基本の話by前田昌孝(第49回、株主優待なぜ増える)

株主優待制度を導入する企業がここにきて急増しています。野村インベスター・リレーションズ(IR)のホームページで検索すると、1月末現在で何らかの優待制度を導入いている企業は1662社(東京プロマーケット上場企業を除く)に達していました。2025年3月末には1580社でしたから、1年足らずの間に82社も増加しました。数年前には廃止企業が相次いでいたのに、事情が変わったのでしょうか。

上場企業の43%が導入

海外にも株主優待と似たサービスを導入している企業がないわけではないようですが、日本のように全国上場企業3861社(1月末、プロ向け市場を除く)の43・0%もの企業が導入しているところはありません。図表1に示す通り、東証プライム上場企業に限ってみても、合計で1593社上場しているうち、45・1%に当たる718社が導入しています。

優待の内容はいろいろですが、野村IRによると、人気銘柄のベスト5はイオン、日本マクドナルドホールディングス、すかいらーくホールディングス、ヒューリック、ダイドーグループホールディングスとなっています。

イオンは株主に年2回、株主優待カードを配布し、グループ系列の店舗で買い物をした場合に、保有株式数に応じて購入額の1~7%のキャッシュバックを受けられる仕組みです。マクドナルドやすかいらーくは食事券、ヒューリックはグルメギフトや施設利用券、ダイドーグループは飲料・ゼリーの詰め合わせを贈っています。

多くの企業は決算期末など基準日時点で株主名簿に配当を支払っています。優待はこれに加えて何らかの価値があるものを配っているわけですが、現金なのか現金以外なのかというポイントのほかに大きな違いがあります。配当は保有株式数に完全比例して支払われるものですが、優待は一般に不平等です。

株主平等原則に反する

例えば、割引運賃で国内線に乗れる優待券(株主優待番号ご案内書)を半年ごとに発行しているANAホールディングスでは、100株から400株までの株主には100株について1枚を配布していますが、400株超えると200株について1枚、1000株を超えると400株について1枚、10万株を超えると800株について1枚になります。

配当は単元未満株といって、保有株式数が取引所での売買単位(100株)に満たなくても、1株から支払われますが、優待は一般に単元未満株だけを保有している株主は対象になっていません(対象にしている企業もある)。ただ100株、200株といった零細株主のほうが、何万株、何十万株も保有している大株主よりも効率的に受け取れます。

「個人株主に対するサービスのようなものだから、それで何が問題なのか」と言われるかもしれません。しかし、会社法109条1項には「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」という規定があります。「株主平等原則」と呼ばれる規定です。

会社法の専門家の間からは株主優待はこの「株主平等原則」に違反するという指摘もあります。優待内容も国内に居住していなければ使いにくいものが多く、海外の投資家からは優待制度を廃止してその分を配当に回すべきだといった声が出ることがあります。

相次いだ優待廃止

だからというわけではありませんが、数年前には株主優待制度を廃止する企業が相次ぎました。図表2は導入企業数の推移を示していますが、2019年9月末に1532社だったのが2022年9月末には1473社まで減少したことが見てとれると思います。

このときの減少は、新型コロナウィルスの世界的な流行に伴って経済活動が麻痺し、企業の業績も悪化して優待どころではなかったという側面もありました。ただ、それだけではありません。2022年2月14日には自社商品の食品などを贈っていた日本たばこ産業(JT)が2022年12月末の株主を最後に株主優待を廃止すると発表しました。

カタログギフトを配布していて人気があったオリックスも2022年5月11日に「2024年3月末の株主を最後に株主優待を廃止する」と発表しました。

両社とも優待人気ランキング上位の常連で、JTは2022年度末に71万6575人の個人単元株主を抱えていました。オリックスは同じく2022年度末に84万7682人の個人単元株主を抱えていました。

JTは「優待よりも配当で還元」という方針通り、その後も高めの配当利回りを維持したため、個人単元株主は2024年度末の94万1050万人に向けて増え続けましたが、オリックスは優待の魅力がなくなったため、2024年度末の個人単元株主数は67万9249人まで減少しました。

ちゃっかり組への対応策

多くの企業は短期売買の投資家が株式の流動性を高める役割を担っていることは十分に理解しつつも、長期に株式を保有してくれる株主を増やしたいと考えています。株主優待制度の導入はこうしたファン株主づくりが大きな狙いになっています。

しかし、個人の株式売買の中心がオンライン証券に移った結果、優待を受ける権利を確保することだけが目的のような売買が増え、企業も困惑するようになりました。権利確定日だけ株式を保有し、同時につなぎ売りを出すことによって、株価が変動するリスクを抑えながら、ちゃっかり優待品だけをもらおうとう売買が増えてきたのです。

特に優待人気ランキングの上位企業にはこうした売買が集中しますから、廃止しようと考えるのは無理もなかったと思います。

と同時に株式の保有期間に応じて優待内容に差をつける「長期保有優遇」の仕組みを取り入れる企業も増えました。一般に企業は誰が株主であるかを本決算期末と第二四半期末(中間決算期末)に確認しますが、3回連続で名簿に出てきたら1年保有、5回連続で出てきたら2年保有、7年連続で出てきたら3年保有と考えるわけです。

基準日だけ株式を保有していれば対象にする従来の優待に加えて、保有期間に応じてプラスアルファの優待品を配布する企業もありますし、そもそも1回株主名簿に出てくるだけでは対象外で、少なくとも1年とか2年保有していなければ優待品を贈らない企業もあります。

いずれにしても何らかのかたちで長期保有優遇の仕組みを取り入れている企業の状況は図表3の通りです。プライム上場企業だけをみると、優待制度を持っている718社の57・1%に当たる410社が長期保有優遇の制度を取り入れています。

株主構成の若返りを狙う

2022年まで減少していた株主優待制度の導入企業数がその後、増加に転じたのは4つの理由があります。1つは少額投資非課税制度(NISA)の大幅拡充を背景に若年層の投資デビューが相次いでいるため、この流れに乗って株主構成を若返させようというわけです。

若年層は一般に資金力が乏しく、投資額も少額ですから、上場企業の多くは大幅な株式分割を通じて1単元当たりの投資額(投資単位)を引き下げることにも前向きに取り組んでいます。

東京証券取引所はかねて「望ましい投資単位の水準」として「50万円未満」という基準を上場規則に書き込み、企業に努力を促していますが、2025年4月には「個人投資家のニーズ調査に基づく参考値」として「10万円程度」という目安も打ち出しました。

企業によって濃淡はあるでしょうが、投資単位の引き下げと株主優待の魅力によって、若年層の株主を増やすことを重要だと考えている企業は確実に増えています。高齢の株主は終活や相続をきっかけに保有株を売却してしまいますから、放置していると個人株主数は減ってしまいます。

若い株主を増やすことに努力を傾け、せっかく株主になってくれた若年層が失望して売却しないように魅力ある経営をすることは、企業自身の活性化や若返りに直結します。

買収防衛にもつながる

株主優待制度や長期保有優遇に引き付けられて株式を保有している個人株主は、いわばその企業のファン株主といえるわけですから、経営陣がよほどダメな経営をしていない限り、その企業をターゲットにした同意なき買収者が現れても、簡単には株式売却に応じない可能性があります。

機関投資家は買収価格さえ合理的ならば、同意なき買収者が実施する公開買い付け(TOB)にも応じてしまうでしょうが、個人株主は一人ひとりの考え方がバラバラです。たとえばイオンのような企業を買収しようと考えた場合、買い物代金のキャッシュバックを期待して株主になっている個人投資家に、どれくらいの買い付け価格を提示すれば、買収に成功すると想定できるでしょうか。

ファン株主を企業から引きはがすことは買収者にとってもハードルが高いのではないかと想像できます。ファン株主作りを怠らないことは、同意なき買収者を遠ざける効果が期待できると考えらえます。

広がるデジタル優待

かといって投資単位を引き下げ、若年層の個人株主が増えても、その株主管理に多額のコストがかかるようでは、企業は対応できません。株主総会に関連した資料など、従来は株主に郵送していた書類の多くは、インターネットを使った電子提供が可能になりました。

まだ日本では一般的ではありませんが、物理的な会場を設けないバーチャルオンリー株主総会も制度的にはできるようになっています。

ただ、優待品の梱包や郵送におカネがかかるようでは、小口株主を増やすインセンティブはないでしょう、株主優待を導入する企業が増えているのは、この問題を克服できるデジタル優待が普及し始めたことも要因になっています。

デジタル優待とはインターネットを通じて電子チケットやポイントを贈ることです。スマートフォン(スマホ)に取り込んで使用します。年配の株主には使い勝手が悪いと評判が悪いのですが、企業が獲得したいのは若年層の株主ですから、高齢層には何とか理解を求めるということのようです。

どれくらい普及しているのか正確な統計はありませんが、筆者が優待品として食事券を贈っている226社を総ざらいしたところ、従来タイプの優待を併用しているところも含めて43社がデジタル優待を導入していました。

個人単元株主数が日本で最も多い2025年3月末の株主から優待制度を導入したトヨタ自動車も、基本はデジタル優待になっています。

日証協の報告書がお墨付き

株主優待制度は株主平等原則に反するのではないかという指摘があることは前段で述べた通りですが、日本証券業協会が2025年4月15日に「株主優待の意義に関する研究会」の報告書をまとめ、「株主平等原則との関係に関しては、株主優待の目的の正当性(≒必要性)が認められ、相当性の範囲内で提供されるものであれば、株主平等原則に抵触しないと考えられる」と整理したことも、企業に優待制度の導入を促す一因になっています。

証券界の報告書ですから、手前味噌な印象もありますが、4割以上の上場企業が導入していて企業も個人投資家もメリットを感じているものを、日本だけの歪な慣習だから廃止しろというわけにもいかないでしょう。日本国内で活動している70以上のアクティビスト(物言う株主)らからも、株主優待制度の廃止を求める声は出ていません。

アクティビストらも今後、株主優待制度の存在が利益追求の障害になっていると感じたら、黙ってはいないでしょうが‥‥。(マーケットエッセンシャル主筆)


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