大井リポート
ギリシャはユーロを離脱する
ECBは救済から飛び火防止に転じた

公開日: : 最終更新日:2016/05/16 マーケットEye

セイル社代表 大井 幸子

2008年のリーマンショック以降、2010年から12年にかけてPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)と呼ばれる諸国では財政悪化が懸念された。特に、2010年1月にはギリシャから資本流出が起こり、11年にはギリシャ危機に発展し、欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)、IMFのトロイカ体制がユーロの攻防に全力をあげた。

このとき、ギリシャは緊縮財政を約束し、財政健全化を目指したのだが、年明けのギリシャ危機は様相が異なる。有識者はギリシャ離脱の可能性があるとみている。

 

ユーロ政治統合の時間的余裕はない

バンク・オブ・ニューヨーク・メロン銀行の通貨ストラテジスト、サイモン・デリック氏によると、欧州委員会は11年のギリシャ危機の時はギリシャを救済し、 ユーロを守ろうというファイヤーウォール(防火壁)を築いたが、今回はギリシャの周辺国に危機が飛び火しないようにウォールを築いていると説明している。 ギリシャのユーロ離脱も可能性として考えているようだ。

また、グリーンスパン元FRB議長もBBCのインタビューで、ギリシャのユーロ圏離脱の可能性を示唆し、ユーロを維持するには通貨統合では不十分であり、政治的な統合が必要であると述べている。しかし、ECB理事会には政治的統合を待つ時間的余裕はない。

担保のアテネ神殿を差し出す?

ギリシャ国債はBマイナスに格下げされ、ECBはギリシャを国債担保による流動性供給から排除したため、ギリシャは国債を担保にECBからの借入ができず、それ以外の担保(アテネの神殿など)を差し出すか、返済するかのどちらかしか選択肢はない。

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さらに、ギリシャに対するELA(Emergency Liquidity Assistance 緊急流動性支援)プログラムの期限は2月28日と今月末までで、プログラム終了とともにECBはギリシャ中央銀行を通しての支援を打ち切る。中央銀行がユーロ離脱となれば、ギリシャの銀行システムは総崩れとなり、自国通貨に戻ることになる。

ギリシャ支援打ち切りは2月末

2013年3月にキプロスが破たんの危機に見舞われたが、このときは瀬戸際でELAが作動し、セーフガードにより破たんは回避された。しかしながら、今回のギリシャ左派連合政権は、拳を振り上げたままの強硬姿勢を崩さない。破たんまでのカウントダウンが始まっている。

まさしくピケティの格差、そして中道勢力が両極分解

ギリシャではもともとオナシスのような大金持ちは国内で税金を納めず、徴税が徹底出来ない不確かな国情に加えて緊縮財政が続いたおかげで、社会的弱者の生活が貧困化し、かえって貧富の格差が拡大した。政治的にも中道勢力が両極分解し、1月の総選挙では急進的な左翼連合が政権を取り、公務員を復活させるなど社会主義的な政策が復活している。そうなると財政はますます緊迫化し、景気悪化と失業が政治をいっそう不安定化させる。

まさにピケティ先生のみならず、元祖マルクスの持てる者と持たざる者との対立と「両極分解」が経済および政治の上で進行する。そして、ギリシャ危機は、スペインや財政基盤の弱い南欧を中心にも欧州に波及するだろう。

金融市場をコントロールしようとする国家

今回イスタンブールで開催されたG20では、ギリシャのユーロ圏離脱をめぐり、各国中央銀行がいかにその火の粉を払うのかが話し合われたはずだ。

そもそも、リーマンショック以降、金融大恐慌を防ぐために、主要先進国は大幅な財政出動と金融緩和を実施し、国策として株価を浮上させ、不況からの脱却を図ろうとして来た。しかし、国家が金融市場をコントロールしようとすればするほど、市場にはイリュージョンがはびこる。

例えば、FRBでさえもが、米国国家資本主義の手先となり、ゼロ金利もインフレといった大いなる幻影を創り出しているのかもしれない。

「景気過熱→インフレ→利上げ」ではなく「インフレ→利上げ→景気浮上」

かつての景気循環から考えれば、景気が良くなり過熱気味となってインフレ懸念が出てくる、そして利上げに踏み切るというのが常識的な物事の順序だった。

今は、逆だ。人為的にインフレを起こして利上げをすることで、景気を浮上させるという「国策」が優先されている。実体経済は国策に引き寄せられるという考え方なのだ。

国策が見せるイリュージョン

ブルームバーグのFRBウォッチャーとして著名な山広恒夫記者は、「”永遠の0”金利なるか、雇用増が映す景気の山」という記事で、以下のように述べている。

経済はインフレ懸念無しのディスインフレ傾向。利上げをするには、名目成長率4−5%でないと正当化できない。1982年以降、現在を含め景気拡大局面は4回あったが、景気はなだらかに後退している。

我々はインフレだとか利上げとか、幻影を見ているのだろうか?

アベノミクスや黒田バズーカの威力についてもまた、我々はイリュージョンを追いかけているのだろうか?

元記事:大井幸子のグローバルストリームニュース

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