ドル円相場が荒れないならいずれ株価は上がる
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
Vol1334(2015年9月24日)
まさかのフォルクスワーゲンの排ガス虚偽申告でシルバーウィーク中の海外株価は下振れしたが、この件で自動車の利用が減るとは考えられず、単にフォルクスワーゲンの需要が他社に流れるだけだろう。台数的には日本の自動車メーカーの最大のライバルとなっていた同社の信頼が地に落ちたことは、棚ボタ的に需要を拾う立場にある日本車メーカーにとっては大きな追い風である。
もっとも、ディーゼルエンジン搭載の乗用車の車種が非常に少ないため、短期的なメリットは小さい。この分野ではマツダが先行している。
中国のPMI(製造業景況感)が47.0と6年ぶりの低水準となり、景気の先行き見通しは一段と暗くなってきたが、拡大してきた途上国の設備投資需要が大きく減速するものの、生活水準向上に伴う消費等の需要は引き続き増勢をたどるため、極端に悲観する必要はないと見ている。
また肝心の米国も、今のところISM製造業指数は50を上回っており、失業保険の申請数もリーマンショック以後の最低を更新している。
バリュエーションを左右する為替の水準
こうなると日本株のバリュエーションを決める最大要因は為替相場ということになるだろう。
最近のドル円は120円前後で三角保ち合いパターンとなっているが、米国の利上げ姿勢が取り沙汰されている割には落ち着いた動きとなっており、直感的にはよほど重大な変化が生じない限り、115-125円のレンジ内で推移する公算が強そうである。ということはしばらく日本株もレンジ相場的な動きになると思われる。
もちろん中国ショック的な動きがあれば一時的下振れはあろうが、すでにかなりの程度まで先取りしており、ダメージが長期化するとはみていない。そもそも中国が物凄い急成長をしていた時期でも日本株は少ししか反応していなかった。ならば逆のことが起きても大体同じだろう。
短期的には注意が必要。投機筋の日本株先物ポジションが急変動しやすい兆候が現れており、ファンダメンタルズの変化を超えるイレギュラーな変化には逆張り的に対応するとよさそう。
株式需給はひっ迫する
だが、半年先、1年先ということであれば、もう少し日本株に強気の見方ができると思う。米国は徐々に金利水準が上がるから、ドル円は基本的に上昇基調だろう。ならば企業の純資産価値の増加、一株利益の増加は、少しペースは落ちるが続く。
自社株買いやM&Aの増加により流通株式数は減る方向にある。日銀もあと1年半は年間3兆円ペースで買い続けるだろう。預貯金や不動産の期待リターンは株式よりずっと低いから、徐々に資金シフトが起こる。したがってよほど強力な売り材料がないならば、株式需給はひっ迫する方向である。総合的に考えれば株価水準は10-20%程度上がっているはずである。
キナ臭い南シナ海
25日に習近平氏がオバマ大統領と首脳会談を行うが、米国としては度重なる中国発(さらに言えば中国軍部の関与が強く疑われている)とされるサイバーテロの問題と、フィリピン、ベトナム領海の浅瀬を中国が埋め立てて基地を造成している件については、中国側に善処を求め、一歩も譲らないのではないか。グローバルに自国勢力のネットワークを張り巡らせ、その先行利得で稼ぐのが米国という国家のビジネスモデルだから、これを妨害する中国の行動は決して許せないはずだ。
米国は最近の習近平政権の行動を苦々しく思っていることだろう。
8月に中国で公開された映画は1945年のカイロ会談を取り上げているが、蒋介石が参加という真実を毛沢東に挿げ替え、国民に視聴を強く推奨しているという。明らかに歴史の歪曲である。
対日戦勝70周年を祝ったが、日本に勝ったのは国民党政権であり、当時共産党首脳は山奥にこもっていた。その軍事パレードは時代錯誤的な独裁政権における示威行動であり、こともあろうに自分の軍事同盟相手である韓国の朴槿恵氏がイソイソと出かけてしまった。南シナ海の埋め立て工事は完了したと発表したが、首脳会談後は基地などの建設工事に着手する公算が大きい。
第二次大戦前に直接的な武力行動に慎重だった米国が、積極的に日本に敵対し始めた理由は、一般的には真珠湾奇襲攻撃がきっかけと思われているが、その少し前、仏領インドシナ(現ベトナム)への日本軍駐留により、アメリカのシーレーンが不穏となり、自由航行権が脅かされたことがより重要とされる。
このすぐ後、ABCDラインによる駐留停止請求を日本が拒否すると対日石油禁輸が行われ、切羽詰まった日本が真珠湾攻撃に余儀なく追い込まれるという流れになった。南沙諸島を含む海域は、海洋国家米国として絶対に独裁的国家に譲り渡すことのできないシーレーンなのである。
無論、米中直接対決など双方とも考えたくないところだが、例によって代理戦争的な緊張状態を作り国際世論をバックに相手を経済的に追い込むということは米国がよくやる手である。まずフィリピンに海軍充実のサポートを行い、日米と共同訓練を行うような流れはありそうだ。
また敵方の懐に手を突っ込むというなら、ベトナムに軍事指導や武器供与を行うという路線も十分考えられる。朴槿恵氏を持って行かれた仕返しだ。また従来援助を受けていたロシアが財政ピンチになり、地理的にも関係が薄いのに比べ、米国とベトナムは人的にも経済的にも交流が深くなっている。
筆者の観測では新安保法案の適用第一号は中東ではなく、南シナ海の方が早いような気がしている。そこまで中国に頑張る体力があればの話だが、もし中国が完全封鎖に乗り出したら、対抗上米国は近海に空母を2隻以上派遣して撤回を求めるだろう。その際に自衛隊が後方支援に回ることは十分ありうる。
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
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