【初・中級者向き】 ワタミの株主が「油の流れる焼きそば」に怒った!
株主総会探訪記~2016~
ジャイコミ編集部
6月26日(日)午前、都内・品川駅近くの会議場・宴会場施設の入り口には、有機野菜を求める人々が列をなしていた――。
そこが居酒屋チェーン大手、ワタミの株主総会会場だった。
ワタミといえば「24時間365日死ぬまで働け」というグループ理念(2014年に撤回)、08年に起きた社員の過労自殺で、若者を使い潰す「ブラック企業」とのイメージがすっかり定着してしまった。
それに比べると何ともほのぼのとした光景だ。のぞいてみると長ネギやキクラゲ、シイタケなどの野菜が並んでいた。
2時間半に及んだ総会の内容は・・・
受付で議決権行使書を渡し会場内に入ると、今度はアイスクリームの試食コーナーがある!
人間、「無料」という言葉には弱い。10時の総会開始時刻まであと10分足らずだが、アイスクリームに群がる人々に加わり、バニラアイスを急いでかきこむ。うまい。
アイスを食した後、席に着くとすでに多くの株主がいた。全体では2000人近くの出席だろうか。子供連れの株主もいる。
そうこうするうちに清水邦晃社長ら役員の入場となった。46歳の清水社長は15年3月に社長に就任。大学在学中に和民でアルバイトを始め、中退してワタミに入社したという人物だ。
まずは事業報告から。
業績を軽くおさらいしておくと、16年3月期は売上高が前期比17.4%減の1282億円、利益面は2期連続の営業赤字(2.9億円)だったものの、純利益は介護事業の売却で3期ぶりに黒字化という結果だった。財務面は自己資本比率が昨年9月の時点で5.9%にまで落ちこんでいたが、36.9%にまで回復している。
なお、株価は下のような推移を示している。
他社の事業報告と異なる点は「労務改善状況」についての報告があることだろう。「ブラック企業」批判を受けてのことだと思われる。
それによると従業員の残業は月36.7時間で、新卒の1年内離職率は16.7%、といった数字だった。
その他には現在進めている総合居酒屋からの業態変更についての報告が行われた。
業績低迷は「料理がまずい」からではと株主が指摘
約1時間が経過した11時近くから質疑応答に入った。
出席株主から出た質問は全部で10問を超えた。「配当を10円に復配せず、内部留保に回してもよかったのではないか」「為替の影響はどう出るか」「従業員のメンタルヘルスサポートとは具体的にどういう取り組みをやっているのか」といったものだ。
一番の盛り上がりを見せたのは、株価が2120円の時に買ったという女性株主の質問だった。
ワタミのアジフライ、生を使う(毎日九州から直送される刺身でも食べられるアジ)というので、喜んで行った。ところが2、3回行くうちに冷凍になっていた。
それでしばらく行かなくなって間が空いた後に、久しぶりに行ったら衣も冷凍ものになっていた。パン粉が寝てて。一口、二口食べて、残した。娘も「こんなの出したらだめだよね」と。渡邊さん(創業者で元会長の渡邊美樹・現参議院議員)は「焼きそばはうちのはおいしい。自分も食べています」と言っていた。みなさん(役員)食べてますか? ワタミの焼きそば、油が流れていますよ。
多くの人は健康に気をつけるようになっている。私は食べません。株主優待券をあげた姪からは「おばちゃん、(ワタミ)もうダメね。(株を)早く処分した方がいいのでは」と言われた。経営者の方は業績が悪いというけど、お料理がまずいから(お店にお客が)行かないんですよ。
これには清水社長も結構こたえたようだ。シンプルな指摘がゆえに鋭く突き刺さる内容だ。清水社長はこう返すのがやっとだった。
これはご意見というより、お叱りですね。我々は外食産業なので、お客さまに「おいしくない」と言われたら、やっている意味がない。ただ、真摯に向き合っていることは信じてほしい。
現実にそうなっていないのは僕らの力不足ということだと。これはお叱りとして、戒めの言葉として受け止めます。
この社長ら役員は店舗を回っているのか、料理を食べているのかという指摘は他の株主の心に火を点けた。
女性株主の後の質問者からも「フランス料理やすし屋に行くならワタミで食事をせよ」といった声が上がり、清水社長が「びっくりするほど(フランス料理などには)行っていません。たまには行きたいなと思うくらい」と応酬する場面がみられた。
質疑応答の終盤には議長不信任の緊急動議が男性株主から出された。期末まで残すところ3か月余りの時点で出した業績計画すら守れない清水社長は誠意が欠けるというのが主な理由だ。
しかし時刻はすでに12時30分近く。良し悪しは別にして率直に言うと、ネチっこい質問に出席株主は興ざめしていた。緊急動議はあっさり否決。その後、12時45分に総会は終了した。席を立つと再びアイスに群がる人々が目に入った。
株主様は味方なら、従業員は何?
出口の近くには、新たなCI(コーポレートアイデンティティー)に基づいたロゴマークが飾られていた。
そこには「ここ数年、株主様には本当にご心配をおかけいたしております」との文言が。
そういえば質疑応答の中で清水社長は次のように渡邉前会長とのやりとりを紹介していた。
「渡邉美樹からは『邦晃(くにあき)、株主様は味方だから声を聞いて、株主様とともに(会社を)きちんと成長させるんだぞ』と教えられた」。
ついつい思ってしまう。渡邊前会長が独りよがりに「従業員は家族だ」などと思わずにせめて「味方」くらいにとらえておけば、現在の苦境はまた違ったのではないかと。
清水社長は「従業員に寄り添う」というフレーズを何度か口にした。ここ2年ほどは「業績が悪い中で離職が進んだ」「社員が傷付き辞めていった」「店舗を閉鎖し人手不足を補おうとした」という状況だったからだ。
株主が指摘した焼きそばの油とは、従業員から流れ出た涙の暗喩だったのかもしれない――。そんな思いを抱いたワタミの株主総会だった。
なお、お土産は野菜ジュースとお食事券1000円、青汁でした。
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