資産の数値が表すものとは?
貸借対照表を読み解く②
金融リテラシー講座「投資のための財務分析」 第5回
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
前回、会社の価値は資産サイドにあって負債・資本構成には関係ないことを説明しました。投資にあたっては、会社の価値すなわち貸借対照表の資産の価値を推定することになります。
「資産の価値、それを表しているのが貸借対照表ではないか。推定しなくとも貸借対照表の数値それが資産の価値ではないか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。貸借対照表の資産は会社の価値を構成する原材料とその価格が書いてあると思ってください。
資産の数値は部品価格の一覧表に過ぎない
いま貴方の手元にスマートフォンがあるとして、それを手に取ってみてください。そのスマートフォンを購入するにあたり、あなたはそのスマートフォンの性能書を詳しく読んだはずです。一方、そのスマートフォンを構成するためにはたくさんの部品が使われており、使われている部品とその仕入価格の一覧表をメーカーは持っているでしょう。ただし、これは企業秘密ですからわれわれ消費者が目にすることはありません。貸借対照表の性格はこの部品の一覧表のようなものです。(そして、損益計算書は性能書のようなものです。)
貴方は自分のスマートフォンに数万円かそれ以上の価値を見出しているでしょうが、部品の一覧表の合計額はあなたが見出している価値よりかなり低いでしょう。それは当然であって原材料を組み合わせることで付加価値を生んでいるからです。しかし、貴方が不注意でそのスマートフォンを壊したとします。見た目は変わらないのですが、機能しなくなったスマートフォンの価値はどうなるでしょうか。書類が風に飛ばされないための重しには使えそうです。そうなると同様のものが100円ショップにありそうですから価値は100円でしょうか。そんな極端な話でなくとも、十分使いきれていなければ価値は数千円になっているかもしれません。
スマートフォンの価値は使い方によって数万円かそれ以上の状態から最悪100円まで変動しますが、部品の一覧表の合計額は常に同じです。部品の一覧表がスマートフォンの価値を表している訳ではないのです。
会社の価値は貸借対照表で言えば資産サイドにあるのですが、貸借対照表の数値はスマートフォンの部品の一覧表のようなものです。したがって、会社の価値と貸借対照表の数値は一致しなくともおかしくありません。というか一致しないのが普通です。
PBR1未満とは、完成品が原材料費より安い会社
簡単な数式で表すと会社の価値はつぎのようになります。
(1)会社の価値=貸借対照表の資産 + α
これを負債・純資産の側で表示すると
(2)会社の価値=貸借対照表の負債 + 貸借対照表の純資産 + α
式(2)の右辺を時価にすると
(3)会社の価値=負債の時価総額 + 株式の時価総額
負債の時価総額は貸借対照表の数値と同じだとし、式(2)と(3)からそれを整理すると、
(4)α = 株式の時価総額 - 貸借対照表の純資産
式(4)から言えることは、株価が1株当り純資産を割っている会社、すなわちPBRが1未満の会社はαがマイナスであるということです。一般的な製品では、原材料価格より完成品の方が価値があるのですが、会社をひとつの製品と看做せば、αがマイナスということは、式(1)で分かるように原材料より完成品の方が安い状態です。
PBRが1未満の状態は、①経営者の能力がない、あるいは経営者の怠慢により資産ポートフォリオより価値が生み出されていない、②株式市場が間違った評価をしている、あるいは①②の両方によりもたらされています。
金融リテラシー講座 第6回 株式時価総額は会社の価値を正しく評価しているか?貸借対照表を読み解く③
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