木村喜由のマーケット通信
追加金融緩和で株の潜在リターンは低下
GPIF買いも当面期待薄
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日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
10月31日の日銀政策決定会合は正真正銘のサプライズだった。個人的には3.11東日本大震災よりずっと衝撃的で、実際に株価の動きも震災当日は大引けまで1%強、夕場までに3%しか下げなかったのに対し今回は225先物が夕場17,000円に到達し、7%弱も上がっている。原発事故さえ起こらなければ3.11の株価押し下げは5-7%までだったろう。
いくら何でもこれはやり過ぎ
黒田総裁が提案したETF買い付け枠3倍増、長期国債買い付け枠30兆円増などは確かに株高と円安促進によりデフレ脱却に有効なのは間違いない。おそらくは言われているようにGPIF改革の発表に合わせて発表することで、市場インパクトを強くする狙いもあったのだろう。株高円安を見せ付けることにより、安倍政権に消費税率引き上げを先送りする選択肢を封じる意図もあったはずだ。
しかし、採決の際に9人中4人の民間出身委員が揃って反対したことが象徴するように、今回の行動は中央銀行として「本来やってはいけないこと」を一段と盛大に行うものであり、正統派のエコノミストや財政・金融の専門家なら確実に反対するはずである。
年間3兆円の株式買い越しは明確に市場を意図的に誘導するものであり、国債残高の4割を日銀が保有することになる今回の決定は、実質的に国債の中央銀行引き受けという恥ずべき行為である。よくもまあ臆面もなくこんな決定をしたものだ、という印象だ。生死を分かつような危機においては、目的のためには手段を選ばないということが許されると思うが、現在はそこまで行き詰った状態ではなく、後世の研究者が判定すればやり過ぎだった、という評価に落ち着くのではないか。
先食いの反動に注意、消費税&円安の悪影響も
当面は株価水準が上がってその資産効果により消費も増えるだろう。だが今回のように一気に大きく水準が上がってしまうと、今後の上昇余地が限られてしまい、むしろこれからの株式投資の潜在リターンは下がってしまったのではないか。また、一段と円安が進んでしまったため、都市部と地方、大企業と中小企業・消費者という為替変動によるメリット・デメリットのコントラストは一段と強くなった。
これで消費税率追加引き上げがほぼ確実になったため、消費増税・円安双方の弱者に対する政策的サポートは一段と必要性が高くなったが、どちらも消費税も円安も広く薄く悪影響が出るものなので、その対策が非常に難しい。安倍首相は3兆円規模の補正予算をする意向だが、特定条件に見合う対象者に限られる補助金や支援策はむしろ不公平を助長・複雑化する危険性が高い。
地方の場合、それらの結果、企業収益も消費も落ち込んでおり、賃金を上げてくれと政府から号令をかけられてもおいそれと従える状況にはない。残念ながら黒田バズーカ2でもただちに物価上昇と賃金上昇の好循環が回転し始める風には見えない。
GPIFの株式比率は自然と高まる
なお、週末の急騰は、先物オプションなどで売りを保有していた投資家がロスカットポイントに到達して半強制的に買いを入れる流れが連鎖的に起こり、米国の取引時間帯まで続いていた。すなわち先物などの短期的需給要因のために、バリュー面に関係なく買い上げられていた要素があることは理解しておいたほうがよい。日経225は週末終値で16,413円だったが、夕場も海外市場の堅調と円安の追い風を受けてシカゴ先物は17,000円付近で終わっている。状況に大きな変化がないならば週明けはその近辺で始まる公算が強いが、あまり投資意欲を掻き立てるほど魅力的な水準ではない。
時々書いているが、日経新聞で表示されている日経225の予想PERは実際の225インデックス(単純平均)のものではなく、対象銘柄全体の時価総額を純利益合計額で割ったものなので、実際より15%ほど低くなっている。これを補正して計算すると、17,000円では予想PERは何と18.8倍である。
おススメは日経225、TOPIXよりJPX400
これに対し同じインデックスでもJPX400は加重平均であるため、週明け225と同程度の上昇があった場合でも予想PERは16.35倍にとどまるため、はるかに割安感がある。日銀は今後ETF購入対象として従来のTOPIXオンリーに対しJPX400も加えるとしているが、銘柄入れ替えに際して若干ロスが発生する弱点はあるものの、少なくとも過去3期間の収益実績が確認されている銘柄であるため、東証一部全銘柄を対象とするTOPIXのように負け組銘柄を少なからず含むインデックスよりはましである。
大証では11月25日からJPX400の先物取引が開始される予定であるが、裁定取引を行う際に現物バスケットを扱う労力やトラッキングエラーの可能性はTOPIXより小さいため、裁定業者は意図的に売買をTOPIXからJPX400にシフトさせる公算が強い。あれこれ考えると、一般投資家が市場連動ETFを毎月あるいは隔月にほぼ定期的に購入したり、一定のテクニカル指標などで割安感が強まった時に買うなどの買い付けプログラムを持って臨むなら、日経225は割高で失格、TOPIXは銘柄の質の面で見劣りし、消去法でJPX400がお勧めということになる。
日銀のETF大量買付けですっかり新規の買い手として影が薄くなってしまったのはGPIFである。新たな目標となる日本株組み入れ比率25%を数年かけて達成するとされるが、これは株価が安めに推移すれば早く購入を進め、高めに推移すればわざわざ買い付けなくても自然に比率が高まっていくので、あまり買わないという意味であろう。週末の急騰でおそらく20%近辺まで比率は高まったうえ、新年になると日銀の買いが増加するというのであれば、しばらく買いの出番はないのではないか。
Vol.1243(2014年11月1日)
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