鉄鉱石の安値更新が暗示する中国の不況
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
Vol1352(2015年11月26日)
最近、テレビに登場する株式ストラテジストが毎日のように繰り返している言葉は、米国株式のジンクスでは感謝祭(11月第4木曜)前から翌年1月3日までの騰落がマイナスになることはほとんどなく、鉄板のように堅い強気のタイミングなのだということ。
事実としてそれは正しいが、その最大の理由は感謝祭までの2か月ほどは株価が冴えず、新年への期待感と感謝祭翌日から始まるクリスマス商戦への期待で一気に蓄えられていたエネルギーが放出されるからだ――ということを知っている人は少ないようだ。
ブラックフライデーのアノマリーに期待する愚かしさ
では、先立つ期間に株価が大きく上がっていた場合はどうなのか、という質問に答えなくてはならない。
結論を言えば、先立つ期間の株価上昇が大きかった場合は、該当期間の上昇分が先食いされているため、あまり上がらないか、下げる危険性が大きいということである。ということは、今年は日米とも本日(26日)までほぼ一本調子に上がってきている上、米国の利上げがカウントダウンになっているということを考えると、高い確率で上がると期待することは不適切である。
裁定買い残がここ3週間で6億株も増えているということは、先物買いで勝負した投資家が多かったということで、実際、週末の建玉残高の変化を見る限り、UBS、モルガンUSFG、ゴールドマンの3社で約2兆円分買い越しており、それが裁定残の増加に大体見合っている。実はもっと多い可能性がある。というのはこれらはいずれも社内に強力な自己売買チームを抱えており、彼らがこの機会に裁定ポジションを作らずにいるとは考えられないからだ。すなわち、店内食い合いの分も増加しており、投機筋の実際の買い越し金額はさらに5千億円から1兆円ほど多いかもしれないのである。
裁定買い残が膨らんだ後に起こる急落
これだけの建玉を通常取引で処理することは不可能なため、強引にSQ価格を吊り上げて高値決済を目論んでいるのだろうと推察される。しかし早晩膨れ上がった裁定残は解消され、その際に激しい下落を引き起こすことになるので、ここで強気を言うことは買い方の動きが手に取るようにわかる天才か、単なる強気バカのいずれかということになろう。
ここ数日はシリア撃墜でのトルコ・ロシアの対立のせいもあって原油価格が反発しているが、最終需要の回復を見込んだものではないので、全く楽観はできない。日経にも報じられたように、鉄鉱石価格が近年の最低を更新してきたが、これが暗示するものはシンプルで、世界の鉄鋼生産の半分以上を占める中国の需要が急減しているということになる。
中国の経済はGDPの半分程度を資本投資(設備、公的、住宅)を占めているが、それが落ちていればGDP成長率が大きく落ちるのは確実である。中国は月次の輸出額も伸びていないから、個人消費やIT関連以外の、ほとんどの部門が冴えないはずである。
資源国の収入減が世界景気の下振れ要因となる
鉄鉱石の価格は2004年に1トン20ドルほどだったのが、2010年後半には200ドルの迫る場面があり、その後騰落を交えながら下落をたどり、最近は50ドルまで下落していた。しかし本日の日経朝刊は、豪州産の中国向けスポット価格が43~44ドルまで下落していると報じた。中国の鉄鉱石在庫は10月に8千万トンまで増加、足元でも生産が増えないため、在庫余剰感が強まっているという。
ここまで下がると鉱山会社の採算が厳しくなる。
ブルームバーグによれば、フリーポート・マクモランやベダンタ・リソーシズなどの大手鉱山会社が9月末までの1年間に計上した資産の評価損は計422億ドル(約5兆2000億円)と、前年を46%上回っている。その後の市況推移を見れば一段と悪化していることは確実。資源最大手BHPビリトンの株価は2010年に97ドル台に上がったが、足元では27ドル台に低下。ヴァーレは08年44ドルから3.73ドルとなっている。
超金融緩和マネーがあってもこの水準ということは、本格的な不況やリスクオフ場面ではさらに3~5割下がる可能性がある。
ピンチの産油国 ベネズエラ、ブラジル、ロシア
原油の場合、大半が国家が生産を管理している。しかし1年半で6割近くも下がる下落により、財政の大半を資源販売の収益に依存している各国の財政は火の車。一番潤沢でほぼ無借金だったサウジでさえ、現状では歳入が歳出を20.%以上ショートし、5年で純対外資産バランスが赤字に転落するという。赤字の穴埋めに米国市場などで証券を売っているのも事実だ。
デフォルトが間近なのはベネズエラ、その次に危ないと言われているのが深刻な政治混乱も重なったブラジルである。軍事では強気姿勢を崩さないロシアも歳入の半分以上が資源販売によるもので、財政的にはピンチだ。
こんな状況下で資源国がお金を使うはずはないだろう。資源バブルの反動で、資源クラッシュが起こっており、お決まりの不況が訪れているのである。シェールブームに踊った米国も例外ではない。ジャンク債で資金を得ていた後発組(生産コストも高い)のデフォルトは時間の問題であろう。
素材不況の後に来る倒産
長年株式投資をされた読者なら、素材産業がひどい市況下落に遭遇した時、どんな決算になるかご記憶であろう。売上高が3-4割に減少し、そのままなら2~3年で自己資本が吹き飛んでしまう。電炉、綿紡績、製糖、造船、海運などはほとんどが消えてなくなった。
現在その危機にあるのが中国の鉄鋼会社だ。地方政府と密接な関係にあるが、膨大な赤字を抱え二進も三進も行かなくなっているのではないか。習近平さんは海洋問題で方々にトラブルを抱えており、国内で鉄鋼や不動産で大規模な倒産騒ぎが連鎖したらどうするつもりなのだろう。
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
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