日本人が知らない中国投資の見極め方【3】
香港―上海直通列車で上がる株(上海編)
アナリスト 周 愛蓮
前回分で書いたように、香港証券取引所と上海証券取引所の株式の相互売買が、来る10月に正式スタートを切る見通しとなっている。
4月に発表してから、香港と中国本土の証券監督当局や取引所は、ルールの制定やシステムの整備に励み、9月13日に第2回のシステムテストを無事実施した。
「直通列車」の発車時刻は間もなく正式に発表するとみられ、海外の個人投資家は、香港市場を経由して、上海市場の株式を自由に売買できるようになる。
中国株式市場にとって歴史的出来事であるのは言うまでもない。
外国投資家の中国市場での投資機会が拡大
上海と深セン市場を合わせて、中国のA株市場には現在、適格外国機関投資家制度(QFII)を利用して、約600億ドルが海外から入っている。
時価総額は米国と日本に次ぐ世界第3位のマーケットであり、1日の売買代金は約500億ドル(5兆円超)前後で推移している。
しかし、このQFII制度はあくまでも機関投資家向けであり、金額も制限されるため、海外投資家の中国株への投資はわずかしかない。
現在のところ、こうした海外投資家の中国市場における持ち株比率は2%未満にとどまっている。
今回の相互売買が実現すれば、当面は上海市場の568銘柄に限定されるが、一般の個人投資家も、中国市場へ直接投資できるようになる。人民元の為替レートの上昇傾向もあり、活発な資金流入が期待される。
ある米系大手証券会社は、いままでQFII制度を利用してきたヘッジファンドが一部を直接取引へ切り替え、上海株の需要を牽引すると予想する。
投資対象になっている568銘柄は、平均PER(株価収益率)は10倍未満(2014年予想)、時価総額は13兆元を上回り、上海市場の約9割を占める(いずれも9月20日現在)。
選好される銘柄とは
前回は、この直通列車の「南向け」、つまり上海から香港市場へ向かう資金が狙いそうな香港株を紹介した。
今回は、直通列車の「北向け」、つまり上海市場に向かう資金が、どんな銘柄を狙うかを分析したい。それは大きく3つに分類できる。
①産業を代表する「龍頭企業」
中国は、産業の集中度が比較的低いため、一般では考えられないほど、数多くの企業がひしめき、競争を繰り広げている。
このような環境では、その産業の1、2番手の「龍頭企業」(リーディング・カンパニー)は、技術面やコスト面などで有利なため、利益率と経営の安定度が高い。
自動車セクターだと、上海汽車(現地証券コード600104)が挙げられる。
今では年間販売台数が2000万台を超えて世界第1位の自動車市場となった中国。マイカーブームが続いているが、普及率は都市部でもまた20%ほど。今後も販売台数は10%前後で伸びると予想される。
有名な海外メーカーがほとんど参入し、合弁会社をつくり、中国ローカルのメーカーも合わせると100社ほどがひしめく。
その最大手が上海汽車だ。独フォルクス・ワーゲンや米GMとの合弁会社を傘下に率いて、年間販売台数は510万台(13年)、好調な販売で業績を大幅に伸ばしている。
13年には配当性向を高めたこともあり、1ケタの予想PERが魅力的といえる。
②国策銘柄
中国政府は、ハイテク、IT情報、環境保護などを新興産業に指定し、数々の支援策を打ち出している。
なかでも、環境保護関連産業はもっとも多くの支援策を受けている。融資の優先や金利優遇、減免税や補助金、あの手この手を使って、いまのひどい環境を改善しようとしている。
あまたの関連銘柄から、以下の3銘柄を挙げたい。
まずは鄭州宇通客車(600066)。同社はバス車体メーカーで、ブラグインバスでの市場シェアは約50%を占める。
中国の市内交通はバスが主力で、大気汚染対策として「新エネルギー車」が奨励されており、ブラグイン・電気バスへの切り替えが進まれている。
次は首創股份(600008)。汚水と廃棄物処理、水処理場の建設を営む。
水関連企業としてはA株市場で最大規模。都市人口の増加と汚水処理率の引き上げにより、汚水の処理量が今後長期間にわたり拡大する見込みで、農村部でも水の浄化需要が徐々に高まる。
3つ目が用友軟件(600588)。同社はソフトウエア開発で、企業と政府機関向けのオンラインソフト、経営管理、財務、セキュリティー開発などのビジネス・アプリケーション・ソフトを提供している。
政府機関の大半は同社ソフトを使用しているという。最近はクラウド・コンピューター・サービスに力を入れている。
③上海市場にしか上場していない銘柄
香港市場には約300社の中国企業が上場しており、代表的企業がほとんど香港に上場していると思われがちだ。
しかし、実際は上海市場だと約1000銘柄。その品揃いは香港市場をはるかに凌駕している。
例えば、急成長を続けている医薬セクターでも香港市場に上場していない銘柄がある。上海市場では数十銘柄が上場、妙味の銘柄がかなりあるが、ここでは2銘柄をピックアップしたい。
江蘇恒瑞医薬(600276)は、抗癌薬で中国トップ製薬の1つだ。麻酔薬、造影剤、輸液などにおいても強みがある。海外からの新薬導入のほか、新薬開発では中国では一流水準と言われている。
天士力製薬(600535)は漢方薬メーカー。心血管や脳血管疾病を治療する漢方の注射液や丸薬を開発・生産する。
伝統医薬が見直される中、漢方薬の保険適用範囲がさらに拡大することも同社には追い風。中長期的成長性が優れていることは最大のポイントと言える。
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