世界景気は減速しそうだが米国は連続利上げへ
木村喜由のマーケットインサイト

日本の株式市場は堅調だが、世界的に見ると大荒れの前兆現象が見られ、先行きは楽観できない。

前回述べたように、世界のマーケットは重要な転換点を迎えようとしつつある。原油など鉱産物価格は泥沼の下げとなっているが、それが中国景気の悪化を示唆していることは明らかだ。米国株価は高値圏を維持しているが、昨年末の終値を割ってきた。シンボルであるアップル株の下げが意味するところは重要だ。

日本株の最近の上げを主導しているのはドル円と「日本株先物の買い・商品の売り」を組み合わせたマクロ系のヘッジファンド、インデックス連動型投信の残高増と見られる。長期投資家は静観、個人投資家は小幅売り越しと見られる。

強気筋の言い分は、足元業績はきわめて順調、株は為替に連動し、米国利上げが確実だから円安は続く、利益が増えれば自社株買いもあるはずだから下値はないだろう、というものであろう。

世界のマーケットは重要な転換点

世界のマーケットは重要な転換点

7月の中国経済指標に厳重注意

議論の大筋は賛成である。だが落とし穴がいくつもあり、どれかに引っかかるとシナリオは崩れる。

見方が分かれる最大のポイントは中国経済の見方だろう。
短絡的な人は、中国政府が頑張って株価を支えるから、大きな失速は起きない、ならば日本への悪影響は軽微で、日本株は買えると思うだろう。だが筆者の見方ではすでに中国経済の「崩壊」が始まったと思っている。

崩壊と言ってもリーマンショックのようにGDPが急落するという意味ではなく、GDPの半分を投資(設備、住宅、公共の合計)を占めそれがグイグイGDPを引き上げていくという経済構造が崩れるという意味である。
しかしリーズナブルな規模に調整すれば、すぐに投資は20%以上下がる。政府が必死で景気対策で支えても「投資すれば儲かる」循環が崩れた設備と住宅は失速するだろう。

また住宅価格の崩れはシャドーバンキングの焦げ付きに直結するが、それらに投じられた資金を救済する仕組みが中国にはない。いずれ日本の住専問題の何十倍かの破綻処理が必要になるだろう。
ともあれ実体経済の悪化が現れる7月分の各種経済指標の発表は厳重注意だ。

意外に強い米国の物価指標

それでも米国は9月に利上げする。おそらく12月と来年3月にも追加利上げするだろう。
消費者物価上昇率が前年比3%に乗せてくるからだ。

現在米国はほぼ完全雇用(現状の賃金水準で働く意欲のある人がすべて雇用されている状態)となっており、インフレが加速するときゼロ金利を維持することはできない。利上げ先送りとなるのは米国株価が高値から10%以上下げている場合に限られよう。

FRB(連邦準備制度理事会)は自分に火の粉が降りかかる恐れが低い状況では、自分の都合、美意識に従って行動すると考えられる。ほぼ完全雇用であることは明らか。
6月は時間当たり賃金は前年比2.2%上昇。消費者物価指数(CPI)は前年比+0.1%だが、今後半年間年率+2%のペースで上昇が続くと仮定すると、12月+2.7%、来年1月+3.4%まで上昇してくる。

これは原油急落の反動だが、凄まじい数字が見えてくる。景気の先行指標でもある株価が大きく崩れないのなら、FRBがこれを座視することはありえない。

したがって中国経済の大失速が明らかになり、世界景気への波及と株価下落につながるというブラックシナリオが実現しないのであれば、FRBは3カ月ごとに0.25%のペースで利上げする公算が濃厚と見るべきである。時が近づけばそういう見方が有力となる。

もっとも、筆者は中国リスクが顕在化してミニパニックが実現する公算が強いと見ているので、利上げがどれかスキップされる可能性はあると思う。

大幅安があった場合に安値を拾えるか

直近の米国の経済指標を見る限りでは、資源関連の市況下落に連動する分野で利益の減少、設備投資の取りやめなどのネガティブな反応がある以外、取り立てて悪い兆候は見受けられない。

しかし海外での利益比率が高い企業収益には、ドル高の悪影響が鮮明となっている。少し先を見れば原油安メリットが実体経済に広がり、消費などにプラス効果をもたらすという想像はできるのだが、今の不安定な状況では半年先の好転に賭ける投資家が多いとは思えない。

というのは、もし中国関連のネガティブ要因が噴出すれば、リスクオフに走る企業や投資家が圧倒的に多いため、過去6年公的支援に支えられてオーバーペースで拡大していた世界経済に、現在イメージされているよりずっと大きなブレーキ効果が表れる公算が大きいからだ。

グローバルに見れば、中国による投資、消費需要の恩恵はきわめて大きく、それが後退するなら国際分散投資を行う投資家とすれば見極めがつくまでポジション縮小するのが当然の行動となるからだ。

前回書いたように、総じて考えると、上値を追う展開は考えにくく、むしろ意外なほどの大幅安があった場合に安値を拾えるかがポイントになる。
不透明感が強いため、全体の構図が明らかになるまでは上下動を繰り返しながら着地点を模索するような動きになると思われ、その時間も相当長いものとなるだろう。

日本株への影響は比較的軽いと思われるが、あまり買い急がず、信頼性の高い銘柄、割安感のある銘柄への押し目買い対処を維持するのが穏当であろう。

 

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

マーケットインサイト<2015年8月号>

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