動きやすくなるといわれています。この状況は「もちつき相場」とも呼ばれます。
もっとも戦後の日経平均株価の日々の動きを振り返る限り、12月が特段、変動日が多かったわけではありません。1949年にさかのぼって調べると、営業日のうち、日経平均が1%以上変動した日の割合が大きかったのは10月の29・9%でした。12月は26・3%で12カ月中7番目。1%以上上昇した日だけに限っての割合も14・0%と、12カ月中の6番目でした。

2%以上変動した日に絞って同じ計算をしても、12月が特段、変動日や上昇日が多かったわけではありません。12月に2%以上変動した日の割合は7・6%で12カ月中8番目、このうち2%以上上昇した日の割合は3・6%で12カ月中7番目でした。
「掉尾の一振」は必ずしも12月相場の日々の値動きの大きさを意味しているわけではないようです。
翌年度の業績を見据えた買い
では12月相場は上昇しやすいという意味で「掉尾の一振」と呼ばれているのでしょうか。12月は機関投資家が翌年度の企業業績を見据えて売買し始める時期でもあります。3月期決算企業は11月中旬までに4~9月期の決算発表を終えます。その状況を踏まえて証券会社のアナリストらが翌年度に向けての業績予想のレポートをまとめ、機関投資家に売り込んでいく時期も当たるからです。
翌年の相場動向を占う情報が増える時期でもあります。12月が12カ月のなかで日経平均が上昇しやすい月に当たるのかどうかを1949年にさかのぼって調べると、グラフのようになっています。

12月の日経平均の月間騰落率の平均は1・15%で、12カ月のなかでは1月の2・19%、4月の1・44%、11月の1・16%に次いで4番目でした。戦後に12月は76回ありましたが、上昇回数は48回で、12カ月中では4番目でした。ただ、このうち5%以上上昇した回数は20回と11月の22回に次いで多く、一応、「上昇しやすい月」と言えるかもしれません。
12月下旬が上がりやすい
12月全体をみるのではなくて、年末に向けて買いが買いを呼んで、相場が上昇力を高めることがあるのかどうかも確認してみます。海外でも12月後半に相場が上昇すると、クリスマスラリーなどと呼ばれます。上旬、中旬、下旬に分けて戦後76回の12月相場を振り返ってみましょう。
すると、表に示すように下旬が上旬や中旬に比べて、株式相場が上昇しやすい傾向があることがわかりました。日経平均が3%以上上昇した回数が23回にもなっています。上旬には9回、中旬には6回にとどまっていましたから、下旬は「掉尾の一振」と呼ぶにふさわしい値上がりが記録された年が多かったようです。

ただ、下旬に日経平均が3%以上上昇した23回のうち13回は、1980年代以前のことでした。1990年以降だけをみると、日経平均が3%以上下落した回数は上旬が6回、中旬が6回、下旬が10回となっています。大納会にご祝儀買いなどが入らなくなるにつれ。「掉尾の一振」が下旬に集中する傾向が薄れていることには注意が必要です。
年間高値を付ける傾向
日経平均が年間高値を付ける月が何月になることが多いかを調べてみると、グラフのように12月が26回と最多でした。

ただ、株式相場は右肩上がりで上昇するのだから、12月に年間高値を付けることが多いのは当然かもしれません。確かに株式相場が1989年末の最高値(当時)から下落に転じ、2008年のリーマンショック後の安値を付けるまでの19年間では、12月の高値が年間高値になった回数は3回にとどまっていました。
12月に高値を付ける傾向が本物なのかどうかをより正確に測定するためには、「ある月の高値が年間高値になったのかどうか」ではなく、「ある月の高値がその月までの過去12カ月間、あるいは6カ月間の高値になったのかどうか」を調べてみたほうがよさそうです。
1949年以降の日経平均を振り返ると、12月の高値が1~12月あるいは7~12月の高値になった回数はそれぞれ26回と28回でした。ただ12月は最良の月ではありませんでした。1月の高値が前年2月から1月にかけての高値になった回数は33回、前年8月から1月にかけての高値になった回数は37回で、これが12カ月のうちのベストでした。

12月よりも1月が好成績ということは、12月の高値で天井だと思わずに、翌1月まで持ち続けたほうがより高値で売るチャンスがえられる傾向があることを示しています。同じアノマリーならば「掉尾の一振」よりも、年初から節分に向けて高くなり、その後は下がることを意味する「節分天井彼岸底」を信じたほうがいいことを示唆しているようです。
証券界には「株を枕に寝正月」という格言もあります。もちろん相場は生き物ですから、確率を信じると痛い目にあうこともあります。常に許容できるリスクの範囲で、冷静に行動していく必要があります。(マーケットエッセンシャル主筆)
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