こんな金融商品にご用心
投信のトータルリターン通知始まる
消費者に不利な約款は無効
楠本 くに代 金融消費者問題研究所代表
現在、金融取引関連の法制度が激しく動いています。
消費者保護に資すると評価できる法改正もあれば、市場の活性化のみを優先し、消費者保護を著しく後退させる法改正もあります。
なぜ法が動くのか。何が市場で起こっているのか。法の動きをよく見ればわかります。
商品先物&プロ向けファンド、クラウドファンディングの回に続いて、ひとまず最終回です。
投信の通算損益(トータルリターン)を通知
2014年12月1日に改正投資信託法が施行され、投資信託を保有する顧客に、分配金を含めた通算損益を通知する制度が始動しました。投資判断が分配金に偏った市場を是正することが狙いです。
投信の顧客には、分配型投信の分配金が収益からだけではなく元本を削って出すことがあることを知らず、「元本割れしない」と誤解して買っている顧客が多数います。この問題は大きな社会問題となり、商品についてどのような説明が顧客になされていたか、裁判でも争われました。
民法改正で消費者に不利な約款は無効に
民法改正について2015年2月24日、法制審議会答申が出され、3月、通常国会に提出されました。改正が成立すれば、1896年(明治29年)に成立して以来、初めての改正となります。
改正項目は約200に上ります。消費者関連で主なものは、債権関係規定で、買い手に著しく不利な約款の規定は無効とする「約款既定」の新設、判断力が弱い者が結んだ契約を無効とする項目、敷金の返還ルール(劣化は貸主負担で、借主が負担するのは自身が破損した部分の修繕費など)です。
約款をめぐっては、 「適格消費者団体」が金融機関の約款の差し止めを求める動きも起きています。
2008年に施行された改正消費者契約法では、内閣総理大臣に認定された適格消費者団体が、事業者の不当な行為に差し止めが請求できると規定しています。消費者契約法10条には「消費者の利益を一方的に害する条項は無効」とあり、これを援用して約款の差し止めを請求しているのです。
保険募集にルール設けるも、手数料開示義務は盛り込まれず
保険業法の改正が2014年5月23日に成立しました。2年後までに施行されます。2015年2月17日に施行に伴う施行令、監督指針の改正が発表されました。
保険業法改正は、急激に成長した保険ショップに規制を導入し、手数料稼ぎを防ぐ狙いです。保険ショップに対し、保険会社からもらう手数料の高い保険ばかりを勧めないよう求める項目が盛り込まれました。
保険募集に際して創設された基本ルールは、まず、顧客の意向を把握し、保険プランを提案する義務です。次に、保険金支払い条件や保険料、期間など顧客の判断に必要な情報を提供し、複数の商品を比較して勧める場合には商品の一覧と特定の商品を勧める理由も提示する義務です。また、複数の会社の商品を扱う募集人に対しても保険会社・保険ショップ双方に管理・指導する体制の整備を義務づけています。
また、監督指針では、大手保険ショップには、金融庁が検査しやすくするため、保険会社から受け取る手数料等の帳簿作成を義務付けました。
ただ、手数料開示義務が今回も見送られているのが最大の問題点です。
今後も金融取引をめぐる制度の動きをお伝えしていきます。
(この項終わり)
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