基本の話by前田昌孝(第50回、オルカンは投資なのか)
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初級, 無料記事 オルカン, マーケットエッセンシャル, 前田昌孝
投資信託への積み立て投資で一番人気の全世界株式型投信(通称オルカン)ですが、SNS(交流サイト)では「オルカンは投資なのか」という議論が持ち上がっています。「投資」をどう定義するかによって答えは変わってくるような気もしますが、論点をどう整理したらいいのでしょうか。
2月末にS&P投信を追い抜く
オルカンは投信運用の大手、三菱UFJアセットマネジメントが自社商品の「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」に付けた登録商標です。投信の大きさは一般に時価ベースの運用資産額(純資産総額)で表現されますが、2月末現在では10兆2846億5300万円と、日本の公募投信のなかでは5番目の規模になっています。
もっとも首位の「TOPIX連動型上場投信」(運用は野村アセットマネジメント)から第4位の「iFreeETF TOPIX(年1回決算)」(運用は大和アセットマネジメント)までは、日銀が買い入れ対象にしてきた上場投信(ETF)ですから、もっぱら一般の投資家が購入している投信のなかでは、オルカンがナンバーワンといってもいいでしょう。
実はオルカンが第5位になったのは2月の最終営業日に当たる27日のことでした。前日の26日までは同じ三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」が第5位で、オルカンは第6位でした。S&P500連動投信が2月26日の10兆3401億円から27日の10兆2652億円に減少し、初めてオルカンを下回りました。

2023年末には1兆円強の差
少額投資非課税制度(NISA)が大型化した2024年1月当時、マネー情報誌などで、オルカンとS&P500のどちらを選ぶべきか盛んに議論されていたのは記憶に新しいのではないでしょうか。
「オルカンといっても組み入れ銘柄の6割強は米国株だから、やはりパフォーマンスは米国株次第ではないか」「それでも少しでも分散したほうがリスクに対する期待リターンは大きくなるのではないか」などと、熱い議論が戦わされたように思います。
S&P500は米国の主要500社で構成する株価指数ですが、時価総額が大きい巨大ハイテク企業の株価上昇を支えに、大きく値上がりしていました。2023年末のS&P500連動投信の純資産総額は2兆9987億円と、オルカンの1兆8205億円を1兆円以上、上回っていました。
グラフはオルカンが連動を目指しているMSCI全世界株指数(配当込み、円ベース)とS&P500(配当込み、円ベース)の推移を示しています。2016年1月末を100として、その後の動きを指数化して描いていますが、2023年末時点では全世界株指数が272・1、S&P500が331・1でした。

上昇率が大きいほうに投資することが投資として正しいのかどうかはわかりませんが、やはり上昇率の大きさが個人の投資マネーを大きく引き付けてきたことがわかります。実際、元本ベースの資金流入額を計算すると、S&P500連動投信は設定された2018年7月3日から2023年末までの累計で2兆2208億円に達していました。
オルカンの設定日はS&P500連動投信よりも約4カ月遅い2018年10月31日でしたが、設定から2023年末までの資金流入額は1兆4824億円でした。
ネーミングの勝利か
ただ、パフォーマンスの違いが個人マネーを引き付ける誘因になるのならば、2023年末から2026年2月末にかけての26カ月間でも、S&P500の上昇率は64・3%と、全世界株指数の67・5%と比べ、それほど見劣りしているわけではありません。ところがこの26カ月間の資金流入額を比較すると、S&P500連動投信が勝ったのは2024年11月から2025年2月にかけての4カ月間だけでした。

26カ月間の合計の資金流入額はオルカンが5兆7233億円だったのに対し、S&P500連動投信は4兆3715億円にとどまっていました。グラフに示すように、2024年1月からのNISAの大型化を境に、ベストセラーが交代したといってもいいでしょう。
「オルカン」という商標で登録していたことも、絶妙でした。設定当初からこの商標を付けていたようですが、2023年秋ごろから新聞紙面などにも「オルカン」の表現が出てきて、若年層に影響力があるユーチューバーらも積極的に使いました。もしこの商標がなかったら、純資産総額がここまで伸びなかったかもしれません。
特に2026年に入ってからはオルカンへの資金流入額がS&P500連動投信の2倍近くになっています。このままの勢いで資金流入が続くと、世界の株式相場の水準が変わらないとしても、2026年末にはオルカンの純資産総額が13兆円を超え、S&P500連動投信を1兆円以上引き離しそうです。
37%が米国外の企業
オルカンの優位性が高まっている理由は何でしょうか。前述のように組み入れ銘柄の時価総額構成比で約6割、正確にいえば2026年1月末現在で62・96%が米国株ですから、オルカンに投資していても米国株の下落リスクを回避することはできません。それでも37%を米国株以外の株式で持つことで、リスクが多少は分散されているという感覚が持てるのかもしれません。
信託報酬が0・05775%(税込み)と、S&P500連動投信の0・0814%(税込み)に比べて低い点も、個人マネーを引き付ける一因になっているようです。アクティブ運用の投信などは信託報酬率が2%前後のものもありますから、格段に低いのですが、それでも純資産1000万円に対する信託報酬に年2365円の差があります。

S&P500連動投信のほうが明らかに高いリターンが期待できるといった要素があるわけでもありませんので、わずかとはいえ、個人投資家は余分な費用を負担したくないのでしょう。
「投資ではない」との立場
オルカンが投資なのか投資でないかの論点は、著名な個人投資家のテスタさんの発言がきっかけになったといわれています。テスタさんは投資ではないと考えているようですが、リスクがある代わりに高いリターンがえられる可能性がある金融商品におカネを振り向けることを投資と定義するのならば、テスラさんは間違っているように感じます。結果が思惑通りにならなくても、誰のせいにもできないという点でも、オルカンは投資のカテゴリーに入るでしょう。
しかし、オルカンの購入者は何に投資しているのでしょうか。MSCI全世界株指数の構成銘柄になっている世界の約2500の企業の株式を買っていることはわかりますが、個々の企業の良しあしも選別せずに、まんべんなく株式を買うことを投資と言っていいのでしょうか。

資本主義経済は市場の資金配分機能を通じて、資金がダメな経営をしている企業から優れた経営をしている企業に流れ、限りある資源が生産性の高い部門に効率的に配分されることによって経済成長が促されるという前提に立っています。
企業の良しあしを選別する作業には手間とコストがかかりますから、まんべんなく指数採用銘柄を購入することが資金運用手段として効率的だというのはわかります。株価の先行きなど誰にも分らないのだから、企業の選別などは無意味で、インデックス投信を買っておけば十分だという考え方もあるでしょう。
しかし、ダメな企業も優れた企業と同様にまんべんなく株式を買うことは、市場の資金配分機能を弱めかねない行為と言えるのではないでしょうか。
バフェットさんが考える投資
インデックス投信の購入が投資ではないなどというと、米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏も家族にはS&P500に連動する投信の購入を薦めているではないか、との反論が返ってくるかもしれません。2025年末までバフェット氏が最高経営責任者(CEO)を務めていた投資会社バークシャー・ハザウェイもS&P500連動投信を買っていたことがあります。

しかし、バフェット氏が家族にインデックス投信を薦めていたのは、バフェット氏のような選別投資が家族にはできないと考えていたからです。それはそうでしょう。バフェット氏の投資スタイルは究極のアクティブ運用で、株価を追い掛けるのではなく、事業家の目で企業をみて、将来伸びそうな企業の株式を割安なうちに買うことを最重視していました。
企業経営や株式市場に詳しくない家族には同様なことはできませんから、資産運用の手段としてインデックス投信を薦めていたのです。ただ、オルカンのような全世界株式型の投信を薦めたわけではありません。バフェット氏は米国企業の成長力を信じるとの立場から、米国企業だけを組み入れるS&P500連動投信を薦めていました。
オルカンを買い続けることが資産形成として成功につながるかどうかはもちろん株式相場の展開次第ですから、期待のし過ぎは禁物だと思いますが、効率的な資産運用手段の1つであることは確かでしょう。しかし、本当の意味での投資ではないように感じます。株価を追い掛けているだけですから。
(マーケットエッセンシャル主筆)
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