木村喜由のマーケットインサイト
先行き上昇も、目先は天井を付けそうな動き。吹き値売り優先で
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マーケットEye マーケットインサイト, 木村喜由
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
<2015年3月号>
日経225は12日に一時19,000円台に乗せた。翌日のSQに向けた思惑的な動きが中心だが、10日火曜夕場に再び米国株が値下がりして18,500円を付ける場面があり、19,000円到達はしばらくお預けとの見方が強まったが、実はそれは誘いに過ぎず、その後の急反発の伏線だったという見方が妥当であろう。
日欧株にヘッジファンドが大量の買い
先月ECBが日米に続いて量的金融緩和に踏み切ると決断したところから、世界のマーケットは新たな局面に入った。2013年4月、昨年10月の2度の黒田バズーカ発射のときと同様で、とにかく当該市場では為替を売って株式を買うポジションを取れば短期間に相当の利益が上がることが経験則で判っている。
欧州市場ではもちろんのことだが、日本でも日銀とGPIF(年金資金管理運用法人)が株式購入するのが確実視されており、細かい悪材料など無視してどんどん株式先物の買いポジションを積み上げる動きが続いていたのである。
利食いし、出遅れ銘柄に乗り換えよ
もちろん主体はヘッジファンドである。先物中心で買っていることから狙いは反対売買の必要のない先物の3月SQであろうことは想像できる。急いで値上がりさせるために値嵩株を集中的に買い上げた動きも確認できる。逆に、それが一巡した後は再び市場の反落を誘導し、下がったところを再び買うという作戦でいるはずだ。
したがって当面は最近よく上がった銘柄を中心に利益確定をしておくことを勧めたい。しかし先物連動性の低い銘柄は依然として評価不足のものが多く残っており、早売りするのはもったいない。利食いした資金で出遅れ銘柄に乗り換えるのが賢明だ。
米株急落、日本株上昇のワケ
米国株が急落したのに日本株が上がった理由は単純である。為替相場が大きく円安ドル高に動いたからである。米国企業は海外での事業比率が大きいため、ドル高になると収益の目減りと外貨資産価値の減少により、株式の実体価値が下がる。逆に日本では円安になれば外貨資産が値上がりし円安メリットが強く生じる。世界中で株式保有額を一定とすれば、米国株を売って為替が下がっている日欧の株を買うのが正しい。
また日欧は化石燃料の大消費者であり、これらの市況下落分は最終的に同額の間接税減税があったのと同じ効果をもたらすため、実質所得や企業収益を押し上げ、先行き景気にプラス効果をもたらすと考えてよいから、現在は株式を買うのにリスクが低い局面ということもできる。
原油安は終わらない
しかしグローバル景気は中国、資源国やその他途上国でスローダウンしており、米国でも企業収益にブレーキが掛かった。資源国では収入の激減から急速な投資や消費の抑制が起こるはずである。原油安は短期的に終わるとの見方があるが筆者は同意できない。原油や天然ガスは初期投資が大きいため、生産者は早期の資本回収を図りたいから減産に消極的だ。特にシェールガスは最近の採掘技術向上でコストダウンが目覚しいらしくバレル40ドル以下でも採算が合うようになっているという。一方、節約効果の高い機器や自然エネルギーの活用は増える一方である。
アメリカは6月に利上げする
3月の米雇用統計は市場予想を大幅に上回り、一時は先送りと思われた6月利上げ開始説を当初想定に引き戻した。原油安効果による下支えを考慮すると、足元の物価上昇率が下がるからFRBは利上げを先送りするだろうと信じるのは間違いである。その物価重視の理屈で利上げを先送りすると、来年に景気押し上げ効果が剥げる頃に物価が鋭角的に上がるタイミングで利上げすることになり、危険極まりない。
イエレン議長は単純なハト派(緩和優先主義)ではない。市場筋がFRBの緩和にあぐらをかいてリーマンショック等数々のバブル発生と崩壊を招いた事実を知らないわけではない。来るFOMCでは懇切丁寧な理由付けを行なって早め利上げの意向を述べる公算が強いと見る。それは6月利上げに準備してくださいという警告となろう。順調に来ている米国が金融正常化に向かうことは自然なことだ。
ギリシャ債務問題は再燃必至
足元で差し迫った危機があるわけではないが、ギリシャ問題と中国情勢は警戒しておいたほうがよい。ギリシャの債務問題は、バルファキス財務相という腹芸の持ち主が目先の空手形を切って当面の資金ショートを防いだだけで、不満の多い国民を納得させるプランは全く見えない。ギリシャ警戒の話は前回と同じである。筆者自身はギリシャがユーロ圏に残留するのは無理という見方だが、ドイツ連立与党からも同じ意見が表明されている。混乱の際にはヘッジファンドが過剰に売り叩くだろう。
4月末期限まで無事で済む可能性は1%だから、当面の株高は利益確定のチャンス、現金にして下がったら買いがよいと思う。
筆者は先行き株価はもっと上がるが、足元の市場は投機筋の動きで楽観的に過ぎ、株式ポジションが皆無の人以外は少し慎重に構えた方がよいと思っている。
(了)
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