【初・中級者向き】映画「スノーデン」と日米首脳会談のツケ回し

 2017・2・19

何しろオリバー・ストーン監督の最新作。反政府的なので欧州系の資金で製作したーなんて聞くと私の反骨精神がウズウズして、観た。ただ映画としては私の勉強していたスノーデンとはだいぶ脚色されていた。最大の悪役NSA(米国家安全保障局)の大物コービンは実在していないし、スノーデンはドローンで標的を定めるプログラムに関係していない。

それでも映画のテーマは明快だ。ネット傍受はいわば「盗聴」で、これは民主主義と個人の自由を揺るがす、しかも政府が主体になって盗聴するのは許されるべきではない。だからスノーデンは米国政府を告発した。

 

映画のパンフレットを見ると、オリバー・ストーン監督はトランプ大統領に「奇妙な形だが新鮮な空気を持ち込んだ」と期待している。主要メディアへの不信感からだ。「トランプへのヒステリックな報道ぶりは、かつての赤狩りに近いし、ロシアと近いとの報道も彼を大統領にしたくない力が働いたと思う」とも。

トランプ=安倍の共通点

産経新聞の報道によると、昨年11月17日のトランプ=安倍会談で、安倍首相はこう切り出した。

「実はあなたと私には共通点がある」

けげんな顔をするトランプを横目に安倍首相は続けた。

「あなたはニューヨーク・タイムスに徹底的にたたかれた。私も同紙と提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った!」

トランプも右手の親指を立ててこう言った。

「オレも勝った!」

トランプの警戒心はここで吹っ飛んだと思われる。90分の初会談、マティス訪日、そして2月の超歓待(ゴルフ27ホール、5回の食事)もすべてこの会話から始まった、とこの報道はいう。なるほど。

 

また同記事は、1月28日の電話会談でトランプ氏は「オレは日本車が好きなんだ!」と。あれほど日本の自動車メーカーを攻撃してきたトランプのこの発言で、安倍首相はツイッター攻撃にも動じる様子はない。ふーん、なるほど。なるほど。

日米関係は戦闘モードへ

2月10日以前には①自動車問題の不均衡②為替水準につながる日銀の金融緩和の議論が警戒されていたが、実際には議題にならなかった。

日本側が「お土産」として用意していたはずの「日米成長雇用イニシアティブ」も温存されたようだ。日米関係の重要性は再確認され、2国間の経済対話創設で合意した。しかもペンス副大統領と麻生副総理という組み合わせだと、相手はインディアナ州前知事で知日派だからそう無茶なことは言うまい。

ただし、トランプ政権の4年間でずっと日米関係が安泰かといえば、とんでもない。ビジネスマン・トランプはそう甘くない。私の知っている時事通信社外国経済部長の大嶋聖一さんは「日米経済はこれから『戦闘モード』へ」入ると言っている。

2月10~12日現在、経済閣僚はまだ米議会で正式承認されていなかった。いわば準備不足だったので仕事が始まれば楽観できない。共同声明に「日米間で二国間の枠組みに関し議論を行う」としたが、この枠組みにはFTAも入る。この交渉が厳しいものになること必至。トランプ貿易政策は①GDP(もちろん米国の)にプラス②貿易赤字削減③米製造業の強化、が選挙公約である。

米国で4つの見返り

私自身、ワシントンの共和党ロビーストに取材したが、次の4点が米国への「見返り」になる。だから超歓待のツケは高いよ、と。

  • 米国債の購入。中国が米国債を売却し続けている現状では、年金運用法人GPIFの買い、又は日米パートナーシップによる財務省(日本)の買い。これで円安批判を回避する。
  • 米国インフラへの投資。例えばテキサス州の新幹線計画への協調融資。
  • 米国製の兵器購入または新型の兵器の日本共同開発。海上迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」、ステルス戦闘機、無人機などなど。2019年からのミサイル実戦配備がすでに決まっている。
  • これが大物なのだが防衛負担の増額。兆円単位の話でせいぜい何千億円の米軍駐留経費の増額ではない。この方は思いやり予算を含めると7600億円、日本負担74・5%で、韓国の49・5%、ドイツ22・6%に比べ、確かに十分。マティス米国防長官も「モデル」と評価するほどだ。問題の防衛負担は「対GDP比率1%」のカベを少なくとも1・5%、長期で2%に上げてほしいとの長い間の米国側の要望だ(前記の③も入るが)。つまり最大5兆円の予算増の話だ。米国自身の3・3%、英国2・0%、フランス2・1%に比べ日本はわずかに少ない。(ドイツの1・2%も少ないと批判されている)。恐らくこの④は「密約」だろう。

では財源をどうするか。これは次回に書くことにしよう。

 

映画のセリフから。スノーデンが言う。「私はかつて政府のために仕事をしていました。いまは人々のために働いています」。

平和維持のコストは高くつく、まあ仕方ないのでしょうなあ。お隣にメチャクチャなことを平気でやってのける国がいるんだから。

映画「スノーデン」と日米首脳会談のツケ回し(第846回)

 

今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ

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