こんな金融商品にご用心
日本と大違いのデリバティブ救済【下】
英国では71%の顧客に利息も賠償

公開日: : 最終更新日:2016/04/25 損する前に読め!, 無料記事

楠本 くに代 金融消費者問題研究所代表

前回、英国におけるデリバティブ商品の被害について、銀行による損害賠償に至った2つのケースを紹介しました。

では、このような救済を可能とするスキームとはどのようなものなのでしょうか。その概要と救済の現状を眺めてみましょう。

1年弱で1万7000人の契約を見直し

2012年に英国のFSA(英金融サービス機構、現在は金融行為監督機構FCAに権限を譲渡)は金利ヘッジ商品(IRHPs、Interest rate hedging products)の販売に関し、過失があったと判断しました。2000年に成立した金融サービス・市場法404条には、認可業者のルール違反が広範・常時に渡るという証拠が認められた場合、大蔵省の認可により、FSA(FCA)がスキームを設立し、過去の業務の見直しや損害賠償について定めることができるとの規定が置かれています。

金利ヘッジ商品を販売していた銀行は、ソフィスティケートされていない顧客(洗練されていない顧客、すなわち、金融商品について、十分理解し判断する能力があるとは思われない顧客)に2001年以降、販売された当該商品の販売方法の見直しを行うことに同意しました。

全面的な見直しは2013年5月に始まりました。見直しの進捗状況は定期的にFCAのホームページ上に発表されています。2014年11月時点で発表されている情報によると、関連9行すべてが2014年3月までに見直しを希望した顧客の契約の見直しを終了し、ほぼすべての顧客に損害賠償に関わる書面を配送しました。

17,000名の顧客に文書を送り、そのうちの14,000名の顧客に賠償の申し出がなされました。残り3,000名の顧客に関しては、「ルールにしたがって販売されているのでなんらの損害も生じていない」旨の調査結果報告がなされています。10,000名の顧客が既に賠償金を受け取り、その総額は15億ポンドにのぼります。この数字は、71%の顧客が、申し出を受け入れたことを意味しています。早い時期に見直しに取り組んだ銀行に関わる申し出は90%近くが受け入れられています。

間接損害として利息8%を支払い

ちなみに、15億ポンドの賠償金には、間接損害3億ポンドが含まれています。

基本的な損害額として、金利ヘッジ商品に対して実際に顧客が支払った額と、違法な販売がされなかった場合に顧客が支払っていた額との差額がありますが、加えて、この基本的な損害額が得ていたはずの利益や利息、またはその額の融資を受けるためのコスト、すなわち機会費用が間接損害として支払われるのです。一般的には利息8%に設定されています。5年以上前に契約した顧客に関しては、利息が損害賠償額の40%にのぼります。損害が8%の利息を超えると思われる顧客は、間接損害のクレームを提起することができます。利息のほかに、銀行に支払った手数料や法的費用、税等が間接損害として計上されます。

15億ポンドの賠償金以外に銀行が負担しなければならない費用は、将来顧客が支払ってくれたであろう金額、見直しの実務を担当する3,000名の被雇用者に支払う費用、調査官に支払う費用等です。

2014年3月以後、さらに1,500名の顧客が見直しの対象となり、そのうちおよそ1,200名の顧客に関し、決定が出されています。残りの顧客に関しても、2~3ヶ月後には見直しがなされる見通しです。残りの顧客もできるだけ早く見直しに参加するよう呼びかけられています。見直しは、年末までに終えることが望まれています。

なお、金利ヘッジの中で、スワップ(固定金利と変動金利の交換)や仕組みカラー(基準金利と時々の金利との差額を受け取る権利を売買するデリバティブ取引の組み合わせ)に関しては、自動的に見直しがなされますが、キャップ(オプション料を支払うことで、その時の金利が上限金利を上回った場合に差額を受け取れる)についてはさほど複雑ではないため、苦情の申し出をした顧客のみが見直しの対象になります。問題がある場合には、できるだけ早く申し出をするよう注意喚起がなされています。現在までに、キャップの契約をした顧客は計7,400名おり、そのうち1,400名が、苦情の申し出をしています。

今後、銀行の申し出を受け入れた顧客にも、銀行は引き続き接触を続け、決定のより詳細な情報を説明し、質問をうけ、必要に応じて、情報の提供を行っていくこととなっています。間接損害の額についての顧客のクレームについても対応していきます。

中立的立場で専門家が関与 

見直しにおいては、個々の事案について中立的立場の調査官により検証・承認されなければなりません。

中立的立場の調査官(independent reviewer)は金融サービス・市場法166条に定められています。主として、会計事務所、コンプライアンス・コンスルタント業、法律事務所等から銀行が選考し、FCAが任命または承認します。損害賠償ならびに過去の業務の見直しのすべてのプロセスに関わり、FCAに報告書を提出する責任を負っています。関連認可業者との利害関係がなく、職責を果たすにふさわしいスキルを持つ者であることが要件となっています。

行動できない被害者も自動的に救済

日本で行われているようなADRや訴訟では、あくまでも一定の意識をもって自ら進んで申し出をした顧客の救済に止まります。そのため、水面下にいる、被害を被害と認識できない被害者、あるいは、諸般の事情から救済のための行動に踏み出せない多数の被害者が見捨てられてしまいます。

しかし、英国のスキームでは、そうした類の被害者が、自動的に見直しの対象となります。日本で採用されているような過失相殺(購入した方にも過失があるとして、損害賠償額を減額する)もなく、不正を不正として糾弾し、「誤った販売がなかったら顧客はどう行動したか」という基本に戻って損害賠償の決定が出されます。機会費用として8%の利息が付されていることにも、新鮮な驚きを禁じえません。

このスキームによる救済行動と、被害の世論への周知、FCAの厳しい姿勢等があいまって、銀行が自主的に、ハイリスクだったり・複雑だったりする商品を、そのような商品を十分理解し、判断する能力があるとは思われない顧客に販売することを中止するという二次効果も生じています。

日本ではNISA等新たな制度により、金融商品の取引に熟練していない顧客の市場への参加が行政主導で進められている現在、行政が積極的に関与する救済システムを検討することが必要ではないでしょうか。

 

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