売上と利益の関係を左右するのは何か?
収益力の分析①
金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第20回
今回から収益力の分析でよく使われる指標について解説します。
売上高営業利益率
売上高に対する営業利益の割合です。計算式は次のようになります。
売上高営業利益率の水準は業種によって異なります。高い順番に製造業 ≻ 小売業 ≻ 卸売業となります。適正水準は一概には言えませんが、製造業なら10%以上なら優秀、6%以上なら可でしょうか。小売業は4%以上なら優、3%で良、2%で可でしょうか。小売業でも外食産業は5%以上で可となります。卸売業は業態によってかなり違います。1~2%が平均でしょうが、1%未満でも問題ないものもあります。
売上高営業利益率が同業他社に比べ高い会社は、株価の評価も高い場合が多いです。ただし、投資に当っては、なぜ高い利益率がもたらされているのか、そして高い利益率の持続性についてはどうか、それを考えるべきです。また、PERの水準は、事業のリスク、収益の安定性から見て妥当かどうか考えてみます。どんなに素晴らしい会社でも割高で買ってはうまくいきません。
固定費と変動費率が決める損益分岐点
費用と収益(売上高)が同じで営業利益がゼロとなる売上高のことです。損益分岐点を超え売上が増えれば黒字になり、損益分岐点を下回る売上なら赤字となります。
一般に、会社には売上に関係なく発生する費用と、売上に連動して増える費用があります。前者を固定費、後者を変動費と言います。固定費には、正社員の給与、自社物件の減価償却費、賃借物件の家賃などがあります。変動費には材料費や仕入れ商品の代金などがあります。売上に連動して発生する変動費の割合を変動費率と言います。
営業利益と売上高の関係は、以下となります。
営業利益=売上高-売上高×変動費率-固定費
右辺の売上高を括ると、
営業利益=売上高(1-変動費率)- 固定費
となり、括弧内の1から変動費率を引いたものが限界利益率です。つまり、限界率とは次のように表せます。
限界利益率=1-変動費率
限界利益率は、固定費控除前で売上高に連動して発生する利益の割合です。限界利益率を使って営業利益を表すと、以下のようになります。
営業利益=売上高×限界利益率-固定費
限界利益率は業種によって水準が違います。一般に高い方から、製造業 ≻ 小売業 ≻ 卸売業となります。製造業の方が売上高の振れに対し、利益の振れが相対的に大きいことになります。
限界利益率を左右する要因とは
でも実際はどうかというと必ずしもそうとは言えません。どの業種でも厳しいときは固定費の削減に動きますし、逆に積極姿勢に出て大きな設備投資をやると、売上がそれほど増えていない段階で減価償却費(=固定費)が利益を圧迫することもあります。小売業でも商品の多くが海外で生産されているものであるなら為替の影響を受けます。売上高が増えていても数量が減っていて、円安で限界利益率が下がっていると利益が減ることもあります。
もし会社の収益構造が変化しないなら、売上高と営業利益の2期分があれば限界利益率と固定費を推定することができます。でも、前述のように会社は変化しており、またマーケットも外部環境も変化しており、正しく推定することはできません。ただし、投資においては、厳密な数値でなくともその会社の限界利益率と固定費がどの程度であるか、そのイメージを持って置くべきでしょう。
金融リテラシー講座 第21回 あの人気銘柄より稼ぐ素顔を持つ同業とは?収益力の分析②
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
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