資産内容に違いが出るのはなぜか?
貸借対照表を読み解く⑤
金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第8回
前回につづき、ライバル会社A社とB社の分析を進めます。
営業利益の絶対額、売上高営業利益率ではA社がB社より優れています。収益面だけ見るとA社に投資する方が良さそうです。(結論1)
A社、B社の主な数値は下の表のようになっています。
しかし、資産の効率性ではどうでしょうか。
①総資産回転率(売上高÷総資産)では、A社は0.95倍、B社は1.28倍 → B社が良い
②有形固定資産回転率(売上高÷有形固形資産)では、A社2.0倍、B社は3.0倍 → B社が良い
売掛金や棚卸資産でもB社の方が効率的です。なお売掛金や棚卸資産の場合、回転率ではなく回転期間で見る方が分かりやすいです。資産回転期間(月)=資産÷売上高×12、となります。そして、この場合は数値が小さいほど効率的と言えます。
2社の棚卸資産回転期間を見ると、A社は、150÷1,000×12=1.8ヶ月、B社は、100÷900×12=1.33ヶ月、B社の方が約半月在庫回転期間は短いです。
総資産回転率を見るときに総資産から現預金を除いて見る方法も有力です。現預金を多く保有している会社は一見総資産回転率が悪く見えますが、現預金は直ちに負債と相殺できますので、現預金を除く総資産回転率の方がより実態を表していると思われます。
2社の現預金を除く総資産回転率は、A社は、1,000÷(1,050-50)=1.00倍、B社は、900÷(700-100)=1.50倍、となり、表面的な総資産回転率で見るよりはるかにB社が優れていることが分かります。
2社の株価が投資尺度的に同じ程度、つまりPERや配当利回りが同じような状況で取引されているとして、どちらかに投資するなら断然B社に投資すべきでしょう。(結論2)
収益面だけ見て判断した結論1に対し、貸借対照表を見て判断すると違う結論になりました。
A社とB社の資産内容の差はどうして生まれたのでしょうか。
断定はできませんが、A社の売掛金が多いのは顧客の支払いサイトが長くなっているということで、販売に少し無理があるかもしれません。あるいは、期末に無理に売上を作った可能性もあります。
棚卸資産が多いのは、ひょっとして、期待をかけた新製品が意外と売れず在庫になっているかもしれません。あるいは長年デッドストックを放置しているかもしれません。
有形固定資産が多いのは償却期間を長めに取っているかもしれません。それに対しB社は積極的に償却を進めているかもしれません。
投融資その他の資産が多いのは回収不能になった売掛金が長期の固定債権になっているかもしれません。あるいはのれんの償却期間が長いかもしれません。
事実は違うかもしれませんが、疑えばきりがありません。
今疑ったようなことをやっている会社があるとして、その場合、損益計算書の数字は良く見えますが、そのつけは貸借対照表に必ず残ります。他の条件がほぼ同じとして、総資産が大きい会社へ投資することは避けた方が良いでしょう。一般的に言って、会社の資産はスリムでコンパクトなほど良いです。そして分かりやすい単純な資産で構成されているほど良いでしょう。
「40歳過ぎれば男は自分の顔に責任がある」とリンカーンは言ったそうですが、裏返せば、40歳過ぎた男は、その顔に本人の経験や生き方、考え方、行動規範といったようなものがどうしようもなく表れるということでしょうか。
会社を営業マンに見立てると、損益計算書はセールストークであり貸借対照表は営業マンの顔です。われわれはセールストークを聞くだけでなく営業マンの顔をじっと見る必要があります。そこから受ける印象はセールストーク以上に重要です。
金融リテラシー講座 第9回 資産の効率性を図る指標はあるのか?貸借対照表を読み解く⑥
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
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