【初・中級者向き】映画「天国と地獄」と或る展開で明瞭にわかる相場の明暗 

(第959回)2019・4・14

黒澤明監督の「用心棒」「椿三十郎」に次ぐ現代もの犯罪サスペンスだ。原作のエド・マクベインの「キングの身代金」を読んでみたが、設定だけでほとんど創作だった。

ストーリーは有名なのでごく簡単に。子供の誘拐事件と製靴会社上層部の権力争いがオーバーラップしたドラマ。主人公権藤(三船敏郎)は自分の理想とする靴を作るため、筆頭株主になるべく巨額の資金を用意したが、そこに彼の子供と間違えられた運転手の息子のため代わりに身代金を支払う。

解放された運転手の息子の証言などから次第に犯人像が浮かび上がる。逮捕に至るまでのスリルが凄い。最後は権藤と若いインターンの犯人(山崎努)とのやり取りで終わる。

ご存知の通り、ニューヨークのダウ平均は4月12日に2万6412ドルで引けた。昨年1月26日の2万6616ドル、9月21日の2万6743ドルの二つの高値に迫っている。(この9月の方は10月3日、2万6800ドル台をザラ場でつけているが)

さて、史上最高値更新まで行けば、万万才だが、仮にその手前で息切れして反落すると、きわめて具合の悪いことになる。

ヘッド・アンド・ショルダーとも三尊天井とも呼ばれる典型的な大天井形成になり、その後何か月かかけて大幅下落が見えてくる。チャート上は暴落予告、である。

来週から米国企業の1~3月期の決算発表が開始されるが、2016年4~6月期以来の減益でS%P500種ではマイナス4・2%。これはすでに織り込み済み、かもしれないが、発表時には株安、かも。

史上最高値達成か、それとも暴落予告か。「天国と地獄」だろう。

ただ、ファンダメンタルズは「天国」を示唆している。3月のISM製造業景況指数も非製造業の方も、ともに市場の予想、前月実績を上回ったし、3月雇用統計もいい数字。一方懸念されていた中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)も8か月ぶりの高水準で、フシ目の50を上回ったのは4か月ぶり。中国経済の景況感は、底入れしたと考えられる。

的中度の高い金融データソリューションズの箱田啓一さんがニューヨーク・ダウの長期予測を行っている。今後についての要点は次の通りだ。

「2019年8月にいったん踊り場を迎えるが、2020年3月にかけて力強く上昇する」。

そこから先は省略するが、どうも史上最高値更新が見込まれる展開だ。

こうした展開を踏まえてか、この週末にはヘッジファンドは珍しく現物買いを入れ、円レートも円安になった。久しぶりに「円売り、日本株買い」のジム・オニールが6年前に主張し、ジョージ・ソロスが6か月で90億ドルをもうけた投資戦略のスタートかもしれない。

映画では、権藤は社内での勢力争いに敗北し、財産は差し押さえられるが、人情に感心したスポンサーが資金を出して念願の靴会社を立ち上げる。敗者復活、だ。買い遅れた投資家が現在、買い出動し始めているのではないか。

では、日本株の方はどうか。信用取引の状況からみると、需給は改善しつつある。まず信用売り残は昨年12月の6000億円台が1兆円を超えた。信用買い残の方は昨年10月の3兆1000億円が三分の一に。これに外国人投資家が参加してくれば、

売買代金が増大。200日移動平均の2万1900円を抜くと、一時市場に充満していた弱気も影を潜めてくるだろう。私はいぜん強気だ。

映画のセリフから。主任警部の戸倉(仲代達矢)が捜査会議で犯人を特定して言う。「この男を捕らえてはならん。(中略)この凶悪な犯人をその罪に相当する道は一つしかない。犯人を泳がせて(共犯二人を殺害した)犯行を再現させるんだ!」マーケットはこれと同じ。昨年前半の上げが再現されるのかもしれない。

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