子供のために、ジュニアNISAを開設する?
遠吠え(ペンネーム)
4月1日から少額投資非課税制度(NISA)の子ども版のジュニアNISAを通じて、株式や株式投資信託への投資ができるようになった。0歳から19歳までの未成年名義で口座を開設すれば、年間80万円までの投資の果実が非課税になる制度だ。
ただ、仕組みは相当複雑で使い勝手は良くない。証券会社でも「顧客の反応は鈍い」と話していたが、どうにかならないものだろうか。
そもそも使い勝手の悪さを言い出せばきりがない
そもそも成人版NISAの使い勝手が良くない。
NISAのお手本にした英国の個人貯蓄口座(ISA)と比較すると、年間の拠出上限額がISAは1万5240ポンド(約245万円)なのに、NISAは半分の120万円にとどまっている。ISAはいつまでも非課税なのに、NISAの非課税期間は最長5年と短い。
NISAは最初に買った株式や株式投信が思惑通りに値上がりしたら、売却して別の株式や株式投信に乗り換えても、非課税措置を続いて受けられる。口座からお金を引き出さない限り、ずっと非課税なのだ。
この商品の乗り換えがNISAではできない。売ってしまったら、そこで非課税措置は終わる決まりになっている。
このほか海外に赴任した場合の口座の取り扱いや、株式・株式投信の配当・分配金を再投資する場合に拠出枠が食われることなど、NISAの使い勝手の悪さを言い出せばきりがない。
ジュニアNISAはこうしたNISAの問題点をそのまま抱えたうえで、「18歳になるまで、お金を引き出すことができない」という条件が付くから、ややこしい。
「課税ジュニアNISA口座」もややこしい
例えば、ジュニアNISA口座を通じて購入した株式や株式投信が配当や分配金を産んだ場合、これを18歳まで引き出せないようにするために、「課税ジュニアNISA口座」と呼ぶ別の口座に振り分けておかなければならない。ジュニアNISA口座で買った株式を売却した場合の代金も課税ジュニアNISA口座に入る。
最長5年間の非課税期間が過ぎた後に株式や株式投信を持ち続ける場合も、翌年のジュニアNISAにロールオーバーするか、課税ジュニアNISA口座に移すかを決めなければならない。
このようにジュニアNISA口座は常に課税ジュニアNISA口座とセットで考える必要がある。
さらにややこしいのは、ジュニアNISAは2023年までの8年間の時限措置だから、口座保有者の年齢によっては、成人になる前に制度そのものが終わる可能性がある。これを補うのが「継続管理勘定」という仕組みだ。
2024年以降、ジュニアNISAの最長5年の非課税期間が過ぎたら、上限80万円の範囲内で継続管理勘定にロールオーバーし、20歳まで非課税のまま株式や株式投信を持ち続けられるようにした。
NISAやジュニアNISAの難解さの多くは、制度を恒久化し、最長5年という非課税期間の制限を外せば、取り除かれるはずだ。
「NISAの拡充は金持ち優遇につながる」との反対論が出るだろうか。国の財政難を考えると、富める層に多少の税制インセンティブを付けて自助努力を促しつつ、貧しい層に手厚く社会保障を付与すことが賢いやり方ではないだろうか。英国はこうした戦略を持ち、ISAの拡充に努めている。
遠吠え(ペンネーム)
経済ジャーナリスト。取材歴三十数年のベテラン。消費者、個人投資家の目線に常に立ち、証券界、取引所、行政に対する切れ味鋭い辛口論評が特徴。401k、NISA、投資家教育への造詣が深く一家言を持つ。
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