映画「妻への家路」とEメールゲートとヒラリー・クリントンの運命
今井澂・国際エコノミスト

今週は「博士と彼女のセオリー」も観た。しかし主演のホーキング博士のソックリさんぶりが良かったが出来はイマイチ。そこで原題COMING HOMEのこの作品に。

かつての名作「かくも長き不在」のアリダ・ヴァリとジョルジュ・ウイルソンの演じた夫婦を逆にしたような設定だが、さすがにチャン・イーモウ監督。スピルバーグがカンヌ映画祭で「涙が止まらなかった」と絶賛したにふさわしい傑作と思う。「HERO」「LOVERS」のようなスペクタクルではないが。

1977年文化大革命が終結し20年ぶりに解放された元教授は妻と再会するが、待ち過ぎた妻は心労のあまり、夫の記憶だけを失っていた。この妻のコン・リーがメチャ演技がうまい。夫は他人として向かいの家に住み、娘の助けを借りながら想いだしてもらおうと奮闘する。しかし夫から何百通も送られた手紙には感激するが、それを読んでくれるのが本人とは気づかない。

この妻の悲劇を見て、私はすぐヒラリー・クリントン氏を連想した。大統領になるべきすぐれた女性が、結局、ダメになりそうだからだ。想いと現実との食い違いが似ている。

ベンガジゲートがようやく日本メディアに登場

先週のブログで私はヒラリー・クリントン氏に絡んだ米国政界の混乱がNY株の急落を引き起こし始めたこと、しかし、東京株式市場は「NYばなれ」で上昇することを予想した。ピタリだったでショ、と自慢させて頂く。(ごくたまーにしか、ないから)

ベンガジゲートなんて、ようやくNHKも日経も、そして週刊新潮まで紹介し始めた。私のブログの読者なら、また昨年の私の著作「2015年日本経済のシナリオ」(フォレスト出版、2014年12月刊)の読者なら、2016年の大統領選を控えて、この問題が騒ぎになることは見えていたのに。遅すぎるぜ、まったく。

きっかけになったヒラリー・クリントン氏のEMAIL GATEについても日本の報道はワカッていない。ちょっとしたミスのように扱っている。長期化すること必至のスキャンダルなのに。

まず3月3日付のニューヨークタイムス紙が報じたことが重要だ。同紙は民主党寄り。それが大きく報じたのは恐らく米国の支配層の8年も続いた民主党政権を、終わりにしたい意思が働いている。またソースはオバマ政権内部だろう。何故か。理由は永くなるので来週に書きましょうね。

ヒラリー氏のメール問題、焦点はベンガジ事件

それから1週間、ヒラリー氏はツイ―ト26文字で「国民に私のメールを見てもらいたい。国務省に公表を頼んだ」と書いただけで沈黙。10日に20分記者会見したが十分ではなかった。ヒラリー氏は2013年初めに国務長官を辞任した後も公務に関する私的メールを政府の公文書管理部門に提出していなかった。最近になって5万5000通のメールを提出したが、すべてのメールが渡されたと信じる向きはいない。

とくに2012年9月にリビアのベンガジで起きた米大使殺害事件に絡むメールが隠匿されているはず、と考えられている。ベンガジ問題特別委員会と監査・政府改革委員会の2つの米国下院の委員会がメール公開の召喚状を送った。

NY株は3月6日(金)に278ドル急落、9日(月)は138ドル戻したが3月10日はワシントンポスト紙の社説を含む特集記事とヒラリー氏の記者会見が不十分だったのを材料に332ドルもの大幅安。11日は27ドル高、12日には229ドル高と戻したが、再び13日には163ドル安で一時下げ幅は260ドルを超えていた。

米国務省は2005年に公的メールアドレスの使用を義務付ける通達を出しており、2011年には駐ケニア大使が私的メールアドレス利用で辞任させられている。ヒラリーはみずから設けた指針を無視して私的メールを利用し続けたことになる。だからこそ、EMAILGATEなのである。

NY市場の下げは長期化、原油はまだ下がる

もともとNY株式市場はここ何ヵ月も主要インデックスがバラバラの日に天井をつけての後下落という、天井圏内でよく発生する形になっていた。天井を付けた日はダウ工業30種とナスダックは3月2日、S&P500種は2月25日、ダウ公共株は1月28日、ダウ輸送株は昨年11月28日、ダウコンポジットは昨年12月29にといった具合だ。下げは長期化する可能性が高いと思う。

原油の方も今年の安値更新は必至だろう。タンカーを利用して原油在庫を保有していた筋は投げに入って来たが、先日のNHK報道でもあったとおりシェールオイルのコストはバレル20ドル。まだ下がるだろう。

加えて3月19日には米FOMCの声明文があり、「CAN BE PATIENT」の言葉が残るかどうかで市場は反射的に動く。残れば「ドル売り 株買い」で、削除されたら「ドル買い、株売り」。私はこれだけ皆が言い出したら、そんな言葉を削るはずがないと思うが。

18日貿易統計の注目は輸出数量指数

大事なのは東京株式市場。NYの下げをヨソに、上昇しているのは心強い限り。12木、13金の2日間で530円も上げたが、この両日には日銀ETF買いは入っていない。ファナックひと銘柄で200円近く寄与したが、外国人のモノ言う株主サード・ポイントの要求が会社側の市場への優遇姿勢が好感された。

いくら何でもスピードが速すぎるので来週は上昇ペースが止まると思うが、押し目が入るとすぐ買う向きがあるし、3月18日には貿易統計が出る。私は輸出数量指数に注目している。

円安の方は122円で止まると思うが、一方このところ建設株に今後もどり新値をうかがいそうな動きが見え始めたのは要注意。

なぜヒラリー氏の問題が重要なのか

いつもなら映画のセリフから、でしめるところだが、今回はパンフレットにあったチャン・イーモウ監督のボヤキが印象的だったので。

「映画を撮るのは自由ですが試写に50人から60人の様々な政府関係者が検閲、作り手側は入れてもらえない」。

へええ。毎日新聞エコノミスト誌3月17日号では「今後も中国で撮る」と述べていたが、本当はやりにくいんだろうなあ。映画を製作する監督が入れてもらえない場所でうるさく注文をつけられるんだから。

私がヒラリー氏に注目するのは、恐らくメジャーオイルとか軍産複合体とかデトロイトとか米国を支配しているグループが、ここ2期のオバマ選出を失敗と考えているらしい、という推測からだ。もし、そうなら、2017年1月の次期大統領就任まで、NY株は大したことにはなるまい。少々気が早すぎますか。なにせ江戸っ子の下町生まれなので。

終わりに。4月中旬にわたしはNY、ワシントンに出張。現地報告の講演会を4月25日(土)に開催します。先着200名のみ。会場はガーデンシティ御茶ノ水。詳細・申し込みはこちらをご覧ください。

 

映画「妻への家路」とEメイルゲートとヒラリー・クリントンの運命(第766回)

今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ

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