【初・中級者向き】「マイ・フェア・レディ」とトランプとキッシンジャーと米中戦争(第926回)

2018.9.24

いまシアター・オーブで上演されている「マイ・フェア・レディを観た。私は1963年の江利チエミのイライザ、高島忠夫のヒギンズ教授。1981年NYブロードウエイのナンシー・リンガムと何とレックス・ハリスン。そして今回の神田沙也加、別所哲也で三回。今回のが一番素晴らしく、台本、演出、舞台装置そして群舞、皆よかった。凄いのはイライザのコックニー(ロンドンの方言)を江戸弁それも下町弁にしことだ。

忘れるところだった。映画版(オードリー・ヘップバーンとレックス・ハリスン)は舞台より短縮版に短縮版になっているので、ストーリーの展開に難があった。今回は教授の心の中を第二幕で十分に歌い込んだので無理がない。

今回ウィキペディアで調べたら「マイ・フェア・レディ」の意味が分かった。ロンドンの高級商業地メイフェアをロンドン下町訛りで発音するとこうなる。つまり昔は高級住宅地の上流階級のレディという題で「フェア」は公平との意ではなく、「うわべだけ」のという皮肉だそうだ。なるほど。

少々余分なことを書きすぎたが、身分が厳しい英国で、花売り娘が自分の努力で道を切り開いてゆく。またマザコンの上流男が下層階級の娘に凌駕されてしまうテーマが女性ファンをしっかり掴んだのだろう。ちょうど馬鹿にされ続けてきたトランプ大統領が、どうもオバマ氏よりも、対中国で米国の国益を守るという点で、ずっと優秀らしい、という評価の変化に似ている。

最近になって一斉に中国の米国に対する知的財産権侵害を指弾する報告が方々から出ている。オバマ時代にも同じような侵害は行われていたはずだが、握りつぶされていたのだろう。

私がアレレと思ったのは、当時93歳のヘンリー・キッシンジャー元国務長官のトランプ評だった。
「とてつもない大統領の誕生である。彼の示してきたきわめて高い政治的資質、特定の団体に何のしがらみもないことなどは、傑出した大統領になる好機ととらえるべきだ。(読売新聞2016年12月27日)」。

大事なのは、対中政策のキッシンジャー氏の180度転換だろう。かつニクソン政権時代の1972年に中国を訪問。中国は「最大の老朋友」として大切にし、同氏も親中政策を推進してきた。

しかし一つの中国から米国が得たものは多かったが、今は米国を脅かすほどに大きな存在となったので「包囲するべき時が来た」と判断したのだろう。

トランプ大統領は昨年の12月2日台湾の蔡英文総統との電話会談の前にキッシンジャー氏に相談した。「一つの中国」の原則を守るべきかという質問に対し、答えは「米国の国益のためなら二つでなく三つの中国ならどうか」と答えたという。キッシンジャー氏の背後には、米国を真に支配しているあるグループがいるので、大統領当選直後から教えを仰いでいるのは当然だろう。ロシアのプーチン大統領に接近しているのもキッシンジャー戦略ではないか。

9月5日のNYタイムスの名前のわからない高官の反トランプ告発、11日のボブ・ウッドワード記者の「FEAR」刊行、それにFBI副長官の憲法修正第2第25条第4項の大統領への合法的クーデター。ともかくアンチ・トランプ活動がすごい。

しかし、しかしである。ラスムッセン調査では8月31日のトランプ支持率48%が9月21日には49%。支持は少々だが上がった。影響はなかった。一方
株価は新高値更新。1週間でダウはプラスプラス8・2%、S&P500プラス9・6%、ナスダックプラス15・7%。対中2000億ドル追加関税第3弾の最中の新高値だ。

この材料にいわば身構えていたマーケットはリスクを落とすか、ショートしていたのがカバーに動いた。
9月22日の日経夕刊に「米国株『陶酔相場の落とし穴』」というコラムがあった。私はこの見方は間違っていると考える。

米個人投資協会のセンチメント調査では9月19日は「強気」が33%。過去5年間間平均は35%だからむしろ低い。年初は50%を超えていた。メリル・リンチ調査で現金保有比率はこの18か月で最高だ。少しも「陶酔」していない。個人も機関投資家も慎重姿勢だ。

日本株も同じだ。慎重な見方を依然とっているストラテジストが結構多い。私の先生のサー・ジョン・テンプルトンの言う「不安のうちに上昇し」の段階なのだろう。私はそんな意見を見るたびにシメシメと思う。依然、強気の姿勢を変えない。

イライザの父親のドウーリトルの歌う「運がよけりゃ」の歌をどうぞ。「ほんの少し 運が良けりゃ きっとほかの誰かがやってくれる」。曲り屋たちが天井に近くなって強気になったら、私は逃げ出すことにしよう。

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