こんな金融商品にご用心
株式型クラウドファンディングが解禁
未公開株解禁と同じ、被害多発の恐れ
楠本 くに代 金融消費者問題研究所代表
現在、金融取引関連の法制度が激しく動いています。
消費者保護に資すると評価できる法改正もあれば、市場の活性化のみを優先し、消費者保護を著しく後退させる法改正もあります。
なぜ法が動くのか。何が市場で起こっているのか。法の動きをよく見ればわかります。
株式型クラウドファンディングが解禁
クラウドファンディングとは、ビジネスやプロジェクトや個人等がインターネットを通じて小口の資金を多数の人から集める手段です。株式型とファンド型がありますが、ファンド型はすでに実施可能です。これまで株式型は認められていませんでしたが、2014年5月30日に今回の金融商品取引法が改正され、可能になりました。1年以内に施行されます。
2月に細部をつめた政令案、内閣府令案、自主規制規則案が相次いで発表され、パブリックコメントに付されました。筆者もパブリックコメントを提出しました。
【政令案】発行価額の総額は1億円未満、最低資本金は、株式型1000万円、ファンド型500万円。投資者保護基金への加入義務を課さない。契約金額は50万円以下。
【内閣府令案】業務管理体制整備義務、情報提供義務
【自主規制規則】電話、訪問による勧誘の禁止
投資未経験者や若者が安易に参加する恐れ
株式型クラウドファンディングとは実質、未公開株の一般への販売解禁です。被害の多発が憂慮されます。
アメリカでは、SEC(証券取引委員会)規則案で年間2000ドルまたは年収の5%のどちらか多い方を投資額の上限としています。例えば、1ドル100円として計算してみると、年収300万円の者は20万円か15万円のどちらか多い方、すなわち、20万円が投資限度額ということになります。
英国では、FCA(金融規制当局)が自ら警告を出しています。「ハイリスクで複雑、高いリターンは極めてまれ」「返金の保証はない」「50~70%ものスタートアップビジネスが破たんしており、投資額すべてを失う可能性がある」「配当は極めてまれ」「収益を生み出すまでには時間がかかる」「売買のマーケットがなく売れない」などと注意喚起を行っています。
株式型クラウドファンディングは投資経験がない人、そして若者や知識の無い人が安易に参加し被害の多発が予想される取引です。何よりも、不利益とリスクを理解させることを目的にルールを作ることが求められます。
低収入の人を保護せよ
施行令案では、上限額を50万円としていますが、米のように年収300万円の者は20万円が上限というように低収入の人たちを保護するためにきめ細かな上限金額の定め方が必要です。
例えば、年収200万円の若年層、非正規雇用者等を考えてみると、50万円といえば収入の25%にも上り、過大な投資となります。一律に上限額を定めることは、このような人たちをなんら保護することにはなりません。
契約金額の上限は施行令案の通り50万円以下とし、低収入の人たちを保護するために、さらに、収入の5%かどちらか少ない方の金額等の制限を付加する必要があるのではないでしょうか。そうすれば、200万円の年収の人は10万円が投資の上限となります。
リスクを分かりやすくストレートに表示せよ
内閣府令案では、重要情報提供義務の詳細が定められています。しかし、日本ではまだ投資教育は緒に就いたばかりです。上場株式さえ買えない消費者が大半を占めています。そのような消費者に広く未公開株を解禁するのだという事実を忘れてはなりません。
したがって、何よりもリスクや不利益を実感できるような説明方法が求められます。従来のように、たんに提供すべき情報を規定するだけでは、ネット上の情報提供としては不十分です。消費者が理解できる方法での情報提供の方法を具体的にマニュアル化すべきです。
金融商品取引法では、書面でリスク情報を提供する際に、顧客の特質に合わせて、顧客が理解できるような方法や程度で説明をしないことは禁止されています。その実効性をネット上でも担保しなければなりません。
そのためには英国のように、リスクをわかる言葉で、ストレートに表示することです。手数料の概要については「20万円投資したら、手数料が5万円で事業者の取り分となり、したがって投資額は15万円に直ちに元本割れする」、流動性に関しては「市場がないので売れず、ずっと持ち続けなければならない」などです。
リスクが高く、分かりにくい、新しい投資商品を広く一般大衆を対象に導入するのですから、これまでとは全く異なる、ウェブサイト上で一見してわかる、心にとどまる情報提供の方法を行政・自主規制機関が提示することが必要です。
投資者保護基金への加入義務がない理由
政令案では、クラウドファンディングの業者に投資者保護基金への加入義務を課さないとしています。この点については、詳細な情報を提供する必要があります。
業者が単に加入義務は課されていないと説明するだけではなく、今回なぜ加入義務が課されなかったのか、それによるリスクを投資者はどう負担するかまでを説明するよう義務付けるべきです。そのことによって投資者のリスク意識が高まるはずです。
(続く)
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