株式時価総額は会社の価値を正しく評価しているか?
貸借対照表を読み解く③
金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第6回
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
さて、株式に投資するとして貸借対照表をどのように分析するのか。
一番大事な視点は、その会社の株式すべてを取得するつもりで考えて見ることです。100株買うのであっても、その会社すべてを買うつもりで考えます。株式全部を買うということは株式の時価総額を知る必要があります。
株式時価総額は、株価に発行済み株数を掛ければ簡単に計算できます。自社株取得などで会社が保有している自己株は発行済み株数から除きます。
会社の価値は資産サイドによって裏打ちされますが、株式の評価が正しくなされていれば、前回示したように、
【 会社の価値 = 負債の時価総額 + 株式の時価総額 】
負債の時価総額は貸借対照表の負債の額を使うとすると、
【 会社の価値 = 負債 + 株式の時価総額 】
株式の時価増額に焦点をあてると
【 株式の時価総額 = 会社の価値 - 負債 】 ・・・ (1)
となります。つまり、株式時価総額は、本来は会社の価値から負債を差し引いたものと一致するはずです。ところが、株式市場は常に正しく値付けされているとは限りません。むしろ、正しく評価されていない時間はかなりあると思われます。
投資に成功するには、上記(1)の式において、株式の時価総額が「会社の価値-負債」より十分小さい時に投資することになります。つまり、つぎのような状態にある時です。
【 株式の時価総額 ≺ 会社の価値 - 負債 】・・・ (2)
式(2)のような状態にあることを正しく判断できれば投資は失敗しないことになりますが、残念ながらそうはいきません。会社の価値を正しく判定するのが難しいからです。ある製品の価値をその製品の原材料一覧表から計算するようなものです。
ただし、貸借対照表を見ると製品の原材料一覧表とは違う部分があることに気付きます。製品には無駄のところはなく、原材料すべてで構成されていますが、会社には現預金のように事業と切り離しても価値のあるものも抱えています。売掛金、売却可能な有価証券などもそれに該当します。こういった資産を仮に金融資産と呼ぶことにしますと、【 会社の価値=金融資産+事業価値 】と考えられます。会社の価値を計測することは難しいですが、少なくともその一部を構成する金融資産は貸借対照表で分かります。
式(2)は、【 株式の時価総額=金融資産+事業価値-負債 】となり、整理すると、
【 事業価値 = 株式の時価総額 + 負債 - 金融資産 】・・・ (3)
となります。
式(3)の右辺は計算できるか貸借対照表を見れば分かります。(3)により計算された事業価値の額が、損益計算書等の分析から得られる事業価値に比し十分小さいものに投資することは有力な方法と思われます。
下の表は、式(3)により計算された事業価値が十分小さいと思われる銘柄の例です。
株式コード | 1787 | 5985 | 1828 | 5928 |
---|---|---|---|---|
銘柄 | 石油資源開発 | サンコール | 田辺工業 | アルメタックス |
株価(5月16日終値、円) | 3,905 | 556 | 666 | 354 |
発行済株数(除自己株) | 57,152,637 | 31,715,352 | 5,350,730 | 10,305,769 |
A.株式時価総額(百万円) | 223,181 | 17,634 | 3,564 | 3,648 |
B.負債(百万円) | 240,702 | 9,193 | 10,454 | 2,166 |
C.金融資産(百万円) | 350,221 | 22,538 | 14,208 | 5,484 |
A+B-C(百万円) | 113,662 | 4,289 | -191 | 330 |
石油資源開発は大型株の中では事業価値の評価が小さい会社の1つです。田辺工業やアルメタックスのように小型株の中には事業価値がほぼゼロで評価されている会社もあります。
次回以降、もう少し貸借対照表の話を進めます。
金融リテラシー講座 第7回 どちらの会社が資産を有効に使っているか?貸借対照表を読み解く④
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