映画「セッション」と来週の「植木屋の地震」
今井澂・国際エコノミスト
公開日:
:
最終更新日:2015/04/27
マーケットEye 今井澂, 今井澂のシネマノミクス
映画「セッション」は、若冠28歳の監督の傑作と呼び声が高いので観に行ったが、評判通りの傑作だった。偉大なドラマーになる野心を抱いた気弱な青年が、全米第一の名門校で伝説の教師の猛烈なシゴキに会う。狂気のような練習また練習に青年は追い詰められてゆく。
教師役のL・K・シモンズがアカデミー助演男優賞を獲得。これが物凄い見物。主人公のドラマーぶりも。
来週はこのスリリングな映画と同じく、大変な出来事あるいは心配事が相次ぐ。江戸っ子の好んだジョークでは「植木屋の地震」だ。そのココロは?木(気)がもめる。
第一. 4月29日にワシントンに入った安倍首相が、恐らくこの日にオバマ大統領との首脳会談。そして上下両院合同会議での演説を行う。
第二. 4月30日に日銀が追加緩和、つまりクロダ・バズーカ3を発表するという、それなりに理由はあるものの、かなり一方的な外国人投資家の期待。
「円安・日本株買い」は終わるのか、それとも加速か
安倍さんの方は「リップサービスとして、もうこれ以上のドル高・円安は日本としては望まない」という一言が入り、2013年11月のジム・オニールの「円安、日本株買い」のシナリオが崩れる―という不安。
第二の方は、私はNYでヘッジファンドのマネジャーにレターをチラつかせて聞かれた。
2%の物価上昇を追及している日銀は現実のゼロ物価上昇をどうするのか。追加金融緩和しかない。現に黒田総裁は解釈次第だが、追加緩和を匂わせる発言はしている。ヘッジファンドの連中は「バズーカ3で日経平均2万1000円、円レート140円」。
来日した世界最大の資産運用会社ブラックロックの社長も同じようなことを言っている。また4月に入り3週続けて外国人投資家は2兆円以上買い越した。これが一転して「失望売り」にならないか。本当なら物凄い買いだがーー。ああ気がモメる。
中国の不況突入を示す10の数字
私としてはAIIB(アジアインフラ投資銀行)へ「乗り遅れた」というマスコミの扱いも、バッカじゃなかろうかと思い、これまた気にかかる。
実は今週に一番気になる統計が続々と発表されている。中国の不況突入だ。
3月を中心― (季節調整済 年率)
鉄道貨物 △21・8%
全貨物 △25・1%
銀行の融資 △75・0%
電力消費 △5・2%
鉄鋼生産 △7・2%
セメント生産 △36・8%
輸入額 △36・7%
そして先日のNHKはシャドーバンク3万社のうち1万がつぶれ、1000万人が被害を受けている、と報じた。
原因?不動産バブルの破たんだ。5大都市に住宅価格 △4・0%。
それでも7%成長?ウソに決まっている。
スフィンクス・リサーチの藻谷俊介さんによると、2015年1~3月期の実質GDP成長率は季節調整済年率で5・3%。私の見るところ3%台だ。実体経済が悪いから習近平政権はなりふり構わず、株価が上がりそうな政策を連発している。香港の株価なんて棒上げだ。危ない危ない。
バーゼル規制は回避、一安心
不安な話ばかり?
実は一つ、あるソースから将来の安心につながる情報を聞いて、すぐ私の情報源に確かめた。それは先日、黒田日銀総裁が安倍首相にオフレコで話したという銀行規制の話だ。
銀行の自己資本比率を12%から15~19%にし、「保有しているその国の国債をリスク資産とみなす」というバーゼル規制。これは独、英、仏が賛成し、米、日が反対。これを国別にその国の事情で決め、一律な先進国の銀行全体の規制にしない。このことがワカッているから、オフレコでもばれることが分かっていても黒田総裁は話したのだ、とか。それなら良かった。
大手銀行株が買われる2つの理由
ついでに。いま外国人中心に大手の銀行株が買われているが、それは二つ理由がある。
第一は秋の日本郵政グループの公開。
業態から言って成長株ではなく、まあ資産株。ところが同業で比較される三菱UFJなどは株価資産比率0・9倍で解散価値を下回っている。せめて1・5倍ぐらいになるのでは、という期待。
第二は逆張り発想。
日経平均こそ2万円と15年来の高値だが、TOPIXでは8%も下。それは東証33業種のうち11業種が過去の高値2007年6月の水準を上回っているだけ。もっとも時価総額が減少したのは銀行のマイナス13%。もう下値は乏しく、まあ出遅れだから、だからこそ、狙う。最近急速に値を上げているが、まだ上値は残していると思う。
映画のセリフから。伝説の教師が演奏を始めた楽団に言う。
「音程のズレているヤツがいる。続ける前に自己申告してみろ」。
株価全体の上昇過程で出遅れた株を狙うのも一策と思うが、いかが?
映画「セッション」と来週の植木屋の地震(第771回)
今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ
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