木村喜由のマーケットインサイト
2014年11月号
2つのサプライズで割高感、利益確定を
公開日:
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マーケットEye マーケットインサイト, 木村喜由
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
驚いたことが二つ立て続けに起こった。
一つは言うまでもなく黒田日銀による超大型の追加緩和策発表、もう一つは消費税率引き上げ見送りを手土産代わりに衆議院の解散総選挙を行おうという自民党首脳の思惑である。日銀の追加緩和は消費税率引き上げを前提としており、「増税による市場への悪影響は日銀が積極的に吸収してあげるから、自信を持って上げてください」という気持ちがこめられていた。それを食い逃げするようにして、解散総選挙に向かうというのなら、議員さんたちの品格はまさに唾棄(つばを掛けてけなす)すべきものである
黒田バズーカ2で上げ余地を先食い
日銀の追加緩和はハロウィンの日に重なったため、ハロウィン緩和と呼ばれるが、やはり米国のQE2などになぞらえて黒田バズーカ2と呼んだ方が適切だと思う。市場予想の大勢は現行政策を維持、せいぜい翌年も同額の追加枠設定を公表という程度だった。ところが黒田氏は経済に対する強気見通しをひっくり返し、株式ETF買い付け枠を一気に年3兆円に拡大するなどの大盤振る舞い。中央銀行の歴史にない、正真正銘のサプライズであった。
先物オプション市場では弱気のポジションも多かったため、買い殺到で売り注文が断続的に蒸発する場面も。発表直後から深夜まで猛烈な買い戻し需要が相場を席巻し、日経225先物は発表時16,000円付近だったものが午前4時頃には17,500円付近まで買い上げられた。ドル円も一気に115.4円まで急騰した。
その後は利益確定売りで一服したが、11月8日頃から急速に衆議院解散観測が広がり、その大義名分として消費税率を先送りしその是非を国民に問うと言われた。日本国民には財政問題に暗く貧しい人が圧倒的に多いから、その決定は受けるに決まっており、与党が圧勝することは確実であろう。日銀の買い支えがあり、消費税が先送りとなれば株は上がるはずだと見て、投機筋が仕掛けて日経225は現物でも17,440円まで上昇、ドル円も一時116円台に乗せた。
これはいいとこ取りで上げ余地を先食いした公算が強い。つまり持続的な増益基調が約束されていないのに重要な目標線である18,000円手前まで来た。個別銘柄では出遅れ割安なものがまだ多数あるので拾ってもよいが、冷静な外国長期投資家は割高感から買いをストップする公算が強いので、吹き値売りを推奨する。
次元の低さに呆れる投資家も少なくない
筆者の知る限り、大きな資金を動かす投資家は内外を問わず理性的で、中長期の経済見通しもプロのエコノミストに遜色ない。そういう人々の視点で今回の一連の出来事を解釈すると、黒田バズーカ2は相当に日本のデフレ脱却が難しいという認識が根底にあり、しゃにむに資産価格を釣り上げてデフレマインドを一掃しようという意志が明確。一方で、それを土台としてスケジュール通りに消費税率を引き上げてくれという意思表示でもあった。
一方、消費税率と解散は17日の7~9月GDPなどを見てからというが、常識的には日銀が超異例といってよい緩和を実施した以上、政府が増税に応じないと非常にバランスが悪い。まして議員定数削減に頬かむりしたままで予算編成の大事な時期に増税見送りを材料に解散総選挙で圧勝を狙うというのは、非常に低次元の話で、大手の投資家で歓迎する向きは非常に少ないのではないか。
年金基金など超長期バイアンドホールド型の投資家にとっては、長期の収益見通しが改善していないのに株価だけポンと上がれば、絶好の利食いのチャンスとみて資金を別の対象にシフトさせるだろう。また短期投資家は目先の変動しか興味はなく、一定の目標に届いた後はリスク覚悟でポジションを抱え続けはしない。
買いは割安ハイリターン株を厳選
中期サイクルは10月21日が底で、通常パターンなら2~3か月後が高値、その後1~3か月調整局面を経る。ならば高値を見るまでのここ1~2か月は出遅れ株割安株の循環物色待ち伏せを狙う買いはよいとしても、買い戻し需要でここ2週間大きく上がった銘柄は乗換えが賢明である。年末以降は欲を出さず、利益確定を先行させるべきだろう。
日銀のETF買い年間3兆円というのは確かにインパクトはあるが、普通でも外国人はその程度買い越している。割高で今後の期待収益に魅力薄と見れば外国人は売ってくるので、空気に踊らされることなく、高値圏、活況場面では利食い売りをお勧めする。
まだまだ市場には総合商社をはじめ予想PERが7~8倍とか、配当利回り4%という銘柄がゴロゴロしている。下値リスクが減少したことは間違いないので、従来よりも勇気を持って預金などから割安ハイリターンのリスク性資産にシフトさせるのが正しい局面であろう。自社株買いも増勢にあるため、高値掴みさえしなければ株を持っていて悲しい思いをすることはないだろう。
(了)
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