基本の話by前田昌孝(第6回)

2022年2月から連載を始めた「基本の話」ですが、これまでの5回は理屈っぽい話をしてきました。今回は2022年も折り返し点を迎えたのを機に、実際の投資信託の運用成績を分析してみます。アクティブ運用の国内株投信と外国株投信の年初から6月30日までのリターンが、株価指数などのベンチマークに勝っていたかどうかです。

分析を通じて何を言いたいのかというと、一つはもしアクティブ運用投信の平均リターンがベンチマークに勝っていたとすれば、株式投資は勉強すればするほど高いリターンが出せるという仮定が正しいことの証拠になります。負けていれば、勉強することと投資リターンの分布とは無関係であることが浮き彫りになります。

もう一つはアクティブ運用投信のリターンの平均値と中央値(すべてを成績順に並べた時にちょうど真ん中にくる投信のリターン)との関係をみることです。もし平均値と中央値とがほぼ等しければ、投信のようなリスク商品のリターンの分布は、富士山のように左右均等に散らばるのではないかと想像できます。

しかし、もし中央値が平均値よりも小さければ、リスク商品のリターンの分布は左右均等ではなく、平均値よりも低い投信の本数が、平均値よりも高い投信の本数よりも多い「下膨れ型」になるのではないかと推定できます。

筆者はかねて「株式投資の運用成績は勉強を積み重ねたからといって向上するものではない」「リスク商品のリターンの分布は富士山型ではなく、下膨れ型になる」と主張しています。

筆者が継続的に運用成績を追いかけているのは、純資産総額が250億円以上の投信だけですので、何か結論めいたことを言うには、サンプル数が少なすぎるという指摘もあるでしょう。筆者の主張に説得力を持たせるために、これからも分析を積み重ねたいと考えています。

前置きはここまでですが、まず、ベンチマークの年初から6月末までのリターンを書いておきましょう。国内株投信は配当込み東証株価指数(TOPIX)です。2021年末に3179・28、2022年6月末に3027・34だったので、6カ月間のリターンはマイナス4・78%でした。

外国株投信は種類がさまざまなうえに、組み入れ対象に日本株を含むグローバル投信と、日本株を含まない投信とがあるので、単純比較は難しいのですが、話を簡単にするためにベンチマークは配当込みMSCI全世界株指数(日本を除く)の円換算値だったと仮定します。2021年12月29日に31万2306、2022年6月29日に(時差があるため、月末の営業日の1日前の値を採用)に30万434だったので、6カ月間のリターンはマイナス3・80でした。

実際の投信の6月末までの運用成績はどうだったのでしょうか。まずすべてのタイプの投信を一覧できるようにした全体像を示します。国内株型と外国株型についてはインデックス投信を除いています。上場投信(ETF)とラップ・SMA専用も除いています。対象は456本です。

リターンは税引き前分配金再投資ベースの値を採用していますが、最も良好だった投信はプラス25%、最も不振だった投信はマイナス51%でした。個別名ではベストは三井住友DSアセットマネジメントが運用する「日本株アルファ・カルテット(毎月分配型)」でした。一応、国内株式型ですが、ブラジルレアルの値上がり益も狙う通貨選択型の投信です。ワーストは日興アセットマネジメントが運用する外国株投信の「グローバル・フィンテック株式ファンド」でした。

金利上昇などを映して世界の株式相場が低迷しましたので、投信の運用成績も全般にさえませんでした。タイプ別で値上がりした投信が多いのは、外国債券型でした。金利上昇によって債券価格は下落したのですが、為替ヘッジなしの外国債券投信は円安メリットを受けて円ベースではプラスリターンを確保した商品が多かったです。

国内株型と外国株型について、ベンチマークとの比較など細かく分析していきましょう。この分析に当たっては通貨選択型は、対象通貨の値上がり益を狙うなど純粋な株式投信とは異質のリターンを生む可能性が大きいため、除外して集計しています。

まず国内株投信(通貨選択型を除く)39本の運用成績の分布は6月30日現在で次のようになりました。前段の投信の全体像を示すグラフには通貨選択型が入っていますが、2ケタリターンを生んだ通貨選択型が除外されましたので、ベストだったのはプラス8%を確保した三井住友DSアセットマネジメントの「日本株厳選ファンド」になりました。

ベンチマークは前述の通り、マイナス4・78%でしたが、39本の投信の平均リターンはマイナス9・7%、リターンの中央値はマイナス11・2%でした。プロが運用してもベンチマークにはかなわない、つまり、投資の勉強をしたところで、リターンが高まるわけではないことがおわかりでしょうか。中央値が平均値よりも下回っているのは、運用成績の分布が下膨れであることを示しています。

通貨選択型を除く外国株投信173本の運用成績の分布は次のグラフのようになっていました。平均値がベンチマークを下回り、さらに中央値が平均値を下回る姿は、国内株投信と同じでした。具体的な数字でいうと、ベンチマークはマイナス3・80%、173本の平均値はマイナス14・3%、中央値はマイナス14・6%でした。

いくらアクティブ運用ファンドが株価指数などにかなわないといっても、理屈上はアクティブ運用投信の純資産加重平均の運用成績の平均値は、ベンチマークを信託報酬分下回るだけのはずです。今回の分析で平均値がベンチマークを下回るのは理論通りだとしても、その度合いが大きすぎる印象があります。加重平均ではなく単純平均であることと、例えば外国株型では、日興アセットマネジメントが運用する複数のフィンテック投信が足を引っ張っているといった特殊要因が作用しているようです。

もっと分析を積み重ねなければ、「これが絶対に真実だ」などとはいえませんが、投資の勉強をすることとリターンとは無関係であることと、リスク商品のリターンの分布は平均未満の結果にとどまるケースが多い下膨れ型であることを頭の片隅に入れておいていただきたいと思います。

もちろん、投資の勉強は無意味だなどと主張するつもりはありません。よく吟味して銘柄を選べば、成功しようが失敗しようがいろいろな教訓が得られるでしょうし、企業経営や経済現象をより深く理解するのに役立つと考えています。アクティブ運用の投信は買わないほうがいいなどと主張するつもりもありません。別の機会に改めて説明しますが、アクティブ投信にはインデックス投信にはない大きな「効能」があるのです。(マーケットエッセンシャル主筆)

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