木村喜由のマーケットインサイト
2014年6月号
相場で儲ける地合いではない
公開日:
:
最終更新日:2014/09/19
マーケットEye マーケットインサイト, 木村喜由
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
平均株価は見通し難、個別株の厳選を
前回5月号では「5月は転換点になりやすいので、動いた方向に追随したい」と書いた。
その後TOPIX(東証株価指数)は若干下押ししたのち安値からちょうど100ポイント反発した後、高値もみ合いとなっている。
問題はこの先だが、米国株価が調整場面の助走期間を迎えたような動きになっているため、日本株が米国追随で上がるシナリオは想定しづらい。
上がるとすれば安倍政権の成長戦略がよほど実質を伴ったものになるか、円安が進むかのどちらかであろう。
だが、筆者は成長戦略には期待していない。
すでに何割か先取りして上がっているし、今後それをはやして急騰する場面があれば利益確定のチャンスとみている。
成長戦略の中核は規制緩和と発明促進だ。儲かる新市場が創出できなければ、人口が減少する日本で成長率を上げることなど不可能だ。が、具体化しそうなのはカジノの部分的解禁とか電力小売りの自由化(法人向けは自由化済み)とか小粒なものばかり。肝心のバイオはSTAP細胞騒動でブレーキがかかってしまった。
法人実効税率を30%以下にするには3兆円近い財源が必要だが、プライマリーバランス均衡という目標がある限り、この方程式に解は存在しない。早晩、財源問題がネックになって行き詰まる。
租税特別措置での減税9000億円を廃止するだけでは足らず、赤字企業にも負担させる外形標準課税(新税)の導入が不可避になるが、労働者の半分が納税できない企業に勤務している現状ではすぐ実現するはずがない。
財源として消費税率を10%より上げて法人優遇するのはさらに頑強な抵抗があろう。
例年、7~10月は株価が下げやすい時期であり、午(うま)年(相場格言は「午尻下がり」)、米中間選挙の年ということを考え合わせると簡単に儲かる展開など期待できない。
ただGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の改革のおかげで年金などの株式シフトは続く見通しであり、円安基調が続くのであれば日本企業の価値は高まるので、株価を忘れて保有し続けるのも悪い作戦ではない。
板金機械大手、アマダのROE(自己資本利益率)重視の経営が注目を浴びたように、大手企業がますます資本効率を重視し株主還元に力を入れる方向が鮮明になっている。
つまり相場で儲ける地合いではなく、企業価値や姿勢を反映して個別に株価が水準を徐々に切り上げる展開なのだろう。発売された『会社四季報』を買って、熟読するのが早道だ。
「JPX新規採用候補」に着目
最近の上げはGPIFの運用基準見直しが固まったことで、先取りして国内年金が株式組み入れを引き上げたことが大きい。
彼らはTOPIXに準拠した株式組み入れをするため、TOPIXの動きの方が日経225より強い。しばらくこの傾向は続くと思われ、株価を下支えしよう。
さらに言えば、GPIFの運用ベンチマークの一つに「JPX日経インデックス400」が正式採用されたことも大いに注目できる。
やや大胆な予測だが、近い将来JPX400は先物指数として上場され、たちまち取引高でTOPIXを凌駕し、やがて日経225を追い抜く存在になると思う。
中長期保有者を愚弄する愚劣ではた迷惑なインデックスである日経225を、「外国投機筋のおもちゃ」にしておく愚かさに気が付いた人は少なくない。
JPX400は取引高と時価総額の合計ランキング1000社からROE、営業利益の各過去3年累計と6月末時価総額ランキングを総合し、上位400社を選ぶ。入れ替え発表は8月7日頃(なおアマダは、JPX400に入れなかったことを恥とし、改革を約束した)。
米国でS&P500が株式運用全体のベンチマークとなったように、JPX400もそうなる公算が大きく、インデックス投信や連動ファンドの規模は劇的に増加するはずである。当然、その間は採用銘柄の株価は相対的に堅調となろう。
それより効果的なのは、JPX新規採用候補を買うことだろう。
カルビーや大塚HDが上がっているのは8月の採用が確実視されているから。今後も新規公開の中堅優良銘柄を早期に仕込むこと、あるいは資産内容はお粗末だが何かの拍子でROEが極端に高くなった中堅規模の銘柄を先回りして買う作戦は悪くない。
米国株は驚異的な粘り腰を見せ、NYダウは1万7000ドル接近、S&P500は1950到達となり、いずれも史上最高値を更新している。
また、VIX指数も含めボラティリティー指標が債券や為替も含め、幅広く過去最低レベルに低下している。通常、これは市場環境が良好で、投資家が売りヘッジの必要性をあまり感じていないことを示唆する。
それはそれで結構なことだが、長期の上昇相場の末期でこれが発生し、リスクポジションが膨らんでいる状態であるなら警戒を要する。
悪材料が表面化すれば一気に崩れる危険性を孕む。
現時点では差し迫った悪材料は見当たらないが、米連邦準備制度理事会(FRB)が10月で量的緩和策を終了、その後利上げの準備態勢に入るとなれば、波乱は必至であろう。
だから冒頭に書いたように、自信を持てる銘柄に絞って保有すべきと考えるのである。
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