2015年を読む②
木村喜由のマーケット通信
半身の強気が吉

公開日: : 最終更新日:2014/12/29 マーケットEye, 有料記事サンプル ,

*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

2014年は日本では自然災害が多発、欧州や中東では政治的大事件があり、マレーシア航空の旅客機が2度も災難に見舞われたりと多難な年であったが、何とか消費税率引き上げをこなして株価は戻り高値を更新し、経済的にはまずまずの1年であったと考えている。

米国の利上げは3.75%まで15回連続も

来年のマーケットを概観すると、まず第一に重要なことは米国経済が順調に歩むなら確実に利上げが実施され、それも1度や2度ではなく、向こう3年間で10回以上の利上げが控えているという事実だろう。FRB首脳たちは、米国が2.5%成長でインフレ率が2%なら短期金利の誘導水準は3.75%が妥当と考えている。政策金利の変更は0.25%刻みが普通なので、15回連続で利上げがあるかもしれない。

しかし、それは経済が順調だった場合で、金融緩和バブルが崩壊して大きなトラブルが生じたり、デフレが再燃してまたまた金融緩和に頼らざるを得なくなったりする場面が起こる可能性はあるだろう。しかしそれは来年中になるとは思えない。現時点では年央から3回程度の利上げがあるというコンセンサス通りの見方でよいと思う。

日本は超金融緩和にアクセル

第二に重要なことは、日本経済にとって最重要なことはデフレ脱却に向けたアクセルを踏み続けることであり、それについては政府と日銀の認識が一致しているということ、すなわち10月末に決定された黒田バズーカ2の超金融緩和策により、債券ゼロ金利、株式とドル円を頑強に買い支える政策が実行されることだ。この点には議論の余地がない。

第三に重要なことは、原油など資源価格の低下で、これまでとは逆に資源国に不利に、消費国に有利に働くことだ。生産に本格的ブレーキが掛かるにはさらに原油がバレル15ドルほど下がる必要があるため来年中は低位安定となる公算が高そうだ。日本やアジア諸国には恩恵が大きい。米国も全体としてはプラスが大きいだろう。欧州は意外に原油安メリットが小さい。原発と再生エネの比重が高いためだ。

悪材料はまだ先だが、1~3月に反落サイクル

第四は中国の成長鈍化である。すでに李克強首相は中国経済の下振れ懸念を認めており、おそらく粉飾なしの成長率は4~5%に落ちていると思われるが(信頼性が高いとされる電力生産の伸びは過去半年平均で約3%)、不動産価格の下落は先進国の場合と同様に高値から半値以下になるまで止まらず、最終的に金融パニックに至る公算が強いと見られる。しかしこれも半年以内に大きなトラブルが生じる風には見えない。

大局的には円安トレンドが続き、日本企業の実体価値は一段と改善する上、株式需給はタイトなものになる。本格的な悪材料はまだ視野の範囲にはないため、株式市場には前向き姿勢で投資してよいだろう。しかし、サイクル的には1~3月中に日米ともかなりの反落場面を迎える時期に差し掛かる。強気といっても半身の姿勢程度にすべきだろう。

物価は上がらず、賃金も上がらない

安倍新内閣が発足したが、早速本日3兆円程度の追加景気対策が発表されるという。しかも法人税率引き下げも実施される方向にある。しかも3本の矢であるはずの成長戦略は実効性のあるものが出てこない。消費税率の引き上げ延期により日本国債の債券格付けが引き下げられたが、その後も様々な政策の方向性は、揃って財政悪化に向かっている。

しかし原油価格の下落と原発再稼動の方向性は疑いなく、遅かれ早かれ物価上昇率は下がるはずである。これらは日本経済の負担を軽減し、実質所得を押し上げ、経済成長にもプラスなはずなので、喜ぶべきである。しかしその間、よほど儲かっている企業以外賃金引上げに動くとは思えない。物価も賃金も上がらないのであれば、デフレ脱却の時期は先送りされるであろう。同時に、日銀が金融緩和を続ける期間も長引くことになるだろう。

デフレの大掃除はなかなかに困難

3~5年タームの長期で考えれば、ドル円相場の上昇トレンドは疑う余地がないように思える。FRBは短期金利を挙げ続ける意思が明確であるのに対し、日銀の方は物価上昇率が2%付近に上がるまでは、なりふり構わず金融緩和をすると宣言しているからだ。デフレ脱却と確認できるためには物価と賃金ともに並行した上昇トレンドが定着することが必要。これには現在ある「それが当たり前」という感覚が転換することが必要となる。

つまり物価や賃金は上がらないのが当たり前、という観念をぶっ壊す必要がある。二十数年間の株安・土地安・賃金安で社会のすみずみにまで染み付いたこの感覚を払拭することは非常に難しい。花王の新製品で大掃除すれば綺麗になるというほどお手軽ではないのだ。

安易に考える人なら、先行きドル円が150円、200円になるなら今すぐドルを買っておけばいいじゃないかと言い出す。いいですよ、それでドルベースで値下がりしない資産を買うことが出来るなら。あるいは、全財産の5%以内をドル転(円預金をドル預金に変えること)する程度なら。残念ながら、相場はそう簡単に希望の方向には動かないのだ。

ドル円は10円、株価は上昇分7割の反動安も

ドル円は75円から122円まで上がったが、チャートの形は3段上げの2段まで仕上げたような印象が強い。この先124円付近まで上がる可能性はあるが、いずれにせよ10円幅以上の最近経験していない強烈な反動安を想定しておくべきである。で、その時株価はどうかといえば、当然に最近の上げの7割以上を打ち消すような急落となる公算が強いのである。それは実体価値を反映しているのではなく、単純に相場のリズムや勢いで動いているだけなので、数字や論理で理解しようとしても意味がない。

新年早々赤字を出すのは嫌なので、あまりリスクを取るよう勧めたくない。大体相場というのは皆が喜ぶほうには行かないものなので、ある程度余裕資金を維持しておいて小ぶりなバーゲンセールを待つ姿勢の方が気楽だし成績もよいように思う。

来年もよろしくお願いいたします。

Vol.1259(2014年12月25日)

(了)

関連記事

今井澈のシネマノミクス

映画「ビリーブ 未来への大逆転」とトランプ再選への大リスク(第1000回)

 おかげさまでこのブログも1000回を迎えました。皆様のご支援に感謝いたします。また今回のコロナ肺

記事を読む

no image

大井リポート
10月末にかけて粗い相場展開に
ポイントは米国金利、中国、ドイツ経済

セイル社代表 大井 幸子 世界経済・国際金融市場の動向を見る上で、気になるポイントが三つある。

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「僕だけがいない街」と甘利辞任とマイナス金利

  https://youtu.be/YCio_qEdkMM 試写会で観た。藤

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「お熱いのがお好き」と急展開する日本と南北朝鮮関係、それと株

映画(第961回)2019・5・5 アメリカ映画協会(AFI)が「喜劇映画ベスト100」の第一位に

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「シン・ウルトラマン」とロシア戦費の枯渇。したたかな日本経済。日本株の6月末の買い場を狙う作戦。(第1120回)

興行収入が素晴らしいと聞いた。かつて、私の息子たちに「ウルトラマン」の主題歌を歌ってやった記憶から

記事を読む

PAGE TOP ↑