難問山積、疑問視されて当然の中国株の反騰
今週の経済雑誌はこぞって中国リスクを特集記事にしている。それも当然だろう。株価急落が不動産市況や自動車販売に悪影響を及ぼしてきたからだ。筆者も、中国の成長率が来年マイナスに転じる恐れが出てきたと書いたが、各方面の情報を勘案した結果、10~12月に早まる恐れがあると修正する(もちろん大本営発表ではなく、実質ベースの話)。
政府が猛然と市場介入を繰り返したため株価は小康状態を維持しているが、株価が下がった7月の電力、貨物輸送量、などの実体経済にリンクした指標や、上半期の企業決算が8月になって明らかになれば、株価が維持不能であり不動産市況もフリーフォール前夜だと考える投資家が増えるだろう。また沿岸部の工場地帯における経営者の夜逃げに関する報道にも敏感な反応がありそうだ。
中国のGDPが実態を反映していないことは「公然の秘密」だが、政府幹部の汚職腐敗の部分が除外された分だけ過小表示になっていたとの見方がある。だがそれも習政権の腐敗撲滅キャンペーンで大きく縮小しており、それも実質ベース成長率の押し下げ要因となる。いずれにしても、株価がまだ活況を続けていた5月分でさえ電力、石炭、貨物輸送量は前年並みかマイナス成長となっており、成長が急減速しているのは確実である。
政府監督外の「場外配資」巨額の信用残
中国の信用取引は、当局監督下にあるものは対象銘柄が大型の数百に限定され、残高は6月18日2兆6666億元から7月9日には1兆4500億元に減少、保証金維持率も200%超で追証がかかる130%を十分上回っているから、当面問題とはなるまい。しかし主にネットで行われる場外配資と呼ばれる監督外信用は、中小型株中心で個々の融資額は小さいものの元本に対し10倍まで融資し、残高は2兆元を大きく上回る。
大半は最高値圏で買い付いたもの。対象銘柄の多くが取引停止のままとなっているので決済不能となる可能性は格段に高く、回収は非常に難しいのではないか。その融資会社に主に資金を供給しているシャドーバンキングの存立が危ぶまれる。一段の株安に不動産市況の下落が重なると、当局の努力で火消しができるか大いに疑問だ。
もともと株式を保有し、上げ相場の序盤から参加していた資産家にとっては、株価が半値になろうがどうということがない。しかし今年になってから参加し、自分のリスクを越える大金を張ってしまった小口投機筋にとっては、政府の甘言に乗せられて危険な高値圏を掴まされたという恨みで一杯だろう。
国民に主要新聞を使って株高を煽ったのは政権当局である。口座数2億人と言われるが、活発に売買していたのはせいぜい500万人、うち実質決済不能の打撃を被ったのは200万人程度までだろう。この程度であれば中国経済の屋台骨が危うくなるとまでは言えないが、住宅価格までが下げトレンドが鮮明になると「不況」は回避困難になる。
不動産が崩れれば本物の危機
当局がいくらPKOを頑張っても、株価が企業実体からかけ離れていては維持不能だ。その直近のハードルが近く本格化する企業決算。中国企業はほとんど12月決算で、6月は重要な半期決算。どれほど数字を信用できるか疑問は残るが、少なくとも全体のトレンドを掴むことは出来る。大手企業よりも警戒を要するのは創業板と呼ばれる新興市場銘柄である。
そもそも株式市場に投機資金が集中したのはそれまでの余資運用の中心だった不動産が値下がりに転じたから。そちらも崩れると、資産家にとっては本物の危機が訪れる。毎月、新築住宅価格の動向が報じられているが、本当に意味があるのはセカンダリーマーケット、中古物件の市況である。この時期にわざわざ買う者はまずいないから、投げ物が出ればフリーフォールとなるのは必至だ。残念ながら中国でそのデータを得るのは難しい。
間接的だが感度の高いバロメーターとしては、売買が自由な香港株、香港・シンガポールのマンション市況などが参考になる。香港の住宅価格は07年以来賃金が42%上昇する間に2.54倍に値上がりしたという。もちろん中国マネーの流入が原動力だろう。5月には「蚊のマンション(超狭小)」と呼ばれる5坪で6400万円の成約があった。香港ハンセン指数は金融と不動産業比率が高いので、冷静なバロメーターになりうる。
シャドーバンキング問題が再び浮上する
一昨年、シャドーバンキング問題が注目されたが、問題はそのまま残っている。年初にマッキンゼー国際研究所が発表したレポートでは、中国の金融業を含む総負債額は07年末から約3倍に増加、GDPの282%と推計され、その主要リスクとしてこの問題が挙げられている。うち7分の1(30兆元)がシャドーバンキングと推定され、その主要投資先が今や「鬼城(ゴーストタウン)」と呼ばれる空室だらけの投資用高層マンションである。
全部ではないが、シャドーバンキングの大半は、ハイリスクハイリターンの投融資先に資金を振り向けているため、資産価格の下落にはきわめて脆い財務構造となっている。株式の下落より住宅価格の下落の方が、はるかにインパクトが大きい。最近では高利回りを謳っていたのに5年の満期償還では年率2%しか貰えなかったとか、ネット上で悪質な勧誘サイトが続出しているとの報道もある。
中国は南沙諸島、西沙諸島の不法占拠・埋め立て問題で米国から強い警告を受けているほか、ベトナムやミャンマーへの移転などで西側諸国からの投資も縮小に転じているため、外国資本による経済押上げも期待できない。国内問題が深刻化したときはいつも日本を槍玉に挙げて庶民の不満の捌け口としてきたが、今回に限ると政府に非があることは明白なので、この手は使えまい。経済問題が政治問題に飛び火し、共産党政権の運営手法に批判が高まる可能性も否定できない。習近平氏にとっては頭の痛い夏になりそうだ。
木村 喜由の『マーケット通信』
Vol1315(2015年7月21日)
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