財政で合意も財政の崖と信用収縮が襲い掛かる

合意したらしたで追加利上げとクラウディングアウトが待っている

※本記事は木村 喜由の『マーケット通信』Vol2080(有料)より限定公開しています。

先週末以来日米株価が大きく上がっているのは、米国で民主党・共和党の財政上限問題で原則合意が成立する見込みとの報道が真実と受け取られたからだ。これまで、この問題で米国市場が大きく反応した様子は見られなかった。ドルも債券相場も株価も、それが理由で大きく下落しなかった。それ以上に、楽観論、とりわけ半導体関連に対するむやみやたらな楽観論が、他の市場にも波及し不安感を覆いつくしたという印象である。

民主党側は基本理念として教育費や貧困層福祉のために大きな予算を取っており、その源泉として法人や富裕者層への大幅増税を主張しているが、共和党は基本的にこれらには大反対である。断固として、増税するぐらいなら追加支援などするなと主張する議員が多い。最初からもつれることは判っているが、本当にデフォルトとなった場合の責任の所在やダメージはベテラン議員なら十分承知しており、バイデン氏とマッカーシー議長のやり取りは最初から出来レースだった。しかし株価に一切悪影響ないまま合意に至るとは。

だが合意しても、市場は大きな試練に直面する。5月10日で米国のコロナ関連の支援策は全面終了になり、恐れられた「財政の崖」が本格化する。ウクライナ支援のせいもあるが、23財政年度10月から7か月間の累積財政赤字は9245億ドル、前年同期までの、じつに2.56倍に膨らんでいるのだ。単純計算ではGDPを年率4%程度押し上げていたことになる。この、財政支出の落ち込みを財政の崖と呼ぶ。

一方、債券市場には売り圧力がかかる。上限枠が拡大されると発行が繰延べされた分も含め7-9月に1兆ドルの短期債が発行される。FRBが資金吸収をしている中でこの規模の消化はかなり厳しい。機関投資家は5%以上の利回りが付くおいしい債券なので即買うだろうが、その分、長期債あるいは他の物件を買う資金が減るので、しわ寄せがくる。厳しく見れば、80年代以来のクラウディングアウト(財政資金の調達で、民間の資金調達がはじき出される)という事態になりかねない。当然株式市場にはネガティブである。

最近の半導体関連の上げは、根拠薄弱である。NVIDIAの好決算は認めるが、それ以外の半導体需要や市況が回復する見通しは、今のところ全く立っていない。むしろ一段と悪くなる方向に向かっている。どうしてそういう状況なのに上がっているかと言えば、やはり投機筋のケンカであろう。弱気筋が積み上げたショートポジションがミエミエであるため、無理やり押し上げれば資金力の弱い売り方は踏み上げさせられる。NVIDIAの決算はまさにその踏み上げを仕掛けるための絶好のチャンスを提供したのだ。

5月連休明け以降のアドバンテストやレーザーテックなどの日本の半導体銘柄の上げも米国系投機筋の仕掛けによるものと見られる。少なくとも業績面からは急騰を裏付ける動きはない。踏み上げが終われば急速な反動がありうるのではないか。

バリュー系投資家には迷惑な上げ方

連続性を重視していると標榜する日経225は、本日31560円まで上昇し、90年以来33年ぶりの高値となったが、銘柄の構成及び各銘柄の比重を見れば、似ても似つかず、このような表現は有害無益である。225よりはTOPIXの方が連続性という点ではずっとましであるが、こちらも33年ぶり高値となっており、日本株の回復は本物と断言できる。

今年に入ってからは外国人投機筋による225先物の買い越しが目立っているほか、中国証券系ETFで225連動型が人気化し、異様な値動きをしていると伝えられる。この実態を指数管理者である日本経済新聞社が知らないとは思えないが、責任者が無知なのか、実情を熟知している現場担当者が、左遷を恐れて口を閉ざしているのだろうと思う。

筆者の予想に基づく225採用銘柄の純利益は36兆円強。その先週末時価総額は514兆円弱。予想PERは14.25倍、PBRは1.262倍であった。これは確かに割安に見える。しかし225は単純平均インデックスであり、各銘柄のみなし株価、みなし一株益、純資産の合計でPER等の株価指標を計算しなくてはならない。

馬鹿正直にこれをやると、225の株価合計は912299円、なので1000株ずつ(=1バスケット)買うと9億1230万円になる。一株利益の合計は44090円、純資産の合計は508973円なので、PERは20.69倍、PBRは1.792倍になってしまう。本日終値では一段と高くなる。

少なくともこれを割安と称するには抵抗を感じるはずで、メディアに登場する、ストラテジスト、アナリストを自称する方々がどれほど勉強不足で、自身が日経新聞の数字に惑わされると同時に、投資家を誤って誘導しているか、よく理解できるだろう。現状をより正確に表現すれば、225は値がさ銘柄を中心に、過大評価または将来期待を先取りしている銘柄が多数含まれるが、発行株数の多い銘柄には株価指標が低いものも多く存在する、といえるだろう。前者は短期売買用、後者は長期投資向けということができる。

外国投機筋が225を大きく買い上がると、当然TOPIXも上昇する。年金などは概ねTOPIX連動で日本株を保有しているが、資産ごとの運用比率(アロケーション)をあらかじめ決めていることが多い。基準比率を超えるとその分を自動的に売りに出す。結果的に、225が大きく上がると年金等がTOPIXを売りに出すから、NT倍率が上昇するのである。

225が華々しく上がってもTOPIX型で幅広く売り物が出てくるので、半導体関連以外の銘柄は伸び悩み、下手をすると値下がりする。バリュー系中心の投資家にとってははた迷惑な現象で、フラストレーションが溜まりやすい相場展開だが、いずれ逆転することなので、気長に待つ姿勢が重要だ。調子に乗って、ロングショート系のヘッジファンドがバリュー系に空売りを入れた結果、必要以上に値下がりすることがある。余裕資金のある投資家はすかさず拾っておかれることをお勧めする。 (了)

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