伊藤稔の目
相場を読み誤ったプロ投資家
日本個人投資家協会 副理事長 伊藤 稔
ニューヨーク株式相場は6月上旬、連日過去最高値を更新した。ヘッジ売りをしていた機関投資家は、買い戻しを迫られている。株式投資のプロを自認する彼らが、何を間違えたのか。
緊迫した国際情勢と金融政策転換の影響を過大評価し、景気の回復で企業業績が改善していることを過小評価したことが災いした。
世界経済は緩やかに回復している。機関車役は、リーマン・ショック後大胆な金融政策を採用し経済の構造改革を実施した、米国や英国経済だ。
米国経済は今年1~3月、厳しい寒波の影響を受け、マイナス成長になった。だが、同期の企業業績は市場の予想を大幅に上回った。利益率が予想以上に向上したのだ。銀行の事業者向けローンにおける融資基準の変更や株価といった景気の先行指標は、米国経済が今後成長率を高める可能性を示唆している。
英国経済の変身ぶりは際立っている。キャメロン首相が実施した大胆な財政・金融改革が功を奏し、英国経済は実質3%を越す成長を達成している。ユーロ圏経済及び新興国経済も最悪期を脱しつつある。
日本の夏相場も左右する
一方、足元の日本経済は、消費税率引き上げの影響を受け、停滞している。
しかし7~9月以降には、潜在成長率を上回る水準を回復する見込みだ。アベノミクス効果で雇用と賃金情勢が改善し、世界経済の回復を映し輸出数量の増加が今後期待できるからだ。
安倍総理が6月末に発表する成長戦略に、世界の注目が集まっている。政府は法人税を引き下げ、外資を誘致する意向だ。甘利経済再生担当大臣は、法人税率を今後数年間で20%台後半まで引き下げたい意向を表明している。
だが、この程度の減税が外資の誘致にどれほど効果があるか疑問だ。世界は、優良外資を呼び込むために、熾烈な法人税の引き下げ競争をしている。英国の法人税率は今年4月以降21%に引き下げられ、15年4月からは20%になる予定。世界で最も税率が高い米国でも、現在の最高税率35%を今後5年間で25%に引き下げる方向で検討されている(デーブ・キャンプ米下院歳入委員長案)。
日本の法人実効税率を25%に引き下げるには、5兆円近い財源が必要だ。日本の個人税(所得、贈与及び相続税)は世界の中で突出している。これ以上の増税は弊害が大きい。
日本経済は再生に向け大きく一歩踏み出した。しかし海外の機関投資家は、日本が多くの課題を抱えているため、対日投資に慎重だ。
このため、日本株の出遅れ感が著しくなった。日経平均株価は昨年末比7%強低い水準だ。
ただ、米国の株式相場に乗り遅れたヘッジファンドなどが、日本株投資に積極的になる可能性は否定できない。夏相場があるかどうかは、彼らの動向にかかっている。(2014.6.10記)
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