ソーントン・ワイルダー「サン・ルイ・レイの橋」とラニーニャ現象と私の「それでもトランプ」説(第1034回) 

 小品でも忘れられない作品がある。劇「我が町」で有名なソーントン・ワイルダーのこの小説は、当時中学生だった私に強い印象を与えた。

 当時我が家の近くに教会があって、何回か通ったが、神がすべてをおつくりになり、小鳥一羽の死も神意である、と聞いていた。ところが少なくともこの小説の前半は、これを否定するものだった。

 ペルーのリマの郊外に険しい峡谷に吊り橋があった。1714年には橋は切れ落ち、渡っていた5人の人が落命した。

 その場に居合わせた司祭は、5人の死と神に意志とのかかわりが理解できず、5人の人生を克明に調査し、1冊にまとめる。これは異端とみなされ火刑に処せられる。

 ただ小説の幕切れには私は安心した。司祭が探し求めた罪はなく、大切な故人を思う、生きているものの、愛だった。このテーマというが終わりで、ほっとしたのを記憶する。(このテーマにあたる修道院院長の発言は、このブログの終わりに)

 そろそろ本題に入ろう。リマのあるペルーの沖合で、海水温度が1~2度上昇し、6か月続くのが「エルニーニョ」。クリスマス前後に発生することが多いので「聖なる赤子」という意味でこの名がついた。

 「ラニーニャ」はこの反対で海水温度が低い場合に発生し、1年以上続くこともある。

 このラニーニャがどんな影響をもたらすか。前回の例。2016年夏から、2017年春にかけてのラニーニャは①北海道中心に8月に記録的な長雨と豪雨②北日本では例年より10日も早い初雪③2017年3月には北半球最大の寒波、そして豪雪、東京も大雪に見舞われた。

 少々横道にそれるが、ラニーニャの発生と世界的なインフルエンザ流行と、実は密接な関係がある。例えば1910年代後半のスペイン風邪、1957年のアジア、そして今回。

 渡り鳥がウイルスを持ち歩くのが原因と、米コロンビア大の研究者は推定している。気温の変化によってこれまでと違う鳥同士の接触、あるいはほかの動物、例えば豚など。そこで病原体を持つウイルスを運搬する。

 食料自給率の低い我が国に取って見逃せない事態が発生している。ラニーニャ現象で、天候不順と収穫量減少(勿論この中には頻発するハリケーンが中心)が意識され、新高値が10月中旬に続出している。

 小麦は5年ぶり、大豆は2年半ぶり、トウモロコシは1年ぶりの高値が、シカゴ穀物取引所でついた。

 今後の価格はどうなるか。すでにコメは19年末比でタイの輸出価格は40%も高騰し、同国は輸出制限に転じた。ベトナムなども追随。一方小麦も大手ロシアが輸出制限を始めている。市況は高止まりと見るのが妥当だろう。

 8月末で世界の農作物全体は豊作が伝えられていて、値はどちらかというと下押し含みだった。

 これがブラジルの天候異変(雨季にもかかわらず降水量ゼロ)。それに米国でハリケーンが頻発する。今後メキシコ湾の原油採掘、精製設備に負の影響が出ること必至である。

 こう書いてくると、弱気に聞こえるかもしれない。確かに「異常天候」というと悪材料と考える向きが多い。しかしリクツから言えば「夏は暑く、冬は寒い」方が経済活動は活発する。

第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストによる「ラニーニャ期間を1990年以降の好景気機関と重ねると、90・2%の確率で景気回復に重なる」。ラニーニャは冷暖房機器、冬季レジャーや冬物衣料も多く売れる。

 具体的にはどうか。永濱さんによると「1%気温が下がると家計消費に0・0054%金額にして3200億円増加する」

 以上、まとめるとラニーニャ現象は冬物関連需要の喚起で悪い話ではない。

 次のテーマである、トランプ再選説だ。私が期待しているトランプ再選の切り札は10月22日の「米FDA(食品薬品局)によるコロナ薬品(ワクチン、特効薬など)の状況のいわば発表会。すべてのTV、WEBに公開するのだから、ダメでしたなんて言うはずがない。

 すかさずトランプ大統領で「対コロナ戦争勝利宣言を行い」。対バイデンへの不利な状況を一挙にドデン逆転する。

 このシナリオが先日のジョンソン アンド・ジョンソン、イーライ・リリーの両社が臨床実験中に病状悪化が発生。フェーズ3の実験の一時停止を公表したのは、このシナリオに打撃を与えたことは間違いない。

ただ、依然トランプ有利と情報通は読んでいるらしい。2日の入院当時はバイデン氏より弱かったが、現在はトランプ2・44対バイデン氏1・44でトランプ当選と賭け屋は読んでいる。また、2016年のトランプ当選を的中したトラファルガー社は今回も「隠れトランプ」を加味して予測し、トランプ再選を予測している。

 さて、終わりに家計を見届けた後の修道院長の言葉でシメよう。

 「誰しもがこの世に生まれ、誰かを愛し、愛され、死に、忘れられる。私たちもやがて忘れ去られる。また5人の思い出も消えてゆく。

 けれど愛が大切。生と死をつなぐのは愛。この世で一番価値のあるものだ。」

関連記事

ユニクロの株主構成に見る日経225の極端な歪み

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由 Vol1354(2015年12月2日) 裁定残の急増に警戒

記事を読む

no image

大井リポート
ギリシャはユーロを離脱する
ECBは救済から飛び火防止に転じた

セイル社代表 大井 幸子 2008年のリーマンショック以降、2010年から12年にかけてPIIGS

記事を読む

不正会計に対する監査機能不全
これは東芝だけの問題か

日本個人投資家協会副理事長 岡部陽二 2001年に発覚したエンロンの破綻は米国の企業統治史上最大の

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

チャップリン「街の灯」と株価倍増狙いの注目株

浮浪者チャーリーと盲目の花売り娘のご存じ人情物語。私はチャップリンの作品で最高傑作と思う。何といって

記事を読む

米利上げ後はドル強気筋の利食いで円高も

  前回号発行時は日経225が2万円手前だったが、資源価格安により途上国景況感悪化、

記事を読む

PAGE TOP ↑