木村喜由のマーケット通信
決算発表ラッシュ突入、株主還元策も株価への影響は微妙
東芝が握るエネルギーの本命
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
本日(4月27日)から決算発表ラッシュとなるが、大勢は昨報の通り、「前期実績は総じて非常に良好だが今期予想は渋い」というもの。本日(4月27日)は人気銘柄の資生堂(お昼)やコマツといった中国関連株と、225寄与度上位のファナック、エレクトロンが注目された。コマツ以外はそれぞれサプライズ材料があって、今期大幅減益の資生堂は急落、引け後発表の2銘柄はともに大幅な株主還元策を打ち出したものの、ファナックの渋い今期予想、エレクトロンの大型合併取り消しは、判断に悩むところだ。
ファナックは好材料出尽くしか
ファナックは今期から純利益の60%を配当する方針に転換したばかりだが、あまりにそれに忠実で、今期配当は636.62円という前代未聞の半端な数字。今期以降、配当に加え、自社株買いで20%以内の株主還元率の上乗せを図るという。これはこれで結構だが、その金額は時価総額の0.8%ほどでしかなく、10月安値から1万円ほども上がった株価を維持するには微妙な数字。
筆者自身はファナックや安川電機の最近の業績は追い風参考記録で、某外資ファンドが大量に買ったのは高値で売り逃げを狙った陽動作戦と思っている。この会社はソニーでも情報を流してうまくやっていた。今回の発表でいったん好材料出尽くしとなる公算が強く、明日の寄付きからしばらくは予断を許さぬ動きとなろう。
エレクトロンの自社株買いは株価次第
エレクトロンにはびっくり。アプライドマテリアルズ(AMAT)との半導体製造装置の世界1、2位企業の合併に対し、米国司法省が独禁法違反となる疑いが強いとしてついにOKを出さなかったのだ。自由を尊重するアメリカだが、「営業の自由」と自由競争の結果、高シェア企業が出現するのはやむをえないとしても、巨大企業の実質独占を放置すれば、新規参入がなくなり(不当競争行為に認定)、技術革新が遅れるとともに消費者が不当価格で買わされるリスクがある――という理屈だ。
IT関連では強者が市場を丸取りする動きが幅を利かせているが、通信業とか石油とか、重要産業に対しては厳しく縛りをかける。この辺の米国の倫理観はやはり敬服に値する。
AMATは米ビジネススクールで学んだ財務スタッフがいる模様で、余裕資金はすぐ自社株買いに充て、すでに簿価で115億ドルもの自社株保有がある。破談にはなったものの株価への悪影響を抑える配慮から両社とも巨額の自社株買いを発表した。
筆者の感覚ではエレクトロンはAMATに無理やり自社株買いにつき合わされたという印象を受ける。5月14日から1年間で1200億円という自社株買いの規模だが、急いで買うつもりはなく、まあ業績もそこそこで株価が下がるようだったら買いましょうというスタンス。この業界に浮沈の激しさを熟知する経営陣が、7000円以上で買うとは思えない。
エネルギー利用高度化の本命は原子力と人工光合成
筆者は、大半の人間社会の問題はエネルギー利用の高度化とムダの抑制で解決できると思っている。その点については世界で一番愚かな国は中国だ。問題点のチェックをする暇もない急成長で、上から下まで目先の利得を追いかけ、自分が寄って立つ地盤であるはずの自然環境を崩壊し、自分を追い詰めている。それに気付いている人も多いのだろうが、大勢が自分の位置を確保するのに血眼になっているため、コストばかりが掛かる環境汚染対策に注力する者はほとんどいない。環境問題は国家主導で法整備を進め、厳しい罰則を作って取り組むほかないのに、そういう動きはまだ微々たるものである。
この件は別の機会にまた書くが、前向きな話で筆者が期待しているのは環境負担の少ない原子力発電と人工光合成の進展である。何だかんだといっても、現代の人類の消費する財物とエネルギー量は膨大で、それを賄うのに有限の地下資源を用いるという方向では、たぶん100年程度で限界が来る。人口増と生活水準の向上でやっていけない人口が7-8割に及び、人口が減っても成長を支える資源がなければ人類は滅亡に向かう。
自然エネルギーは悪くないが、密度が低いため一気に大量の熱や電力を必要とする工業用には力不足だし、供給の不安定さが安定操業や緊急時の需要にとっては致命的弱点となる。悪天候で風力も太陽光発電も助けにならないとなったら、鉄道や工場はきちんと操業することなど出来ない。大型発電機をぶん回す安定的一次電力が必要であり、ベース電源として原子力と火力発電所は不可欠だ。
東芝が人工光合成の開発を加速
太陽光をより活用しやすい形に転換するなら、太陽光により炭酸ガスを還元して一酸化炭素に転換、そこから各種の油に合成するのが一番早道である。問題は変換効率だが、昨年東芝が1.6%を達成、今後10年以内に実用レベルとされる10%台に乗せるのを目指し開発を加速させるという。石炭火力発電所で発生した濃縮炭酸ガスが原料になる。上手にやれば輸送、精製コストを節約することが出来るだろう。これなら既存のインフラが丸々生きる(その分新規投資の必要が消えてしまい、水素関連はガッカリとなるが)。
LEDにスカイアクティブ、原子力も 既存技術に革新の余地あり
26日日経の水素社会についての紙上対談で、普及は50年以上先の話と東大名誉教授の安井至氏が論じていた。株価材料にはなっても、実際のビジネスとしては依然として既存エネルギーの延長線上で考えた方が現実的だ。水素はまだよちよち歩きの段階で、70億人が依存できるレベルにない。それに比べ内燃機関でも原子力でもまだ技術革新の余地は大きく残っている。LEDやスカイアクティブのように、既存技術を磨いていくと利用効率を大幅に引き上げたり安全性を増したりすることが出来る。
皮肉なことに対談相手の水素社会促進派は東芝の田中社長。もっとも氏も自社のエネルギー関連ビジネスのメニューの一つ程度の位置付けという印象を受けた。しかし目標が立った後の直進力という点では東芝は日立をしのぐものがある。ぜひ頑張ってほしい。
Vol1292(2015年4月27日)
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
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