日本とギリシャ、同じ?違う?
アベノミクスは日本国の事業再生計画
五味廣文・元金融庁長官【上】

公開日: : 最終更新日:2015/03/16 マーケットEye, 協会ニュース ,

ジャイコミ編集部

2月25日、日本個人投資家協会の創立20周年記念セミナーが開催されました。

落語あり、丁々発止のやりとりあり、と盛況の様子を数回にわけてお伝えします。

まずはメインゲストである五味廣文氏の講演からどうぞ。元金融庁長官で不良債権問題に携わり、現在は西村あさひ法律事務所顧問を務める五味氏。現在、日本経済が置かれた状況、そしてアベノミクスをどう読み解くのか――。「アベノミクス下の金融行政」と題して語っていただきました。

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倒産寸前の日本経済

まず第一に、日本経済は倒産寸前です。資金の出し手からすると、資金を引き揚げるのか、それとも回収計画を作り、貸し手もリスクをとって進めていくかの分かれ道です。倒産処理をやってきた人間としてはそのように見ています。

端的にいえば、ギリシャです。ギリシャは2010年、政権交代で粉飾決算が明らかになりました。ユーロ使用が認められる状況でなかったのに嘘をついて入っていたのです。国債を発行しても誰も引き受けません。利回りが20%を超えます。日本ならサラ金並みです。れっきとした先進国がサラ金並でしか資金を調達できないのです。もう見放されたということです。

なぜそうなったのかといえば、ユーロ加盟時にはドイツと国債利回りは何倍も違いました。信用が違うからです。ドイツとギリシャでは、財政健全性も、経済成長力も3、4倍違います。ところがユーロ加盟でドイツ並みという裏付けが与えられました。超優良企業と同じ再建計画が実行されるとみなされたわけです。すると、利回りはスーッとさがっていって、ドイツと揃いました。本来の利回りの何分の1かで借りまくってギリシャは何に使ったのか。事業再建計画にはいっこうに使われず放漫財政です。そして危機に陥ると今度は猛烈な緊縮財政に転じました。まさにギリシャ悲劇です。

成績は悪いけれど素質はある日本

日本はどうか。財政健全性をはかるモノサシである公的債務残高の対GDP比は、220%です。さすがのギリシャもそれほど高くありません。普通の一流先進国は100%前後、ドイツは70%程度です。経済成長力は過去20年、実質成長率はゼロです。このような先進国はどこにも見当たりません。ギリシャでさえ成長率は伸びています。

それなのに日本の国債は0.5%を切る金利です。これは日銀が買う前から低かったのです。世界的な金融緩和であふれたマネーが投資先として選んだのが日本であり、円でした。

なぜ円に逃げてきたのか。素質の部分があります。成績は悪いけれど、民間の成長力は強い。租税負担率が低いので増税の決断をすれば財政は回復する。増税しても景気は腰折れしない。つまり、きちんとした経済政策をとれば日本は国債の償還能力に問題はありません。経常収支は黒字です。日本には素質がきちんとあるから、安定した資金の投資先となるのです。リターンは低いがリスクも低い、ということです。

麻酔が効いている間に第三の矢を

では、何をしなければいけないのか。素質が発揮できる政策です。これをやれば、資金は逃げていきません。過剰債務を克服する。お金を稼げるようにする。やる気がないとなれば、金融ショックが起きた時に資本逃避が起きます。日本の銀行が国債をもっているから大丈夫だとよく言われます。しかし、投機的なお金が動いた時には異常な金利上昇が起きます。

いま日銀が買い支えている間にやることをやらなければなりません。アベノミクスはそれを狙ったものです。麻酔薬を使ったのです。第一の矢(金融緩和)として2本、第二の矢(財政出動)として2本。国債マーケットは麻痺状態です。何をやっても反応しません。その間に第三の矢を実行できるかが問われています。

日本経済の“事業再生計画”のポイントは3つ。人事のリストラ、財務のリストラ、事業のリストラです。

人事のリストラは済んでいます。民主党政権から自民党政権へと代わり、安定多数を確保しました。

財務のリストラはプライマリーバランスを黒字にするための、税と社会保障の一体改革です。

事業リストラが、GDP成長を取り戻すための成長戦略です。

財務と事業を環境変化に適応させる

日本経済をめぐる環境が変わったのに、財務と事業は変わってきたでしょうか。

税収は減り続けました。日本の税収構造は高度成長期に作られたもので直接税が中心です。当時は合理的でした。競争相手がおらず、法人も個人も所得がどんどん増えていました。しかし、状況が変わったのに、社会保障を削ったら選挙に負けるから、増税したら選挙に負けるからと言って借金に逃げてきました。これが出来るかどうかをマーケットは見ています。

年寄りが多すぎるのなら、減らせばいいのです。年寄りの定義を変えればいいのです。官僚はこう考えます。年金給付額のマクロ経済スライドや高齢者の医療費窓口負担引き上げは不人気な政策ですが、しなければなりません。

第三の矢とは規制改革です。これも出来た当時は合理的な規制でした。しかし今は既得権益を守るものになっています。これを外して競争してください、というものです。

規制を外し、新たな需要にあった供給を 

日本経済の経常収支はずっと黒字です。高度成長期は貿易黒字でした。今は貿易は赤字です。大幅な黒字なのは所得収支です。外国への投融資から利子配当を得ているのです。つまり、親の世代が働いて教育投資し、遺った資産を運用してお金を稼いでいるわけです。

そのなかで輸出を伸ばすことには限界があります。競争優位があるものは伸ばせますが、海外で作った方が有利なら作ればいいのです。上がりを国内の成長に使うのならば。それができないと空洞化します。外・外投資で回るのは問題です。

国内にも投資の対象になるものはあります。環境が変わったことで発生した新しい需要です。供給を抑制している規制をとっぱえばいいのです。たとえば農業に保育所です。今は競争すると負けると思う人が規制に守られています。安倍さんの規制改革がホンモノかどうかは反対の大合唱が起こるかどうかで分かるでしょう。

経済が再生しなければ、日本の“事業再生計画”は実行できません。貸し手から見放されます。

(後半はこちら)

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