木村喜由のマーケット通信
しばらく遊べるインバウンド関連銘柄
過熱して急反落してもまた戻す
訪日旅行客数が30%増、2000万人達成も確実
大きく報道されていたが昨年の訪日旅行客数は前年比29.4%増の1,341万人となった。特に12月は前年比43%増の124万人となり、今年は昨年倍増した中国人観光客がビザの発給条件緩和により一段と増加するのは確実。手堅く見ても今年の旅客数は20%増程度は見込めそうである。そうなると年間1,610万人となり、為替の動向にもよるが政府が目標としていた2,000万人という数字は2017年頃には苦労せずに達成しそうである。
観光客需要でオリエンタルランドが急伸
最近株式市場では盛んにインバウンド消費、すなわち海外からの観光客による消費需要に絡んだ銘柄が取り上げられるようになっており、そのシンボルストックが東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランド(4661)である。アベノミクス相場が始まってからの安値12年12月10,240円から、この20日には32,385円まで3.16倍の上昇となっている。もっとも、13年末の安値14,060円からでも2.3倍の上昇と、いかにも株価の上昇スピードが速すぎ、PERも40倍を大きく越えておりここは新規投資厳禁のレベル。
トレンドは長そう、突っ込み場面で拾おう
しかし咋年2兆5千億円と推定される消費額は今年も20%増となり、その後も増勢が期待できるとなれば、関連銘柄はアップダウンを繰り返しながら周期的に高値を取りに行く公算が強く、全般の地合いが悪化して反落したところは拾い場ということになる。
テーマ銘柄が人気化したところは、話題も出来高も多くて参加したがる向きも多いが、出来高が多いということは買いと同数の売りがあるということ。人気を追いたがる投資家と同じスケールで、利益確定組と割高感から売る向きの注文が激突しているということ。長期的に振り返ってみると、後者の見方が正しかったケースの方が圧倒的に多い。
とはいえ、業績トレンドの上向き基調が続いている場合は、高値を付けて急反落しても、いつの間にか値を戻し、新高値を更新するということが何回も繰り返されることがよくある。グッドニュースが周期的に飛び込んでくるのを待つ楽しみがあるため、株価指標が若干割高でも、買い安心感のプレミアム分として買い手が許容してくれるからだ。極端な例だがソフトバンクの株価が14か月で4倍以上に値上がりしたようなケースもある。
ガッチリと高配当利回り銘柄や低PER銘柄で下向きのリスクに備えてある投資家なら、1-2割程度をこうした息の長いトレンドを作りそうな銘柄に向けて売ったり買ったりのトレーディングを楽しむのもよいだろう。
この種の銘柄は、新聞報道や業績発表直後にオーバーシュートしやすい習性があるため、あまり欲張らずにこういう場面で利益確定するのが得策である。その後しばらくお休みし、同じ銘柄でも似たような銘柄でも、割高感の薄れたところで買い直すまで、じっと我慢する必要がある。忍耐した分だけ、成果が上がるというものだ。
国別観光客数の動きに見えるホンネ
訪日観光客を国別に集計した数字を見ると、日常抱いているイメージと違う現実が見えてきて面白い。
総数1,341万人のうち、トップは台湾で283万人・28%増、2位が昨年の首位から後退した韓国の276万人・12%増。ただし韓国は12月27万人・48%増と急速に盛り返している。
3位は中国の241万人・83%増。テレビを見ていると習近平氏のこわばった顔や小生意気な女性報道官ばかり出てきて、反日感情が盛り上がっているかと思わせるが、実態は逆。安い中国系航空は乗客満載で観光客が押し寄せている。
4位は香港の93万人・24%増。上位4か国はすべて漢字の文化圏で、やはり距離的にも文化的にも近い国同士なのだと実感する。何だかんだと言っても日本は近隣諸国から高く評価されているのだ。近場だから口コミの伝達、リピーターの増加も即効性がある。
急増の中国も人口比は0.18%、まだ増える
しかし人口比で見ると、もちろん業務で頻繁に往復する人を含んでいる数字だが、台湾が2,350万人の12.0%、韓国が5,000万人の5.5%、香港732万人の12.7%と非常に多いのに対し(驚くべし)、中国は13億6,000万人の0.18%に過ぎない。裕福な一握りの人たちが来ているだけともいえるが、彼らの所得水準が急速に上昇している一方、円が大幅に下がったため、金額的には最もお買い得感のある国になってきたということができる。潜在的な増加余地はまだまだ膨大と考えられる。
豪州・カナダは日本好き
これらに次ぐ5位に米国89万人・12%増がようやく顔を出す。だが人口は3億人だからほんの0.3%しか来ていない。これも驚いてよい数字。人口比で考えれば、英国22万人、フランス18万人、ドイツ14万人というのも米国並みの数字であり、特別に日本を選んで訪れているようには見えない。これに対し豪州は30万人で1.36%、カナダの18万人同0.53%というのは明確に日本を好む傾向がありそうだ。増加率は豪州の24%を除きいずれも15%前後で、円安のせいで急増したとは思えない。
アジアで目立つのはタイ66万人・45%増で全体の6位。他はマレーシア25万人・41%増、シンガポール23万人・20%増、フィリピン18万人・70%増。意外にもインドは9万人・17%増に過ぎず、ロシアも6万4,000人・6%増である。パキスタンやブラジルは上位20位に入らない。観光客と労働のために来る人は明確に違うということだろう。
円安の限り観光客消費は伸びる。小型銘柄にも期待
外国人向けの案内や便宜は今後ますます充実するはずだから、円安基調が続く限りインバウンド消費の増勢に疑いはない。メディアも外国人旅行客関連の話題は取り上げやすいから、ニュースに事欠くことはあるまい。今はまだ関連銘柄が限られているが、小型銘柄で人気化するものが出てくるだろう。また買いっぷりのよい外国人が大勢来るようになると、日本人の価格設定の仕方は、海外に比べ異様に大人しすぎるということにいずれ気が付くだろう。デフレ脱却の糸口はこんなところにもあると思う。
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
Vol.1265(2015年1月22日)
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
(了)
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