不透明感強く波乱は続く、米利上げもしばらく延期
木村喜由のマーケットインサイト
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最終更新日:2015/09/15
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中国不況は長期化の様相
先月、中国経済の先行き懸念から世界市場大荒れの前兆と書いたが、その後の市場は大波乱の展開となった。日経225は8月11日高値から9月8日17415円まで16.85%、TOPIXは8月25日安値まで17.14%下落した。ドル円相場も8月24日の夜一時116.25円まで下落する場面があった。
中国経済の悪化は信頼性が乏しいGDP統計以外のあらゆるデータから明らかになっていたし、7月の株価急落以後一段と悪化が確実視されていた。追い討ちをかけるように華北最大の貿易港にほど近い天津の化学品倉庫の爆発事故があり、もはや留めることが出来ない流れとなった。
中国政府は公共投資の追加など景気対策を打ち出しているが、これまで積み上げた過剰設備により異常なレベルに拡大した需給ギャップを埋めるには程遠く、今の時代にはそぐわない低効率で環境負荷の高いものが多いと推定される。経済成長を牽引した輸出は、海外企業の工場を誘致した結果だが、人件費が上がったために今や中国からベトナムやミャンマーに再移転する企業が増えている。
設備、雇用、債務 3つの過剰を整理する
国際決済銀行の統計では中国の外貨債務は1兆4千億ドルとされるが、在外華僑経由の資金が2兆ドル以上あると推定され、ドル高によって実質債務の重さは拡大しており、資金の出し手は早く回収したいと思っているだろう。バブルに踊った不動産や株価が下落に転じてから1年ほど経てば、かつての日本と同様に債務デフレのフェーズが訪れるから、新規投資がストップし、中国の景気は急激に悪化するはずである。
中長期的には中国人の生活水準は上昇余地があり、経済規模はまだ拡大するだろうが、人口増が止まり自前技術の製品で世界市場に売り込む力が非常に弱いため、過剰設備、過剰雇用、過剰債務を整理するのに長い時間を要すると考えられる。したがって中国の景気低迷は長期化する。
米経済は利上げは待ったなし、でも見送り公算大
世界の経済成長率のかなりの比重を中国が占めていたのが、今後しばらく寄与度がゼロ近くまで落ち込むため、世界の成長率も1-1.5%下振れする可能性がある。最近の株式市場の変調はそれを先取りした動きとも見られ、単純に目先の業績と比較して割安感があると考えるのは早計だ。当然、米FRBもこの程度の想像は働かせるだろうから、利上げの決断には慎重になるだろう。
今のところ、米国経済指標においては、企業収益が資源エネルギー価格の下落とドル高の影響を受けて下振れしているのを除けば、住宅も設備投資も雇用も順調に推移しており、特に失業率が5.1%まで低下、物価のベースになる時間当たり賃金が前年比2.2%増に回復していることは、利上げ待ったなしとさえいえる環境である。
利上げの時期を決める 物価・失業率・景況感指数
前回も書いたが消費者物価CPIは前年比+0.2%だが、今後半年間年率+2%のペースで上昇が続くと仮定すると、12月+2.5%、1月+3.1%まで上昇してくる。足元の市場不安定に配慮してFRBが利上げを先送りする公算が強まったと思われるが、物価が上記の想定に近い動きとなるなら年内利上げはほぼ確定的なものとなる。
利上げの決断を妨げるものは、世界の株価が一段安となったり、ISM製造業景気指数(直近は51.1)が景気判断の分岐点である50を割り込むなど、景気悪化の前兆現象が広がってきた場合だろう。今のところそうなる可能性は五分五分と考える。
日本市場を振り回すヘッジファンド
最近の日本株の動きが非常に荒っぽく、9月11日までの15取引日の日経225の平均日中変動率は3%を越えている。これは中国不安を原因として外国人が株式ポジションを落としているだけではなく、先物オプション市場も絡めて相場変動を拡大させることで利益を上げようとする、大手ヘッジファンドの介在が推察される。
米国の利上げが実施されても先送りされても、長い目で見れば「超」量的緩和が縮小方向にあることは変わりなく、短期市場、債券市場、株式市場に玉突き的に向かっていった資金の流れが次第に細るトレンドにあると考えられる。株価上昇が世界経済のレベルを実力以上に押し上げていたと理解しており、その剥落により今後世界的に企業収益が伸び悩むものと予想する。
ドル円110円前半、TOPIX1300付近が底
リスク要因ばかりが目に付く時期なので、株式市場は上値が重く、時折り急落場面があると見ておくのが無難だろう。ただし日本の場合、株式の期待リターンは預貯金、債券、不動産などに比べて高いため、下がったところでは国内勢が積極的に拾うだろう。
また株価バリュエーションの基礎となる一株利益や純資産は、為替相場と密接にリンクしているが、筆者はドル円は下がっても110円台前半までと見ており、その意味ではTOPIXの下値は1300付近という見方をしている。実際にその水準まで下がるか疑問もあり、まあよく知っている銘柄が非常に安い日があれば少し拾っておき、全般が妙に高い日に利益確定しておくというのが、年末に向けての基本スタンスであろう。(了)
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
マーケットインサイト<2015年9月号>
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