四季報の業績欄は十分なのか?
損益計算書を読み解く③
金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第15回
損益計算書のダイジェストは「会社四季報」(以下「四季報」)に載っています。「四季報」は株式投資には欠かせません。コンパクトですが、上場会社に関わるいろんな情報が掲載されています。
皆さんが「四季報」中で一番よく見るのは業績欄でしょうか。「四季報」の業績欄には過去3期または5期の実績数値と向こう2期の予想数値が載っています。会社の業績を簡単に確認できる上で「四季報」は大変便利です。
「四季報」の業績欄に載っている数値は、売上高、営業利益、経常利益、純利益などですが、これらは損益計算書の主要項目であり、損益計算書のダイジェストです。「四季報」の業績欄は本物の損益計算書に比べ情報量が格段に少ないですが、これはこれで十分使えます。保有銘柄の業績チェックや新しく投資できそうな銘柄を探す上で「四季報」を使えば効率的で時間の節約になります。
「四季報」の業績欄を見る際に留意すること、お勧めすることが2点あります。
第1に業績欄に載っていない部分に思いを馳せることです。
第2に10年くらいの長期に渡って数値を眺めることです。
第1の意味は、売上高、営業利益、経常利益、純利益の数値、これは損益計算書の数値そのものですし、主要項目です。しかし、本物の損益計算書には主要項目の間にそれぞれをつなげる情報(*)が載っていますが、「四季報」の業績欄にはそれがありません。*第13回の表1を見てください。
「四季報」の業績欄を見る際にはその載っていない部分を想像するのです。
数字と数字の“行間”に思いを馳せる
例えば、売上高が増えているのに営業利益は漸減しているなら、原価率が上がっている、あるいは販売管理費が売上以上に増加していることが考えられます。営業利益に対し経常利益がかなり小さい場合、支払い利息が増大している、あるいは輸出入にともなう為替ヘッジの損失が出ていることなどが考えられます。経常利益に対し純利益が通常より大きい、あるいは小さい場合、なにか大きな特別損益が出ている可能性があります。
下の表は、ボーリングを中心に遊技場を運営しているラウンドワンの過去4期の業績です。「四季報」2014年夏号に載っているものをそのまま表にしました。これを見てなにを感じますか。ここに載っていない部分に思いを馳せてください。
まず、売上高の変化に対し営業利益の変化が大きいです。これは売上が変化しても売上原価はあまり変化しないということです。費用のほとんどは固定費であることが想像できます。
次に営業利益と経常利益の差が大きいです。これは営業外損益がかなりの赤字であり、かなりの支払い利息があることが想像できます。しかし、営業外損失は13年3月期は改善してきており、支払い利息はこの2年減ってきていることが分かります。
次に経常利益に対し純利益が赤字、あるいはかなり小さいことが見て取れます。これは、この数年大きな特別損失を計上していることが想像できます。
この会社、自社所有していた遊技場施設を売却しそれを賃借するというかたちで資産ならびに借入金の圧縮に動いています。自社所有の施設を売却するにあたり大きな売却損(特別損失)が出ており、それにより純利益は小さくなっています。売却損は出ますが売却代金が入り、それで借入金を返済しています。したがって営業外損益は改善してきているのです。将来のことは分かりませんが、現状この会社の実力は、純利益40~50億円程度、1株当り純利益で40~50円程度と見て取れそうです。
金融リテラシー講座 第16回 四季報は最新刊だけ手元にあればいい?損益計算書を読み解く④
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
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