こんな金融商品にご用心
日本と大違いのデリバティブ救済【上】
英国は行政主導で全件見直し
楠本 くに代 金融消費者問題研究所代表
英国でも、日本と同様、デリバティブ商品、なかでも金利ヘッジ商品に関わる被害が多発しています。しかし、裁判やADR(裁判外紛争解決手続き)で個々の事案の救済対応がなされている日本と異なり、英国では、行政が積極的に関与して、一括救済がなされています。
まず、その実態を眺めてみましょう。
【ケース1】全面的に解約し、損害賠償
小規模企業が、金利のみを支払い、最後に元本を一括返済する5年物ローンを申請した。その際、銀行は、金利変動リスクに対応できる商品があると紹介し、ストラクチャード・カラーの購入を勧めた。
ストラクチャード・カラー(structured collar、仕組みカラー)とは、基準金利とその時々の金利との差額を受け取る権利を売り買いするデリバティブ取引を組み合わせたもの。金利が上昇しても支払いは増えず、また、デリバティブ取引で必要になるオプション料が抑えられている。
その後、金利が低下し、商品の仕組み上、月々の支払いが増えた。
この契約について、銀行側に販売時の過失がなかったかがどうか、見直しがなされた。見直しの結果、この仕組み商品は、この顧客が理解するにはあまりに複雑すぎるとして、銀行は損害賠償に合意した。
損害賠償の額は、顧客が契約しなかった時点に立ち戻り、決められた。銀行は調査の結果、「もし顧客がこの金利ヘッジ商品の仕組みを理解していたら、購入していなかっただろう」との結論に至り、中立的立場の調査官がこれに同意したためである。
銀行による損害賠償の具体的な内容は以下の通り。
- 支払額(基本的損害)100,000ポンド
- 年8%の金利分 20,000ポンド
- 銀行に支払った手数料 800ポンド
【ケース2】 代替商品により損害賠償
小規模企業が、金利のみ支払い、最後に元本を一括返済する10年物ローンを申請した。金利ヘッジ商品を買うという条件に顧客が同意し、月5,000ポンド支払う10年物スワップの契約が成立した。
その後、金利が下落したが、ローンとスワップを維持するために、5,000ポンドの支払いを続けざるを得なかった。顧客はスワップを解約し、金利低下のメリットを享受して月々の支払額を減額することを望んだが、銀行から、そのためには違約金200,000ポンドの支払いが必要といわれた。
銀行と調査官は、顧客はこの違約金について明確でフェアな情報を与えられていなかったとの結論に至った。さらに「たとえ違約金の情報を与えられていても顧客は契約をしていたであろうが、10年物ではなく5年物を選んでいたであろう」という点で同意し、5年物スワップ契約に切り替えた。
銀行による損害賠償の具体的な内容は以下の通り。
- 10年物スワップの解約
- 支払額(基本的損害) 17,000ポンド*10年物スワップの契約でこれまで支払った額と5年物スワップに支払っていたはずの額の差
- 年8%の金利分 3,000ポンド
- 銀行手数料の返金 200ポンド(5年物を契約していたら支払わずにすんだはずの額)
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