急落時には安値を拾う
ギリシャは影響少だが中国の大幅減速は世界景気に波及
木村喜由のマーケットインサイト
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マーケットEye マーケットインサイト, 木村喜由
市場には不思議と波乱になったり、最安値、最高値を付けに行くような極端な値動きをしやすい時間帯がある。その筆頭は8年間に5回、19か月おきに6週間ほど起きる金星逆行(天球の黄道上で見かけだけ東に動く)の時期である。今年は獅子座で7月25日から9月9日まで逆行する。
金星逆行の時の相場にはおおまかに3通りのパターンがある。
- 逆行開始日に向けて強いトレンドを描く
- 逆行の中ほどに極端な頂点を付ける
- 逆行開始から終点まで一貫したトレンドを描く
となる。今回は高値の後のパターンだ。
獅子座の金星逆行は相場大転換
89年の大天井も、09年3月の大底も、TOPIXの大底となった12年6月も金星逆行の時期だった。前回8年前の獅子座の金星逆行はサブプライム問題が表面化して、8月から崩れ、翌年リーマンショックに至って09年3月まで下げ続けた。しかしバブっていた中国市場だけはこの時期上げ続け、何事もないかのように10月まで急伸を続けた。愚かにも米国投資家はこれを見て楽観し、ダウもSP500も高値を更新したが、その後高値から54.4%の大暴落を見ることとなった。
8回に1回は空振りがあるが、今回の金星逆行が相場大転換の転機となる可能性は否定できない。歴史的な長期大幅高または急激な上昇以降のマーケットといえば、米国と最近の中国しかない。特に中国は、経済減速が政府の努力ではどうにもならなくなったということで、あろうことか政府主導で株価を吊り上げ、個人消費を刺激して景気を持たせようとしたらしい。天に唾する行為であり、その罰は大きいだろう。
ギリシャは20日には決着、影響は小さい
最近の相場波乱と言えば、ギリシャの債務問題を想起するが、実際問題としてどう転んでもこの問題だけで世界経済が変調を来たすことはありえない。投機筋が材料を針小棒大に膨らませ、大きく相場を動かす材料として悪用しているだけである。それに比べて中国株の問題は、国際投資家の保有が少ないから直接の影響は小さいが、投機に乗った個人投資家は少なくとも数千万に上り、ほとんどが大損したうえ、半数の銘柄が売買停止するなど、市場機能を喪失し、マーケットとしての信頼は失墜した。
ギリシャのユーロ存続の可否は遅くとも20日までには決まる。その影響は知れたものであり、もしユーロ脱退の公算が強まれば残った健全財政国家で構成されるユーロは大きく買われるだろう。ギリシャ問題にも拘らずユーロが下がらなかった事実がそれを暗示している(3か月近いレンジ相場)。
最悪、中国のマイナス成長もある
2000年以降の世界経済のリード役が中国だったことは明らかだ。だが世界経済のトップとして立てる内実があるかどうかと問われれば、100%ノーだろう。優秀な人材を多く抱えることは認めるが、法制度、組織、現場の管理体制は欧米や日本に比べて大幅に見劣りすることは否定できない。
経済の国際比較分析をした人なら、全員が中国の高成長が持続不可能なことを認めるだろう。状況に応じアップダウンが当然の投資関連(設備、住宅、公共)の比率がGDPの半分もある。日本では22%、米国では20%前後でしかない。すでに中国は生産年齢人口が減少に転じており、この面では日本の95年当時の状況に近い。つまり国民は徐々に守りに入る意識が強くなり、楽観的な政府による「大本営発表」のデータやプロパガンダには反応しにくくなる。結論は右肩上がり神話の崩壊である。
中国の資源爆買いは終わった
端的に弱気相場の前兆を物語っているのは商品市況である。原油の下落はイランの輸出市場復帰という問題があるからやや特殊だが、石炭、鉄鉱石、銅などの下落は中国の資源爆買いが終わったことを意味している。最初は米国の引き締め転換に反応したものと思われたが、最近のデータを見る限り、需給バランスが緩和したためと理解するほかない。一番悲観的なシナリオでは、来年以降のマイナス成長まで考えておく必要がある。
米国の経済指標を見る限りでは、9月利上げ開始の公算が強いように見えるのだが、中国株価と商品市況が下がり続けるのであれば、慎重派のイエレン議長がしばらく静観を決断する可能性は十分ある。皮肉なことにそれは円高材料となるため、日本株にはネガティブとなるだろう。
借入による自社株買いが米国株上昇の背景
米国株の動きはどうか。とても強いとは言えない。チャートが判る人ならむしろいつ大きく崩れるかを警戒するのが普通の感覚だろう。これまでの長い上昇トレンドは、超低金利による安い借入金で自社株買いを大量に行った結果であることが判っている。利益水準が維持できれば問題ないが、世界景気にネガティブな動きが現れて利益のトレンドが下向きになるなら、すぐに10-15%の下げが生じてもおかしくない。
総じて考えると、下げた後にも拘らず、今後1か月は上値を追う展開は考えにくく、むしろ意外なほどの大幅安があった場合に安値を拾えるかがポイントになるように思う。仮に中国が大幅減速しても、自国の投資が激減するだけで世界経済への影響は比較的軽いと思われ、日本企業の扱う商品は比較的影響が少ない。早すぎる買いは厳に慎むべきだが、優良株の安値が帰る場面があればぜひ拾いたい。
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
マーケットインサイト<2015年7月号>
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