松川行雄の相場先読み
7年ぶりの1万7000円台回復だが
テクニカルな過熱感は否定できず
松川行雄 増田経済研究所
日経平均株価が11月11日、7年1カ月ぶりに1万7000円台を回復した。
これによって、日経平均は、25日線からの上方乖離が再び9%に上昇した。
実は、2012年11月の衆院解散から13年5月の天井までのアベノミクス相場第一幕でも、8~9%というのは8日前後しかない。
昨年11~12月の「あれよあれよ」という間に上がったときでさえ、一回もなかった。このテクニカルな意味での「過熱感」は、あまり甘く考えないほうがいいと思っている。
確かに、「異常な相場」が始まろうとしているのかもしれない。だが、そうであるならば、そうと確認してからでもまったく遅くはないはずだ。
日銀が10月31日に決定した追加緩和策を少し振り返ってみよう。
今回の追加緩和策の中で示されたETF買いの規模は、3倍増しの3兆円に上る。
11月5日の反落局面において、日銀は380億円買ったことが判明している。それ以前は、140億~160億円という規模だった。
一回当たりの購入額を380億円とすると、79日分の日銀買いを公約したことと同じ。1年の市場の立会い日数が250日だから、3日に一回は日銀の買いがあるのと同じ勘定になる。
過去1年における外国人の売り越し週の売り越し額を合計すると2兆9000億円だった。これを上回る買いで日銀が独り応戦するというわけだ。
今回、日銀が3兆円と打ち出したことは、いわば、外国人の売り方に挑戦状を叩きつけたと言ってもよい。
ドル建て日経平均は横ばい圏
足元で気になるのは、裁定買い残である。おそらくすでに3兆円に乗っていると思われる。
下手をすると、たった1日で3000億~4000億円という規模で発生している可能性がある。
とすると、すでに3兆円台中盤くらいにまで増大している可能性が高い。
つまり、そろそろ、いったん天井をつけてしまいそうということだ。
もちろん、3兆円台後半、あるいは4兆円台ということもありうる。おそらく外国人、特にヘッジファンドなどは昨年11~12月のパターンを現出しようとしていると思われる。
裁定というのは、テクニカルな過熱感や株価のバリュエーションなどは、まったく気にしない動きをする。
それだけに、思わぬ急ピッチで膨張している可能性が今はある。
そもそも、外国人からみたドル建ての日経平均は、ここもとの日経平均上昇にもかかわらず、150ドルという水準にどうしても到達できずに横ばいとなっている。
外国人からみれば、ほとんど資産が拡大していないのと同じである。
これはドル高・円安のためであろうが、不思議なほど、ドル建て日経平均はまったく高値をとれずに高原状態のままだ。
日本株を増やさなければいけない積極的な動機が、今この段階ではまだない、ということかもしれない。ただ、日銀の追加緩和(黒田バズーカ2)で相場が動いてしまったので、飛び乗っているというのが実情だろう。
彼らが醒めた目でみているとしたら、ここは仕掛けてきている可能性も否定できない。
もし、本当に外国人マネーが日本株の保有比率を引き上げたいと思って買っているのであれば、もっと実弾のマネーが顕著なはずだ。
つまり、出来高がこの程度で済んでいるはずはない。
もはや円安には「不感症」?
このところ非常に気になるのは、ドルがかなりの急ピッチで上昇しても、日経平均の上がり方は思ったほどではない、ということだ。
ドル円が110円以上になってから、とりわけ日経平均の伸びもいまひとつの鈍さであることからすると、日本経済の体力としては、110円近辺が一番妥当なのかもしれない。
テクニカルな、異常なほどの過熱感というものをそのままに、ブル(上昇・強気)トレンドが続行・加速するとしたなら、たった一つのパターンしかその可能性はない。
それは、米国市場がその持ち前の楽観論を背景に、どんどん史上高値更新ラリーを続けてしまうことで、日経平均や日本株が、これ以上円安に進まなくとも(あるいは多少110円くらいまで円高に下ブレしようとも)、米国に追随する格好で楽観論だけで上昇するというパターンだ。
言い換えると、ここまで円安が進んでくれば、日本株が為替にはほとんど不感症になっている可能性があるということである。これは、ありえる。
ここに解散総選挙の観測や政府の政策発動、消費税の処理といった問題と絡んで、「政策が相場を決める」状況になっていそうだ。しかし、やはりそれは、実体から乖離した、金融市場独特のオーバーシュート(相場の行き過ぎ)だろう。
個人的には、11月11日の急騰、1万7000円台の回復、年初来高値更新には、かなり抵抗を感じる。
動かないのが一番だ。できれば、株式保有比率を落とし、警戒したほうがよいだろう。
少なくとも、11月13日のオプションのSQが終わり来週に入るまでは再び動かざること山の如しでいきたい。
一番怖いのは、「乗せられている」ことだ。
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